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書籍名

有斐閣アルマ Specialized 戦後アメリカ外交史 第3版

著者名

佐々木 卓也 (編)

判型など

404ページ、四六判、並製カバー付

言語

日本語

発行年月日

2017年3月

ISBN コード

978-4-641-22080-5

出版社

有斐閣

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戦後アメリカ外交史 【第3版】

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『戦後アメリカ外交史』は、大学でアメリカ外交史を学ぶ人を対象に編まれたテキストであり、初版は2002年10月に出版された。9・11同時多発テロ事件が発生してほぼ1年後のことである。その後、2009年4月、オバマ大統領就任直後に新版 (第2版) が出され、2017年3月、トランプ大統領へと政権が移行したのを機に第3版の出版となった。この15年程の間にアメリカを取り巻く情勢は大きく変化した。アフガニスタンとイラクでの戦争はアメリカを疲弊させ、介入主義を牽引した「ネオコン」も影を潜めた。また、中国の勢力伸長や、EUの結束の揺らぎ、ロシアとNATOとの対立などが新たな不安定要因として浮上している。
 
今回、筆者はオバマ政権の外交に関する章を書き下ろしたが、これは容易ではなかった。オバマ外交に対する評価が人によって大きく異なっていたからである。よく言われるように、オバマ大統領はイスラームとの対話や、核兵器のない世界など高い理想を掲げ、軍事力偏重だったブッシュ外交からの転換を約束した。しかし、実際にはアフガニスタンへの増派やドローン攻撃の規模拡大など、軍事力行使を厭わない側面もあった。反面、シリアでアサド大統領が化学兵器を使用した際には、一旦は空爆する方針を表明しながらも、土壇場で外交的解決を優先させた。このような姿勢は、軍事力行使を嫌う「ハト派」と、強硬論を唱える「タカ派」の双方からの批判を免れない。加えて、政権初期に掲げたアジア重視政策は徹底されず、「アラブの春」以降の中東情勢の流動化にも十分に対応できなかった。期待が大きかっただけに、成果の乏しさが際立つのは否めない。
 
とはいえ、オバマ外交に一貫性がないわけではない。それはオバマが若い頃から傾倒してきたプラグマティズムを手がかりに考えると理解しやすい。オバマは演説やインタビューで、「いまある世界 (現実)」と「あるべき世界 (理想)」の間のジレンマをしばしば語った。人権や平和などの価値を雄弁に語りながらも、政治は選択であり、ありうる選択肢の中で、何が最良かを決めるのが自分の役割だと主張する現実主義者の側面を持っていた。それが変化するのは最後の二年。議会共和党と厳しく対立し、思うような政権運営ができなかったオバマ大統領は、任期中最後の中間選挙で「敗北」すると、開き直ったかのように大統領権限を行使して自己流の外交を推進した。イランとの核合意、キューバとの国交回復、米国大統領初の広島訪問もその一つに加えられよう。
 
脱稿したのは2016年12月、トランプの大統領当選が決まった直後であった。オバマ外交の「遺産」が覆される可能性が高まる中、評価は分かれるとはいえ、オバマ政権の8年間が「削除」されないよう、せめて教科書に書き置きたいと考えたのを記憶している。
 
それから2年。現在のアメリカ外交は混乱の只中にあるが、重要なのは、そのような時にもなお、問われるのは歴史的視点だということだ。歴史的思考を磨くためにも本書をぜひ紐解いていただきたい。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 西崎 文子 / 2018)

本の目次

第3版 はしがき
初版 はしがき
序  章 アメリカの外交的伝統——戦前期の外交
  佐々木卓也
第1章 戦後外交の起点—— ローズヴェルト、トルーマン政権期の外交
  西崎文子
第2章 冷戦の変容とアメリカの蹉跌 ——アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソン政権期の外交
  佐々木卓也
第3章 パクス・アメリカーナの揺らぎとデタント外交 ——ニクソン、フォード、カーター政権期の外交
  佐々木卓也
第4章 冷戦集結外交と冷戦後への模索 ——レーガン、ブッシュ政権期の外交
  上村直樹
第5章 新しい秩序を模索するアメリカ外交 ——クリントン政権期の外交
  大津留〈北川〉智恵子
第6章 理念外交の軍事化とその帰結 ——G.W.ブッシュ政権期の外交
  佐々木卓也
第7章 混迷する世界情勢と転換期のアメリカ ——オバマ政権期の外交
  西崎文子
終  章 岐路に立つリベラルな国際主義──トランプ
  佐々木卓也
文献案内/戦後アメリカの大統領,国務長官ほか/関連年表/事項索引/人名索引
 

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