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黒い表紙に光りが反射した写真

書籍名

[シリーズ統合的認知] 第1巻 注意 選択と統合

著者名

河原 純一郎、 横澤 一彦

判型など

356ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年11月

ISBN コード

978-4-326-25108-7

出版社

勁草書房

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注意 選択と統合

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人間に備わった機能としての注意とは何かということについては、100年以上にわたる研究の蓄積がありますが、いまだにシンプルな定義はありません。注意の認知心理学や関連分野に興味を持った人がもっと知りたいと思っても、注意に関して毎年1000編以上の研究論文が刊行されている現状がありますので、どこから手を付けてよいのか途方に暮れることもあるでしょう。注意に的を絞った書籍は洋書であっても極めて少なく、しかも一部の手法に限定したものか、ハンドブックの類いで大勢の著者が個別のテーマを解説したものに限られていました。そこで、長年にわたり注意研究に携わってきた経験から、何を知っておけば注意に関する研究が理解しやすくなるかを考えながら本書を構成しました。いわば注意について広く知るための道案内のようなものです。もちろん、この分野に踏み込んでいくための道は一通りではありませんので、本書独特の注意観にもとづいて案内しています。
 
頭上注意、注意不足というように、注意という語は日常生活でもよく使われます。それでも、注意が未だに定義しにくいことには理由があります。簡単にいえば、注意には多くの側面が含まれていながら、それを注意という一つの言葉でまとめてしまっているためです。例えば、運転中に必要な看板だけを選び出すという選択機能としての注意があります。これをさらに詳しく見ると、ある位置に向ける注意と、色などの属性に向ける注意にも分けられます。運転中、救急車に注意が引きつけられることもあるでしょう。これは自動的な注意の制御が関わります。同乗者の話も聞きつつ、車間距離にも気を配るのは感覚モダリティを越えた分割注意の働きです。この他にも、覚醒水準や準備状態の調整といった、持続的な注意という側面も関わります。こうした多種の認知機能を注意という語で総称しているため、注意とはいったい何なのかがわかりにくいのです。
 
本書では、注意の定義としてまず、注意とはわれわれが身の回りのものごとを認識し、適応的に行動するためのバイアスとする注意観を示します。すなわち、必要に応じて、位置や属性、感覚モダリティに重みづけをするのです。このバイアスをかける仕組みを、物体認知のための再回帰処理という枠組みから解説します。物体認知は、感覚器から入ってきた情報と、記憶の中の物体表象を結びつける働きです。このとき、注意を向けた物体認知は、そうでない場合にくらべてすばやく、正確にできます。注意は物体認知の再回帰処理を単純化する働きであるともいえるでしょう。本書はこうした注意観にもとづいて、注意と認知について論じています。なお、本書はシリーズ統合的認知全6巻のうちの第1巻であり、物体認知を扱う第2巻に続きます。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 横澤 一彦 / 2018)

本の目次

はじめに

第1章  注意とは何か
  1.1  注意を定義する難しさ
  1.2 なぜ注意が必要か

第2章 空間的注意
 2.1 わかるプロセスと注意
 2.2 空間選択手段としての眼球運動
 2.3 空間的注意を測る
 2.4 2種類の空間的手がかり
 2.5 さまざまな空間的手がかり
 2.6 注意のスポットライト
 2.7 注意の解像度
 2.8 注意をズームレンズに喩える
 2.9 さらに柔軟な空間的注意の配置
 2.10 注意が向いたところでは何が起こっているか

第3章 特徴に基づく注意
 3.1 抜き打ちテスト法
 3.2 ブロック法
 3.3 状況依存的注意捕捉手続き
 3.4 特徴に基づく注意選択と神経活動
 3.5 物体に基づく選択
 3.6 選択するということは

第4章 視覚探索
 4.1 探索のしやすさを左右する要因
 4.2 探索関数
 4.3 特徴統合理論
 4.4 特徴統合理論の修正
 4.5 探索をサポートするメカニズム
 4.6 注意の停留時間
 4.7 探した位置で起こっていること

第5章 注意の制御
 5.1 注意制御に関わる神経基盤
 5.2 注意捕捉を調べる4つの手法
 5.3 ボトムアップ説とトップダウン説の論争のゆくえ
 5.4 注意の窓
 5.5 注意制御が効くまでの時間
 5.6 注意制御と記憶
 5.7 作業記憶との相互作用

第6章 注意選択の段階
 6.1 初期選択理論
 6.2 初期選択理論の修正
 6.3 後期選択理論
 6.4 初期選択理論と後期選択理論の検証
 6.5 注意の漏れとスリップ
 6.6 知覚負荷理論
 6.7 知覚負荷理論のその先に
 6.8 希釈理論
 6.9 注意容量配分の自動性
 6.10 分割注意と二重課題
 6.11 注意の容量理論
 6.12 課題切り替え
 6.13 注意の容量・資源と再回帰処理

第7章 見落としと無視
 7.1 変化の見落とし
 7.2 非注意による見落とし
 7.3 低出現頻度効果
 7.4 その他の見落とし現象
 7.5 空間無視
 7.6 見落としは防げるか?
 7.7 注意の裏側

おわりに
引用文献
索引
 

関連情報

書評:
熊田孝恒 評 (京都大学大学院情報学研究科) 『認知科学』(2016年9月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/23/3/23_299/_article/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/23/3/23_299/_pdf/-char/ja
 
自著を語る:
機関誌『心理学ワールド』74号「イヤとキライ」の心理学 (2016年7月)
https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2017/10/74-40-41.pdf
 

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