私は、2007年、国益についての日本最初の学術的概説書となる「国益と外交」(日本経済新聞社) を執筆しました。その一部は中国でも出版され、多くの書評で取り上げられました。「日本の国益」は、その延長線上にある書であり、「開かれた国益」という概念をベースにしつつ、国益の歴史的展開を辿る中で、国益の本質に迫り、不確実性の高まる時代においていかに日本の国益を確保するかを論じました。
毎年開講するゼミでは、学生たちに「国益とは何か?」と質問します。外務省や防衛省や財務省など国益に関係する官庁を志望する彼らも正解を探しあぐねるようで、回答も様々です。
しかし、政治やメディアの世界では、日々、「国益」の言葉が飛び交っています。
これほど当たり前に使われ、わかったつもりになっている言葉でありながら、深い議論がなされてこなかったテーマを筆者は他に知らない。
今日、世界では主権や「国益」が声高に叫ばれる。トランプ大統領が「アメリカ・ファースト」を連呼すれば、習近平国家主席は中国の「核心利益」は絶対に譲れないと言明する。人権の尊重や自由貿易や法の支配といったリベラルな国際秩序は悲鳴を上げている。
改めて「国益とは何か」を論じる必要があるのではないか。本書は、そんな問題意識に立った外交入門書です。
第1章で、「国益」の概念をわかり易く解説した。外交において留意すべきは、自国に国益があれば、他国にも国益があり、未成熟な国際社会にも「国際的な公益」があることを認識することである。
第2章では、古代ギリシャのトゥキディデスの「戦史」から今日のトランプ大統領の「アメリカ第一」まで、国益の歴史的展開を振り返る。
第3章では、日本の国益に重大な影響を与える米中大国関係を取り上げて、その行方を展望した。
中国台頭によってパワー・バランスが変化する。中国はアメリカを追い越すのか? 米中両大国は「トゥキディデスの罠」を回避できるのか? そうした疑問に答えた。
第4章では、日本の国益を、(1) 生存と安全、(2) 経済の繁栄、(3) 普遍的価値に基づく国際秩序、と規定し、これらの国益を脅かす3つの脅威を取り上げた。
(1) 国家・国民の生存と安全という死活的国益に関わる北朝鮮の核・ミサイルの問題
(2) 国家の主権や領土・領海に関わる尖閣諸島を含む東シナ海の問題
(3) 法の支配という国際秩序の擁護に関わる南シナ海の問題
こうした問題の本質に迫り、日本としてどう対処するのか、どう国益を守るのか、そのための戦略や政策を論じた。
戦後の日本外交の基軸は一貫して日米同盟であり続けてきた。しかし、パワー・シフトが起き、国際秩序が変化する今日、「日米同盟+α」戦略を構想し、推進する必要がある。そのαは中国を意識したものとなる。
そのことを最終章で論じた。
拙著『日本の国益』が、国益に対する読者の意識と関心を高め、日本の政治や外交のあり方を論じる上での一つのアプローチとなることを願う。
(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 小原 雅博 / 2019)
本の目次
序章 今、なぜ国益を考えるのか?
第一章 「国益」とは何か
1 「国益」という概念
2 国益と絡み合うパワーと道義
3 国内政治と国際政治における国益の立ち位置
第二章 「国益」の歴史的変遷
1 トゥキディデスの『戦史 (ペロポネソス戦争史)』が語ること
2 マキャベリズムと「国家理性」
3 国家主権とホッブズの無秩序世界
4 ウィーン体制と勢力均衡
5 パワーと国益が支配した二つの世界大戦
6 冷戦期の「戦争と平和」
7 キューバ危機と世界益・人類益
8 冷戦終結と九・一一の衝撃
9 国益最優先の時代
10 リベラルな国際秩序の瓦解
第三章 国益とパワーをめぐる大国の攻防
1 「大復興」する中国の国益と戦略
(1) 国益優先の外交へ
(2) 「強国・強軍」を目指す「中国の夢」
2 香港の「一国二制度」から台湾の統一へ
3 「一帯一路」と中国の目指す国際秩序
4 習近平時代の中国の行方
5 米中「新冷戦」と東アジア秩序
(1) パワー・シフト: 「中国はアメリカを追い抜くか?」
(2) 米中衝突
(3) 米国に求められる戦略
第四章 日本の国益を揺るがす三つの脅威
1 北朝鮮の核・ミサイルの脅威
(1) 急展開する朝鮮半島情勢
(2) 北朝鮮の意図と論理
(3) 核・ミサイルに代わる「体制保証」とは何か?
(4) 「朝鮮半島の非核化」の意味と進め方
(5) 朝鮮半島の非核化と日本の国益
(6) 米朝対話の行方
(7) 非核化は実現できるか?
2 東シナ海の対立と海の守り
(1) 日中が攻守対峙する「新常態」
(2) 尖閣諸島をめぐる対立
(3) 尖閣諸島問題の本質
(4) 尖閣諸島と日本の国益
3 南シナ海問題と「法の支配」
(1) 領有権をめぐる周辺諸国の争い
(2) 中国の「サラミ戦術」とアメリカの「航行の自由作戦」
(3) 南シナ海問題と日本の国益
終章 日本の「開かれた国益」外交
1 日米同盟と「境界国家」論
2 日本外交の選択肢
3 「日米同盟+α」
4 「日中関係のマネージメント」の難度と重要性
5 「開かれた国益」を目指して
あとがき
関連情報
(Gooブログ 2019年1月31日) https://blog.goo.ne.jp/humon007/e/e8ee401ab68900ec42dd16530749f9ec
三原朝彦 (衆議院議員) 評 (三原朝彦ブログ 2019年6月19日)
https://ameblo.jp/miharashi1192/entry-12483069728.html
レビュー (本の要約サイトFlier フライヤー)
https://www.flierinc.com/summary/1713
佐藤 優 評 (週刊ダイヤモンド 2018年)
関連記事:
小原雅博 米中露「国益ファースト」の時代に、改めて問うべき「日本の国益」 (現代新書 2018年9月17日)
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57490
関連記事:
トランプ大統領のアジア歴訪と日本の戦略 (nippon.com 2017年11月20日)
https://www.nippon.com/ja/currents/d00368/
刊行イベント:
小原雅博先生講演会 『日本の国益』(講談社現代新書) 刊行記念 (紀伊國屋書店新宿本店 2018年11月5日)
https://honyade.com/?p=71984