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白と青の表紙に飛行機の写真

書籍名

航空経済紛争と国際法

著者名

中谷 和弘

判型など

212ページ、A5変

言語

日本語

発行年月日

2022年6月27日

ISBN コード

9784797233537

出版社

信山社

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航空経済紛争と国際法

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海洋法は国際法学においては人気があるが、国際航空法はまったくといってよいほど人気のない分野である。しかしながら、航空機は多くの人々にとって船舶よりもはるかに身近な交通手段である。そして、国際民間航空輸送は、国家の利益とエアラインの利益が複雑に絡み合い、また経済と安全保障が錯綜する非常に面白い主題であり、グローバル化の縮図ともいえるものである。
 
航空・空港ファンでもある私は、1990年代から国際航空法をめぐる諸課題の検討をすすめ、相当数の論文を発表してきた。本書は、それらのうち、経済的紛争に関連するものを中心とした10の邦語論文を収録したものである。
 
1980-90年代の日米航空紛争は我が国にとって二国間航空協定の解釈・適用をめぐる最大の紛争であったといえる (I)。オーストラリアの公文書をフォローすることにより、日米間の航空紛争と似た構造を有する豪米間の航空紛争をフォローすることができた (VII)。
 
米国は1990年代からopen skyを強力にすすめてきたが、競争力に優れたUAEやカタールのエアラインに市場を奪われることを懸念した米国のエアラインはopen skyならぬfair skyを主唱するようになり、また欧州のLCCの乗り入れに反対した (II 及びVII)。
 
ソ連・ロシアは国際法上の根拠がないにもかかわらず、日本や欧州のエアラインに多額のシベリア上通過料を要求し、日本や欧州のエアラインは「背に腹は代えられぬ」と泣く泣くアエロフロートに上空通料を支払ってきた (III)。
 
航空協定の解釈・適用をめぐる国際仲裁裁定はこれまで5つある (1963年の米仏仲裁、1965年の米伊仲裁、1978年の米仏仲裁、1981年のベルギー・アイルランド仲裁、1992年の米英仲裁)。国際航空法にとってはもとより、国際法全般にとっても重要な判断がなされている (V,VI及びVIII)。
 
湾岸戦争時には、英米同盟の裏側で、意外なことにヒースロー空港への乗り入れ権の継承をめぐって英米は激しく対立していた (VIII)。パリやミラノといった大都市における複数空港間での輸送配分にも国際法がかかわっている (IX)。
 
ポストコロナにおける国際航空輸送体制は不透明であるが、最先端の航空協定として注目されるのはカタール・EU航空協定である。ロシアのウクライナ侵略のような現状に鑑みると、航空協定にも安全保障のための例外条項をおく必要があるかもしれない (X)。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 中谷 和弘 / 2022)

本の目次

I 1980―90年代における日米航空紛争と国際法
1 はじめに
2 日米航空紛争の経緯
3 航空協定における輸送力条項
4 日米航空協定の解釈問題
 A 日米航空協定の「不平等性」
 B 日米航空協定第12条の解釈問題
5 紛争解決の諸方式
6 国際民間航空輸送体制と日米航空関係
 A WTO (世界貿易機関) サービス貿易協定航空運送サービスに関する附属書
 B 国際民間航空輸送の特徴
 C 日米航空関係の将来像
 
II 国際民間航空輸送における自由と規制――国際法の観点から
1 はじめに
2 国際民間航空輸送と「空の自由」に関する国際法ルール
3 「湾岸エアライン」対「米国エアライン」
4 Norwegian Air Internationalの米国乗り入れ問題
5 省 察
 
III シベリア上空通過料と国際法
1 はじめに
2 シベリア上空通過料の実態
3 国際民間航空条約,国際航空業務通過協定,航行援助施設利用料とシベリア上空通過料
4 日ソ航空協定とシベリア上空通過料
5 ロシアのWTO加入問題とシベリア上空通過料廃止合意
6 2014年以降の状況
7 省察
 
IV カタール危機と国際輸送
1 はじめに
2 カタールに対する外交関係断絶
3 航空輸送の規則
4 海上輸送の規制
 
V 国際航空輸送の経済的側面に関する国際裁判
1 はじめに
2 国際航空輸送と国際裁判
3 航空協定の解釈・適用に関する国際仲裁裁判
 A 米仏航空協定事件 (1963年12月22日仲裁判決)
 B 米伊航空協定事件 (1965年7月17日仲裁判決)
 C 米仏航空協定事件 (1978年12月9日仲裁判決)
 D ベルギー・アイルランド航空協定事件 (1981年7月17日仲裁判決)
 E 米英航空協定事件 (1992年11月30日仲裁判決)
4 まとめにかえて
 
VI 過剰輸送力を減少させたベルギー・アイルランド航空協定仲裁裁定
1 はじめに
2 事案の概要と仲裁廷の設置
3 仲裁裁定の内容
4 省察
 
VII 2つの幻の国際航空仲裁
1 はじめに
2 幻の豪米航空仲裁と輸送力条項
   A 事案の概要
   B 省 察
3 幻のEU米航空仲裁と労働条項
   A 事案の概要
   B 省 察
4 まとめにかえて
 
VIII Bermuda2の下でのヒースロー空港に関する2つの米英間の事案をめぐる国際法と外交
1 はじめに
2 ヒースロー空港に乗り入れる権利の継承をめぐる外交交渉
3 ヒースロー空港の使用料をめぐる仲裁
4 おわりに
 
IX 大都市圏における複数空港間での航空輸送配分と国際法――欧州共同体における事案を参考にして
1 はじめに
2 欧州共同体理事会規則2408/92
3 パリ空港システム内での輸送配分をめぐる事案
 A Viva Airの申立に関する1993年5月28日欧州委員会決定
 B TATの申立に関する1994年4月27日欧州委員会決定
 C 英国による申立てに関する1995年3月14日欧州委員会決定
4 ミラノ空港システム内での輸送配分をめぐる事案
 A 1998年9月16日欧州委員会決定
 B 2000年12月21日欧州委員会決定
 C 2001年1月18日欧州司法裁判所判決
5 若干の考察
 A 欧州委員会,欧州司法裁判所の判断の評価
 B シカゴ条約15条の解釈とperimeter rule
 
X ポストコロナにおける国際民間航空輸送ルールの変容の可能性
1 はじめに
2 COVID-19と国際民間航空輸送ルール
3 二国間航空協定に例外条項は不要か
4 輸送力条項と国籍条項はどうなるか
5 多国籍エアラインの「復活」の可能性はあるか
6 多数国間航空協定の可能性
7 米中間及び米ロ間における国際民間航空輸送をめぐる紛争の可能性
8 おわりにかえて

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