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若冲の絵

書籍名

若冲伝

著者名

佐藤 康宏

判型など

298ページ、単行本

言語

日本語

発行年月日

2019年2月18日

ISBN コード

978-4-309-25617-7

出版社

河出書房新社

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若冲伝

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江戸時代中期の京都で活躍した画家、伊藤若冲 (いとうじゃくちゅう、1716―1800) の評伝です。「動植綵絵」(宮内庁三の丸尚蔵館) に代表される若冲の絵画や版画は、予備知識がなくとも現代の私たちに直接訴える魅力にあふれていて、近年とても人気があります。しかし、それらはやはり一方で、18世紀後半の京都だから生まれたといえる特徴を持っています。この本は、だいたい年代順に若冲の生涯をたどりながら、数々の造形がどのようにして作られたのかを考えます。
 
若冲は私が大学の卒業論文のテーマに選んだ画家ですから、40数年にわたるつきあいになります。この間に私自身わずかですけれども従来知られていなかった文献史料や作品を見出して紹介してきました。また、さまざまな新見解を提出してもきました。彼が中国や朝鮮の絵画を模写することで得たもの、得意の素材となった鶏が選ばれた理由とその変貌のありさま、「動植綵絵」制作の動機とその表現の特色、「果蔬涅槃図」(京都国立博物館) などの水墨画の持つ仏教的な意味、拓版画と呼ばれる特殊な木版画「乗興舟」には数種類の摺りのヴァージョンがあることとその描写が持つ意義、などの問題についてです。そして、若冲に関心を抱くほかの研究者が発見し議論してきた事柄もいろいろあります。
 
この評伝は、それらの成果すべてを総合した最も詳しく最も新しい内容を誇るものです。私がこの本で初めて披露した見解というのも複数ありますから、まちがいなく最新の内容なのですが、新しさには考え方の新しさも含まれています。つまり、私の解釈は、精神分析、ジェンダー論、社会史といった20世紀後期の美術史学の新潮流に触れて成り立ったものだからです。解釈が妥当かどうかは、将来の検討に俟たねばならないところもあります。それでも、若冲がただの風変わりな個性ではなく、日本美術史の中でも最も重要な作家のひとりだということは、この本によっていっそう明らかになった――そう考えてもらえるだけの達成だとは、現時点でもいえそうです。
 
新聞に書評を書いて下さった方は、「評伝にありがちな事績の羅列ではなく、時として大胆な試論を盛り込み、推理小説を読んでいるようなワクワク感を持って一気に読み切れる」と記しています。おほめいただき光栄ですが、日本美術史の研究は推理小説よりもおもしろいのだ、ということはまた強調しておかねばなりませんね。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 佐藤 康宏 / 2019)

本の目次

第一章 市場の画家
第二章 模写と写生――初期作品
第三章 「動植綵絵」――制作の経緯と表現の特色
第四章 黒の若冲――水墨画・版画、「綵絵」以後
第五章 物好きの晩年、そして没後
文献一覧
若冲年譜
あとがき
図版索引
 

関連情報

著者インタビュー:
著者は語る『若冲伝』 「40代まで青物市場の問屋で働き……画家・伊藤若冲とは何者だったのか?」 (文春オンライン 2019年5月16日)
https://bunshun.jp/articles/-/11869
 
美術に関わる東大の研究 佐藤康宏の日本美術史 「「好きなのは阪神ですが、研究はサッカーにたとえてみます」――強引な突破も辞さぬ美術史の世界」 (東大広報誌『淡青』38号 2019年4月16日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/features/z1304_00023.html
 
トークイベント:
板倉聖哲(中国美術史)×佐藤康宏(日本美術史)×橋本麻里(ライター、エディター)
『李公麟「五馬図」』刊行記念
「五馬図」から若冲まで、絵を見る楽しさを語る (銀座 蔦屋書店 2019年5月28日)
https://store.tsite.jp/ginza/event/art/6391-1147310424.html
 
書評:
安村敏信氏 (北斎館館長) による書評が共同通信により配信された。『河北新報』 (2019年3月31日)、『沖縄タイムス』2019年4月6日、『京都新聞』2019年4月21日など、17誌に掲載。
 
書籍紹介:
BOOKSニュース 「若冲伝」佐藤康宏 著 (日刊ゲンダイDIGITAL 2019年3月29日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/250660
 
全国学校図書館協議会選定図書
https://www.j-sla.or.jp/
 

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