大航海時代の日本人奴隷 アジア・新大陸・ヨーロッパ
本書は、従来、教科書などでは取り上げられてこなかった、ポルトガル人の日本における奴隷取引の歴史に焦点をあてた本である。ヨーロッパ人の日本への来航やキリスト教布教は、いまだ、情緒的あるいは浪漫的に語られることを常とする。そこに人身売買のような生々しい事実が組み込まれることは、敬遠されることが多い。またそれだけではなく、戦前にはすでに先行研究があったこの分野の研究がほとんど進展しなかった背景には、奴隷貿易の実態を、史料の分析を通じて、より具体性をもって描くことができる研究者の不在があった。著者であるルシオ・デ・ソウザは、これまで英語や母国語でポルトガル人の奴隷貿易に関する研究を発表してきたが、日本においてとりわけこの分野についての知的欲求が高いことに鑑み、日本語で研究の一部を発表することにした。翻訳された文章の整理のみならず、内容についても、より日本人に分かり易いものとするため、南蛮貿易研究を専門とする岡美穂子が全体的に加筆した。
本書で描かれるのは、これまでほとんど知られていない、世界各地の文書館に所蔵されてきた史料を丹念に読み込むことによって明らかにされる、日本人奴隷の実態の一部である。名前や個人的背景が語られないことで、具体的なイメージに乏しかった奴隷たちの姿が、彼らの生活環境まで含めて明らかにされている。彼らのうち大半は、10歳にも満たない子供の時期に、外国人に売られたケースが多い。「年季奉公」の感覚で親に売られる者、戦争で誘拐されて売られた者、戦乱の時代に飢えて死ぬよりは、海外で生き抜くことを選ぶ者など、様々な事情で、「奴隷」となった。とくに詳細が判明する個人の人生を、ストーリー仕立てで描くことで、難解な歴史学術書ではなく、読者が、彼らの存在をより身近に感じることができるよう、あえて文体を工夫した。本書は詳細な出典注をつけることで、学術書としての機能の維持に努めたが、最も読んでほしいのは、奴隷として日本から海外に売られていった少年、少女に近い年頃の学生諸氏である。なお、ソウザ氏の最新かつ総体的な研究成果は、Lucio de Sousa, The Portuguese Slave Trade in Early Modern Japan Merchants, Jesuits and Japanese, Chinese, and Korean Slaves (BRILL, 2018) で読むことができるので、より深く知りたい場合は、図書館などで借りて読むことを推奨したい。
(紹介文執筆者: 史料編纂所 准教授 岡 美穂子 / 2018)
本の目次
第1章 アジア(マカオ;フィリピン;ゴア)
第2章 スペイン領中南米地域(メキシコ;ペルー;アルゼンチン)
第3章 ヨーロッパ(ポルトガル;スペイン)
関連情報
旦 敬介 (作家・翻訳家) 評 「経緯や暮らし読み解く」(ALL REVIEWS 2018年11月23日)
https://allreviews.jp/review/2733
この一冊 (NIBEN Frontier 2018年3月号)
http://niben.jp/niben/books/frontier/frontier201803/2018_NO3_40.pdf