東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙にベージュの模様

書籍名

ちくま新書 ひらかれる建築 「民主化」の作法

著者名

松村 秀一

判型など

224ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2016年10月5日

ISBN コード

978-4-480-06919-1

出版社

筑摩書房

出版社URL

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ひらかれる建築

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「ひらかれる建築-民主化の作法」は、先ず、居住環境形成において徐々に人々の主体性の発揮される場面が増え、多種類になってきたこの間の変化を「民主化」と呼び、20世紀以降、日本では特に第二次世界大戦後におけるその変化を3つの世代に明確に分けて捉えることで、現在私たちが置かれている時代の状況と、既に利用できる資源として持っている知識や方法を明らかにしている点に大きな意義があります。
 
具体的には、(1) 人々が、民主主義の担い手に相応しく近代的な生活を送れるような建物を遍く届けることを目標とした第1世代の民主化、(2) それまで一方向に猛進してきた近代がもたらした戦争、環境破壊、人間軽視の効率主義等の深刻なひずみを顧み、その状況から抜け出そうとする脱近代の時代精神の表れとしての動きが多様に展開されるとともに、産業レベルでは多様化や個別化と量産の両立が目指され、ある程度実現された第2世代の民主化、(3) ストックが十分な量存在する一方で、低成長の人口減少・高齢化社会の中でそれぞれの人の生き方が主題になる今日の時代状況を端的に示すリノベーションまちづくりや移住、DIY等の生活者主導の動きが活発化する第3世代の民主化、という世代構成であり、このそれぞれについて、住宅生産や建築技術史等に関する著者の長年の蓄積に基づく諸々の事実が紹介され、それぞれの歴史的な理解に説得力をもたせることに成功しています。
 
本書は、その上に立って、最終章において、第3世代の民主化の時代に相応しい生活者および専門家の振舞い方を、(1) 圧倒的な空間資源を可視化する、(2) 利用の構想力を引き出し組織化する、(3) 場の設えを情報共有する、(4) 行動する仲間をつくる、(5) まち空間の持続的経営を考える、(6) アレとコレ、コレとソレを結ぶ、(7) 庭師を目指す、(8) 建築を卒業する、(9) まちに暮らしと仕事の未来を埋め込む、(10) 仕組みに抗い豊かな生を取り戻すという10の作法にまとめて明示しています。このいわば結論部分の意義について、「生活者の想像が未来を切り開く」と題した朝日新聞 (2016年11月27日) の書評で評者五十嵐太郎氏は以下のように評しています。「日本はすでに膨大なタテモノをもち、今や大量の空き家が問題だ。そこで著者は、箱から場へ、あるいは生産者から生活者へ、という転換を示し、使い手の想像力が重要になると説く。小難しいケンチクと違い、リノベーションは専門以外の様々な人が参加できるプラットフォームになりうる。これは建築の職能が変わることで豊かな生活がもたらされる希望の書である。」
 
以上のように、本著作は生活者が住環境形成の主役になる時代の必然性とその方法を明らかにしたものである。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 特任教授 松村 秀一 / 2018)

本の目次

はじめに  建築で「民主化」を語る理由
序  章    民主化する建築、三つの世代
第1章    建築の近代-第一世代の民主化
第2章    建築の脱近代-第二世代の民主化
第3章    マスカスタマイゼーション-第二世代が辿り着いた日本の風景
第4章    生き方と交差する時、建築は民主化する
第5章    第三世代の民主化、その作法
 

関連情報

書評:
生活者の想像が未来を切り開く
好書好日-朝日新聞デジタル 評者: 五十嵐太郎 (朝日新聞掲載 2016年11月27日)
https://book.asahi.com/article/11589161
 

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