東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

黒い表紙に青いが反射した写真

書籍名

[シリーズ統合的認知] 第5巻 美感 感と知の統合

著者名

三浦 佳世、川畑 秀明、 横澤 一彦

判型など

288ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年12月

ISBN コード

978-4-326-25112-4

出版社

勁草書房

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

美感 感と知の統合

英語版ページ指定

英語ページを見る

本書は、美しさを切り口として、感覚、知覚、認知、思考といった心の活動の統合的なあり方を明らかにしている。美しさは、誰もが体験する印象であり、人は古来より、美しさには普遍性があると直感してきた。ただし、本書は美しさではなく、美感に焦点を当てている。人はいかにして美しさを感じるのか、つまり、美しさを感じる際の特徴や処理について考えることによって、個々の美しさに共通する普遍性を捉えようというのが狙いである。快や嗜好、かわいさや面白さなどの肯定的な印象や感情、さらには不快感や嫌悪感、醜や違和感などの否定的な印象や感情にも言及していく。美感を常に包括的な知覚として捉え、印象喚起や評価判断がどのような要因によって規定され、どのように統合的な認知として判断されるのかを、それぞれのテーマに沿って考える。
 
本書は8章より構成されている。第1章では美感に関する研究の源流をたどり、第2章ではゲシュタルト心理学の「よさ」に関する研究から、情報科学や多変量解析、心理物理学的観点からの研究まで紹介し、進化論からの説明やアフォーダンスからのデザインについても言及する。第3章では、主体に焦点を当てた認知心理学における多様な理論や、感情に関わる現象を紹介する。第4章では色と形状の好みに関し、古典的研究から最新の研究までを紹介し、嗜好が生理学的側面と文化社会学的側面のいずれによっても決まることを指摘する。第5章では人は何を手がかりに、どのような情報処理に基づいて、他者に魅力を感じ取るのかという問題を取り上げる。第6章と第7章では美感の神経美学的基盤と、脳機能障害による美感の変化が語られる。前者では神経美学と言われる分野に関し、主に絵画を用いた研究による大脳皮質での情報処理過程を確認し、後者では脳機能障害による表現の変化を見ることで、脳の局所性と統合性が語られる。第8章では美感の時間特性が扱われる。マイクロジェネシス研究による1秒以内の処理の特徴から、単純接触効果や流行、文化といった長い時間軸での美感の変遷までが俎上に上げられる。

各章が少しずつ内容を重ねながら、カノンのように展開しており、美感に関心のある心理学の研究者はもとより、脳科学や行動経済学、感性工学の研究者、あるいは、美学や芸術、デザインに関心をもつ人々、さらには広く人の心の問題に関心のある人々に届くことを願っている。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 横澤 一彦 / 2019)

本の目次

はじめに

第1章 美感とは何か
  1.1 Aesthetic scienceとしての「美感」
  1.2 主体と対象
  1.3 美の実証的研究の始まり

第2章 美感研究:対象からのアプローチ
  2.1 ゲシュタルト心理学からの展開
  2.2 よさ (goodness) の定量化
  2.3 隠れた秩序
  2.4 SD法による研究:多次元からの印象把握
  2.5 進化論および比較認知行動学からのアプローチ
  2.6 アフォーダンスとデザイン

第3章 美感研究:主体からのアプローチ
  3.1 バーラインの行動主義モデル
  3.2 反転理論:評価の観点
  3.3 単純接触効果
  3.4 典型選好理論
  3.5 典型的景観と構図のバイアス
  3.6 状況の恒常性と確率論
  3.7 処理流暢性理論
  3.8 感情評価理論
  3.9 感性多軸モデル:感情円環モデルの拡張
  3.10 情報処理段階モデル
  3.11 面白さの不適合理論
  3.12 不快感・嫌悪感
  3.13 普遍性と差異

第4章 色と形状の嗜好
  4.1 美感と視覚的嗜好の関係
  4.2 色嗜好
  4.3 形状嗜好
  4.4 嗜好研究の展開

第5章 対人魅力と美感
  5.1 なぜ対人魅力研究が必要か
  5.2 対人魅力研究の対象と語用
  5.3 対人魅力に関する理論的枠組み
  5.4 対人魅力の形成
  5.5 魅力認知の時空間的特性
  5.6 顔魅力に関与する形態的要因
  5.7 対人魅力に関与するホルモンと内分泌神経系
  5.8 その他の心理学的要因
  5.9 魅力認知の脳内基盤
  5.10 対人魅力の課題

第6章 美感の神経美学的基礎
  6.1 脳神経科学としての美感研究
  6.2 神経美学の枠組みとアプローチ
  6.3 視覚芸術の情報処理過程
  6.4 脳の機能特化と美術様式
  6.5 美感の脳内基盤
  6.6 美感の客観的特性と知覚関連性
  6.7 今後の課題

第7章 美感と脳機能障害
  7.1 美感研究における脳機能障害研究の位置づけ
  7.2 脳機能障害が美感へ与える影響:感覚欠乏症
  7.3 美感と大脳半球機能差
  7.4 芸術家における脳機能障害と芸術表現
  7.5 緩徐進行性神経病変と芸術表現
  7.6 芸術家における感覚障害とその芸術表現
  7.7 精神疾患における美感と芸術表現
  7.8 美感研究における脳機能障害研究の課題

第8章 美感の時間特性
  8.1 知覚と認知の時間特性
  8.2 顔の高速処理
  8.3 絵画のマイクロジェネシス研究
  8.4 絵画鑑賞の時間特性
  8.5 選好注視と視線のカスケード現象
  8.6 比較的長い時間軸での印象の形成と変容

おわりに
引用文献
索引


 

関連情報

関連インタビュー:
知られざるアートの効用―慶應義塾大学文学部教授 川畑秀明 (ART HOURS 2019年12月)
https://arthours.jp/article/arteffect_kawabata_01
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています