アメリカ合衆国の歴史を、政治と外交に焦点をあてながら、イギリス人による最初の北米入植時代からトランプ登場まで概説したのが本書である。ただし、大学の専門課程の「アメリカ史」「アメリカ政治史」「アメリカ政治外交史」などの講義の教科書として使用されることを前提に執筆されているため、骨太にアメリカの政治史の特徴を浮き彫りにすることを主な目的にしている。同時に、法学部や政経学部の政治学科、あるいは国際関係学部・学科などにおいて政治学や国際関係論を学んでいる学生を念頭において執筆されているために、入植から今日までを均等に扱うのではなく、19世紀末からこんにちまでの歴史を重視して詳しく叙述した。その方が、現在のアメリカ政治、国際政治、日米関係などの科目との関連と接続も強くなり、学生の関心にも、より正面から答えられるであろうと考えたからに他ならない。
本書のもう一つの特徴は、内政だけでなく外交についても、とくに第二次世界大戦終結後は日米関係についても、それなりに頁数を割いたことであろう。これは何より、日本の読者を想定しているからである。アメリカでは、いうまでもなく、夥しい数のアメリカ史の教科書が出版されており、その一部は日本語にも翻訳されている。しかし、同じアメリカ政治史を教えるにしても、アメリカ人学生と日本人学生では前提も目的も少なからず異なってくるであろう。日本人読者がアメリカ外交を学ぶ際、アメリカにとって、とりわけアメリカ外交において日本はどこに位置しているのかは、少なくとも潜在的には常に気になる疑問であろう。
日本でアメリカを教える際の一つの、しかし大きな障壁は、多くの人がアメリカについては十分に知っていると思い込んでしまうことである。例えば、アフリカの小国についてであれば、人は、何も知らないことを前提に虚心坦懐に学ぼうとするであろう。それに対して、わが国ではアメリカについての情報は、巷に溢れている。しかし、アメリカの建国の経緯、中世を知らずに展開してきたその特異な歴史、あるいは大統領制と議院内閣制の根本的相違など、的確に説明できる方はそれほど多く存在しないのではなかろうか。しかも、残念ながら、日本ではアメリカを教える講座も、日本にとっての、そして現実世界における重要性に比して、少ない。
本書では、いかにアメリカが1940年代までは現在とは異なった国であったかについて、それなりに強調して説明してある。基本的には、1930年代まで強大な常備軍をもつことに、多くのアメリカ人は反対であった。大きな転換点は、第二次世界大戦後に訪れた。それは世界にとって、そして日本にとって、決定的に重要な転換であった。しかも、トルーマン大統領らリーダーが下した判断や選択が決定的に重要であった。
それから約70年が経った2016年の大統領選挙では、孤立主義的なレトリックを駆使したトランプ候補が勝利し、実際にアメリカの政策を変えつつある。果たしてアメリカが元来の体質に戻ろうとしているのかどうかについては、まだ判断しがたい。ただし、リーダーの選択が大きくアメリカの方向性を変え、再び日本と世界に大きな影響を与えていることは確実である。
(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 久保 文明 / 2018)
本の目次
第2章 民主主義の民主化と内戦
第3章 産業化と多民族国家化
第4章 「フロンティアの消滅」と人民党の挑戦
第5章 革新主義の改革と帝国主義化
第6章 第一次世界大戦と孤立主義の反撃
第7章 繁栄と大恐慌
第8章 ニューディールと第二次世界大戦
第9章 冷戦の開幕と恒常的軍事大国化
第10章 冷戦の激化とベトナム戦争
第11章 デタントと大きな政府の挫折
第12章 保守化と冷戦の終焉
第13章 冷戦終結後の政治と第三の道
第14章 保守の復活とテロとの戦い
第15章 黒人大統領当選とイデオロギー的分極化
終 章 アメリカ・ファーストとエリートの敗北
関連情報
編集担当者による書籍紹介 (法学教室 No.451 2018年4月)
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/BookInfo201804-14921.pdf