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人を運ぶ象と連れていく人たちの絵

書籍名

中公選書 大航海時代の日本人奴隷 増補新版 アジア・新大陸・ヨーロッパ

著者名

ルシオ・デ・ソウザ、 岡 美穂子

判型など

256ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2021年1月8日

ISBN コード

978-4-12-110116-7

出版社

中央公論新社

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大航海時代の日本人奴隷 増補新版

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本書は既刊の同著者による『大航海時代の日本人奴隷』(中央公論新社、2017年刊) に、新章を加えて「増補新版」として出版したものです。最近、韓国語版も出版されました (https://sanzinibook.tistory.com/4266)。
 
新章では、16世紀末、秀吉の朝鮮出兵時に、日本へ連行されてきた捕虜たちのその後が紹介されています。うち多くが、当時長崎に出入りしていたポルトガル人の船で海外へと移送されました。彼等のその後はほとんど分かっていませんが、マカオに住んでいたポルトガル人の遺言状などから、その存在が判明します。また長崎では、「奴隷」として売られた朝鮮人の中にも、身請けされたり、主人から解放されて、市井の人となった人々がいました。彼等が結婚して長崎に暮らした記録などは、日本の史料からも読み解くことができます。
 
「奴隷」の歴史は、今、世界で最も注目を集める歴史的テーマの一つですが、多くの研究では数量的考察が主体で、彼等が実際にどのような環境に置かれ、どれほど地球上を移動し、その後、人としてどのような暮らしを送ったかが、史料から描き出されることは滅多にありません。本書ではそのような数量的考察、グローバル・ヒストリーの大きな文脈からは少し離れ、一個人としてどのような生涯を送ったのかをクローズアップさせることで、よりリアルに彼等の存在を読者に感じてもらえるように工夫しました。
 
最も興味深いのは、天正少年遣欧使節と一緒に日本を出国し、ポルトガルまで到着した後、17世紀になってマカオまで戻って来て、日本から亡命したキリシタンたちの面倒を見たダミアンという人の人生でしょうか。彼はポルトガル人船長の奴隷であったにもかかわらず、最後には養子のような立場になり、船長の全財産を相続、自由民になってマカオまで戻ってきたのです。なぜ彼の人生が詳細に分かるかというと、その遺言状がのこされていたからでした。彼の遺言状からは、マカオにあった亡命日本人キリシタンのコミュニティのことが少し分かります。ダミアンはこれらの日本人の生活をサポートし、必要な生活費を貸し与えていたことがその遺言状には書かれています。自分の死亡に際し、それらの債務を帳消しにすることが明言されました。
 
「奴隷」という言葉には、暗く悲しいイメージが付き物ですが、一人一人の生涯に焦点を当てた時、彼等もまた人として、喜びや悲しみを経験しながら、人類の歴史の一部を担ってきたことが分かります。
 

(紹介文執筆者: 情報学環 / 史料編纂所兼任 准教授 岡 美穂子 / 2021)

本の目次

目次
序  章 交差するディアスポラ―日本人奴隷と改宗ユダヤ人商人の物語
第1章 アジア(マカオ;フィリピン;ゴア)
第2章 スペイン領中南米地域(メキシコ;ペルー;アルゼンチン)
第3章 ヨーロッパ(ポルトガル;スペイン)
補  章 イエズス会と奴隷貿易(長崎の奴隷市場;壬申倭乱;長崎のアフリカ人奴隷)
増補新版 エピローグ(数奇な運命をたどった少年―ダミアン)

関連情報

著者インタビュー:
ポルトガル商人に毎年1000人が海外へ売られた!
著者が踏み込んだキリシタン史のタブー (『日刊サイゾー』 2021年2月14日)
https://www.cyzo.com/2021/02/post_268095_entry.html
 
自著解説:
【マイブック】『大航海時代の日本人奴隷 アジア・新大陸・ヨーロッパ 増補新版』(岡美穂子准教授) (東京大学大学院情報学環・学際情報学府ホームページ 2021年4月26日)
https://www.iii.u-tokyo.ac.jp/research/210423mybookoka
 
書評:
上別府保慶 評「日本人奴隷、海を渡る」 (『西日本新聞』 2021年9月2日)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/794486/
 
桜井敏浩 評 (一般社団法人ラテンアメリカ教会 2021年3月21日)
https://latin-america.jp/archives/47388

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