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書籍名

国家による一方的意思表明と国際法

著者名

中谷 和弘

判型など

228ページ、A5変型判

言語

日本語

発行年月日

2021年6月22日

ISBN コード

9784797233513

出版社

信山社

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国家による一方的意思表明と国際法

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国家は日常的に対外的な意思表明を行う。その多くは他国との合意なしになされる一方的なものであり、通告、一方的約束、一方的要求、放棄、抗議、承認がこれに該当する。このような一方的な意思表明の国際法上の効果はどのようなものであろうか。
 
私がこの「外交における言葉」の国際法上の評価の問題にとりくんだのは1990年代であった。その後、国連国際法委員会 (ILC) において一方的宣言の検討がなされ、「一方的宣言に関する指導原則」が2006年に採択された。
 
この一方的法律行為の問題は、国際法学においては一貫して人気がないが、我が国の領土問題や米中経済紛争 (両国が輸出管理法を域外適用して日本企業は板挟みになりかねない) といった現代的な懸案を国際法の観点から考えるに際しても有用なものである。
 
例えば、北方領土問題をめぐる国際法解釈の最も重要な点は、日本がサンフランシスコ平和条約において放棄した千島列島 (Kurile Islands) に国後・択捉・歯舞・色丹が入るか入らないかであるが、Cambell 事件仲裁裁定 (1931年) やRann of Kutch 事件仲裁裁定 (1968年) で示されてきた放棄に関する国際法ルール、つまり「放棄は推定されない。放棄の範囲が不明確な場合には、放棄者に有利に狭く解釈されるべきである」という基準を適用すれば、日本に有利な結果が導き出される。
 
また、「抗議が可能であり抗議をなすべき場合 (自国の主観的権利が関わっている場合) に沈黙をしている国家は黙認をしたとみなされる」(Qui tacet consentire videtur si loqui debuisset ac potuisset) というICJ寺院事件判決 (1962年) で示された基準に照らすと、1895年に日本が尖閣を編入してから75年間も中国側は沈黙してきたという事実は、国際法上、黙認ということになる (1981年のドバイ・シャルジャ境界画定事件仲裁判決では7年後の抗議では遅すぎると指摘する)。
 
域外適用は一方的要求の一態様であり、域外適用すべてが国際法違反となる訳ではないが、一般には他国に対して対抗力を有しないし、また過剰な域外適用は国際法違反となる。
 
本書は、最初の2論文において国際法と外交の関係を国際法理論の側から考察し、残りの2論文では、一方的法律行為の理論を日本の領土問題及び輸出管理法の域外適用という現実の課題に適用して考察するものとなっている。初学者向けとは言い難いが、外交及び国際法に関心を有し、深く理解したいと考えている読者に関心を持って頂ければ幸いである。
 

(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 中谷 和弘 / 2021)

本の目次

・はしがき

I 言葉による一方的行為の国際法上の評価
1 はじめに
2 言葉による一方的行為の分類
3 言葉による一方的行為の有効性の条件
 A 主体の範囲画定
 B 客体の範囲画定と受諾
 C 表明手段 
 D 内容及びその他の要件 
4 各類型毎にみる言葉による一方的行為の法的効果
 A 通告の特質とその法的効果
 B 一方的約束の特質とその法的効果
 C 一方的要求の特質とその法的効果
 D 放棄の特質とその法的効果
 E 抗議の特質とその法的効果
 F 承認の特質とその法的効果
5 言葉による一方的行為の国際関係における位置づけ

II 国連国際法委員会「一方的宣言に関する指導原則」についての一考察
1 はじめに
2 「一方的宣言に関する指導原則」とコメンタリーの内容
3 国家実行をめぐって
4 省 察
5 おわりに

III 日本の領土関連問題と国際裁判対応
1 はじめに
2 日本の領土関連問題が国際裁判で争われたら
 A 北方領土
 B 竹 島
 C 尖閣諸島
3 国際裁判対応に関するメモ

IV 輸出管理法令の域外適用と国際法
1 はじめに
2 輸出管理法令の域外適用とそれをめぐる対立
3 国際法における国家管轄権
4 輸出管理法令の域外適用の国際法上の評価
5 拡大されたボイコットの国際法上の評価
6 おわりに
・本書刊行に際しての付記

 

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