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島の空中写真

書籍名

世界の島をめぐる国際法と外交

著者名

中谷 和弘

判型など

124ページ、A5変

言語

日本語

発行年月日

2023年7月30日

ISBN コード

9784797233544

出版社

信山社

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世界の島をめぐる国際法と外交

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本書は、島の領有や管理をめぐる国際法上及び外交上の諸課題のうち際だった特徴を有するいくつかの具体例を通じて考察したものである。国際法学においては、この主題は専ら判例研究 (国際司法裁判所判決や国家間の仲裁判決の検討) として扱われてきたが、本書では、判例を踏まえつつも、判例になっていないが、日本の領土問題を考える際に参考になりそうな事例、外交上特に重要な事例、際だった特徴を有する事例、他の文献ではふれられていない事例を優先的にとりあげている。
 
Iで検討したアブムーサ島はペルシャ湾 (アラビア湾) 内のホルムズ海峡近くにあり、UAEとイランが領有権を争っている (イランが実効的支配をしている) 島である。1971年11月のイランとシャルジャ (UAEの支邦) の了解覚書の解釈・適用がこの領有権問題に重要な意味を有している。同島が世界で最も重要な水域であるといって過言ではないホルムズ海峡の近くにあるという事実及びGCC諸国がUAEの立場を強く支持しているという事実は、この領有権問題が単なる二国間の問題ではないことを物語っている。
 
IIでは、国家間における島の売買について検討した。実際の島の売買例としては、1916年に米国がデンマークからヴァージン諸島を購入した例が知られているが、1930年台後半にチリが日本、米国、英国、ドイツにイースター島の売却を提案したことはあまり知られていない。1991年には北方領土の購入につき水面下での検討があったとされる。
 
IIIでは、モロッコの海岸近くにあるペレヒル島をめぐり2002年7月にモロッコが占拠した所、スペインが奪還したが、米国の仲介で撤退したという「危機」について考察した。
 
IV及びVは南シナ海における中国による人工島建設をはじめとする野心的な動きについて国際法の観点から検討した。「国際法違反から権利は生じない」ことが「国際社会における法の支配」においてはとりわけ重要である。
 
VI及びVIIは2以上の国家がある領域を共同領有するというコンドミ二ウムについて検討した。共同領有の島としては、以前はニューへブリデス (英国とフランスの共同領有、現在はバヌアツ領)、カントン及びエンデベリー島 (英国と米国の共同領有、現在はキリバス領) があったが、現行の共同領有の島である会議島 (フェザント島、フランスとスペインの共同領有) は、極めて面白いことに半年毎に主権が入れ替わる世界で唯一の「交代式」のコンドミ二ウムである。コンドミニウムは政治的・経済的・文化的な近似性のある国家間でのものではないと首尾よく行かず、コンドミ二ウムが領土紛争の解決策になると考えることは楽天的すぎる。
 
VIIIは、北方領土、竹島、尖閣諸島の領有権問題について、もし国際裁判で争われた場合に、オーソドックスな国際法の解釈・適用をするとどのような判示がなされるかについて考察し、あわせて国際裁判における留意事項についても言及したものである。『国家による一方的意思表明と国際法』(UTokyo BiblioPlaza) 参照。また、内閣官房領土室のホームページに掲載の拙稿「尖閣諸島、竹島、国際裁判」「国際法から見た北方領土問題」も参照。
 
本書の論考の多くは、『島嶼研究ジャーナル』に掲載されたものである。同誌には、島をめぐる諸課題について各分野から検討した諸論文が掲載されている。島に関心のある読者は是非ご覧頂ければ幸いである。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 中谷 和弘 / 2023)

本の目次

I アブムーサ島に関するイラン・シャルジャ間の了解覚書についての国際法上の考察
 
 1 はじめに
 2 了解覚書に至る経緯
 3 了解覚書の内容
 4 イランによる支配の拡大
 5 省 察
 6 おわりにかえて
 
II 国家間における島の売買と国際法
 
 1 はじめに
 2 米国によるデンマークからのヴァージン諸島の購入
 3 チリによる日本,米国,英国,ドイツへのイースター島の売却提案
 4 省 察
 
III 2002年のペレヒル島「危機」について
 
 1 はじめに
 2 前 史
 3 2002年7月の「危機」
 4 省 察
 5 おわりに
 
IV 南シナ海比中仲裁判断と海洋における法の支配
 
V 中国による南シナ海での違法な人工島建設の法的結果
 
 1 はじめに
 2 国連海洋法条約における人工島の位置づけ
 3 南シナ海比中仲裁裁定における中国の人工島建設の法的評価
 4 国際法違反の人工島建設の法的結果
 5 人工島建設に関与した中国企業に対する米国による経済制裁
 6 人工島は領土になりうるか
 7 公海上での人工島建設は無制限か
 
VI 世界唯一の「交代式」コンドミニウムとしての会議島
 
 1 はじめに
 2 フランス王室とスペイン王室の社交場としての会議島
 3 1856年12月2日の国境画定条約によるコンドミニウムとしての法的地位の決定
 4 1901年3月27日の管轄権行使に関する協定による「交代式」コンドミニウムとしての法的地位の決定
 5 おわりにかえて       
 
VII コンドミニウムをめぐる国際法と外交
 
 1 はじめに
 2 コンドミニウムの特徴と分類
 3 コンドミニウムの実例
 4 省 察
 
VIII 日本の領土関連問題と国際裁判対応
 
 1 はじめに
 2 日本の領土関連問題が国際裁判で争われたら
 3 国際裁判対応に関するメモ

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