東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙にカレル・タイゲのコラージュ写真

書籍名

シュルレアリスムの25時 第2期 カレル・タイゲ ポエジーの探求者

著者名

阿部 賢一

判型など

340ページ、四六判、上製

言語

日本語

発行年月日

2018年12月19日

ISBN コード

978-4-8010-0301-9

出版社

水声社

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

カレル・タイゲ

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は、プラハのシュルレアリスムの中心人物カレル・タイゲの生涯を辿りながら、彼がシュルレアリストとして探求し続けたポエジーとは何かを検討するものである。シュルレアリスムをめぐってはパリを中心にした議論が多いが、プラハもまたパリに劣らぬシュルレアリスムの都市である。というのも、1934年にシュルレアリスト・グループが結成されて以来、現在に至るまで同グループは活動を続けており、このような連続性を誇っているのはプラハ以外にはないからである。それゆえ、本書では、1920年代、30年代のチェコ前衛芸術の動向を追いながら、グループの中心にいたタイゲの活動を振り返っていく。
 
この本の特徴の一つは、プラハのシュルレアリスムや前衛芸術を中東欧という文脈において検討した点である。第一次世界大戦後に独立したチェコスロヴァキアでは、様々な政治制度のみならず、美術館、劇場など文化的インフラストラクチャーを早急に構築することが求められていた。そのような中、タイゲらが重視した芸術潮流は構成主義であった。1920年代半ばになると、左翼系芸術家が集うデヴィエトスィルの「ポエティスム」という運動が盛んになり、理念の中心には構成主義的傾向 (建設) と詩的想像力 (ポエジー) の融合が謳われようになる。
 
このような状況下、タイゲは多面的な活動を展開する。芸術理論家としてマニフェスト、批評文などを数多く著しただけではなく、書籍の装幀家としても頭角を現す。彼が装幀を重視したのは、労働者など一般市民が所有できる複製芸術であったからである。高価なタブローは所有することができないが、すぐれたデザインの書籍であれば、自室を飾ることができるとタイゲは考えていたのである。またタイゲは、建築批評の領域でも活躍し、「ムンダネウム」をめぐってル・コルビュジエと論争を繰り広げたり、労働者の住宅問題解決を提言する『最小住宅』を発表するなど、その活動の範囲はチェコスロヴァキアの国境をはるかに超えるものであった。
 
チェコ前衛芸術の中心にいたタイゲであるが、ナチス・ドイツの保護領、さらには共産主義体制樹立により、1940年代以降、表立った活動は制限されてしまう。シュルレアリスムの画家シュティルスキーが他界し、トワイヤンがパリに渡る中、彼はシュルレアリストであり続けた。なかでも、発表する当てのないコラージュを作成しつづけ、その数は300を超える。それまでは理論家として対外的な活動を進めてきたタイゲが、内面世界の表出を行なうようになる。つまり、装幀や建築といった外の世界にポエジーを求めてきた人物は、晩年、自身の内部にポエジーを見出したのである。
 
本書は、シュルレアリスム期のタイゲの文章6点の翻訳の他、図版も多数収録しており、プラハのシュルレアリスムを知るよい手引きの書ともなっている。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 阿部 賢一 / 2018)

本の目次

序章  「埋葬」されなかった前衛芸術
第1章  デヴィエトスィル
第2章  ポエティスム
第3章  建築批評
第4章  現実をめぐる複数のイズム
第5章  流れに抗うシュルレアリスム
第6章  内的モデル
第7章  夢、コラージュ
終章  タイゲとポエジー
付録  カレル・タイゲ評論選
註 / 略年譜 / 書誌 / 図版出典一覧
あとがき
 

関連情報

書評:
『スラヴ学論集』第21号、145-149頁 (2018年)
河上春香 評 新刊紹介 『REPRE』Vol. 33 (2018年)
https://www.repre.org/repre/vol33/books/sole-author/abekennichi/
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています