東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に円形のイラスト

書籍名

「認知科学のススメ」シリーズ 6 感じる認知科学

著者名

日本認知科学会 (監修)、 横澤 一彦 (著)、 内村 直之 (ファシリテータ)

判型など

126ぺージ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2021年4月15日

ISBN コード

9784788517196

出版社

新曜社

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

感じる認知科学

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「感じる認知科学」というあいまいな書名からは、「感じる」こと、すなわち知覚を扱う認知科学研究の紹介なのか、認知科学という学問分野が今何かを「感じる」現状、たとえばAIや拡張現実など発展著しい関連領域からの影響の分析なのかなど、さまざまな内容が考えうると思う。本書では、必ずしも「感じる」ための感覚器官の仕組みを詳述するのではなく、「感じる」ことの正体を解説している。その過程で、AIや拡張現実、マーケティングや消費者行動など発展著しい関連領域への影響にも触れている。
 
「感じる」ということを改めて定義するとすれば、感覚器官から入力された外界情報を脳内で再構成して、意識にのぼるまでの過程を指す。その過程において、外界とはかけはなれた世界を構築している場合もある。にもかかわらず、私たちは正しく外界を理解していると信じがちであり、さまざまな錯覚現象やマジックの仕掛けで騙されていることに気づくと、その都度驚き、不安になってしまう。しかしながら、不要な情報を「感じない」ことで、必要な情報を迅速に捉えることができ、外界に存在する以上の情報を「感じすぎる」ことで、次々に襲いかかる事態を常に予測しながら、滑らかな行動が実現できる。このような行動原理を、私たちは日常的にほとんど意識することはないが、ロボットやAIなどで人工的に実現しようとすると、そのような「感じる」過程を正しく理解することが必要不可欠になる。一方、私たちの身近で起こっている、その正体を私たちはほとんど意識することがないので、自分自身の気分や判断が簡単に操られてしまう可能性があり、実は個々人だけでなく、大衆をも誘導することができ、非常に大きな便益を生み出す。
 
本書では、第1章では、外界に存在しても「感じない」こと、第2章では、外界には存在しないのに「感じすぎる」ことが起こり得るので、脳内に再構成される世界が外界とはかけ離れた場合が少なくないことを明らかにする。次に、第3章では、感じ取る仕組み、すなわち五感における情報処理の特徴について簡潔に説明し、取捨選択、増幅、変形された表象を脳内に再構成する過程を確認し、私たちの日常生活において、必要充分で迅速な対応を可能にする機能が用意されていることを示す。さらに、第4章では、この外界とはかけ離れ、心的表象は仮想的であり、身体や環境との相互作用によって、適応的な行動を実現していることを確認する。最後に、第5章では、私たちが感じてしまうことで、知らず知らずのうちに、情動や行動が誘導されることの意味について考える。
 
感じるという基本的な行動の仕組みでさえ、自分で思っているより無知であり、ときに不合理な判断や行動によって、個人や社会に危険な影響をもたらしかねないが、知れば知るほど、私たちの感じる仕組みが効率的で素晴らしいことを理解してもらえるだろう。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 横澤 一彦 / 2021)

本の目次

まえがき 
1章 感じない!――鈍感力
  「感じる」,「感じない」の境界
  感じていたことが感じなくなる
  感じるはずなのに感じない
   Column ノーベル賞とイグノーベル賞
2章 感じすぎ?――知覚過敏
  誰もが感じすぎ
  感じすぎる症例
  ごく一部の人が感じすぎ
   Column ポケモンショック
3章 感じ取る――感覚入力
  視覚の仕組み
  聴覚の仕組み
  触覚の仕組み
  嗅覚の仕組み
  味覚の仕組み
   Column 対側支配と分離脳
4章 感じることの正体――表象への回帰
  仮想表象
  プロテウス効果
  つじつま合わせの表象
   Column ゴーストとアバター
5章 感じて操られる――感覚訴求
  うわべに騙される――信頼性評価
  化かす仕掛け――錯覚プロジェクション
  見栄えの誘惑――フードポルノ
  誘導される行動――感覚マーケティング
   Column 私はすでに死んでいる
あとがき
文献一覧 / 索引

 

関連情報

関連記事:
植田一博 (東京大学大学院総合文化研究科 / 科学技術振興機関CREST)「シリーズ『認知科学のススメ』の刊行にあたって (『Cognitive Studies』22(3), 303-304 2015年9月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/22/3/22_303/_pdf
 

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