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書籍名

日本美術全集 6 東アジアのなかの日本美術

判型など

296ページ、B4判

言語

日本語

発行年月日

2015年2月25日

ISBN コード

9784096011065

出版社

小学館

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学内図書館貸出状況(OPAC)

日本美術全集 6 東アジアのなかの日本美術

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紙媒体最後の日本美術全集と話題になった最新の小学館版『日本美術全集』。全20巻は時代別の「時代巻」と時代の枠を超えた「テーマ巻」で構成されているが、担当した巻は「テーマ巻」で、古代から近代に亘って、日本に伝来した東アジアの書画・彫刻・工芸作品を取り上げる。芸術家でいえば、東晋の書家、王羲之から近代の文人書画家、呉昌碩に至るまでということになる。他国の美術でありながら、これらのものの多くが国宝・重要文化財に指定されていることからも、日本美術にとっても「古典」として極めて大きな意義を持ってきたと長きに亘って認識されてきたことがわかる。中国・朝鮮の美術を中心としているが、さらに影響関係が明確に反映した同時代の日本美術をいくつか比較の対象として掲げる。
 
北宋・徽宗(款)「桃鳩図」(個人)、南宋・(伝) 徽宗「四季山水図」(久遠寺・金地院)、南宋・李迪「紅白芙蓉図」(東京国立博物館)、南宋・牧谿「観音猿鶴図」(大徳寺)、元・因陀羅の禅機図、明・呂紀「四季花鳥図」(東京国立博物館)、清・沈南蘋「老圃秋容図」(静嘉堂文庫美術館) などは多くの日本絵画を生み出しており、日本美術にとっても「古典」として君臨していると言ってよいだろう。その他、伝世品は中国大陸に伝存せず、日本にのみ現存する曜変天目三碗など、日本で珍重され、大切に守られてきた、そして本国にももはや残っていない名品の数々を中心に選択している。
 
奈良時代の正倉院宝物は、同時代の中国・唐の文物への強い憧れを反映しているが、室町時代の足利将軍家コレクションである「東山御物」は、当時から200年ほど遡る南宋時代の絵画や工芸品を珍重しており、大きなタイムラグが存在している。それは受容者側の選択の意志が働いた結果でもある。近代になって憧憬の対象が西洋を中心に展開していく前、江戸時代においては明清美術が加わってさらに複雑になっており、画壇は構造として宋元画を「古典」とし明清画を新たな刺激として展開していったと言えよう。日本での東アジア美術の受け入れ方は実に多様なものとなった。但し、それでも、そこに一定の趣向の反映があったとすれば、それこそが日本の美意識ということになるはずである。日本美術の担い手たちがどのように東アジア美術を選択し、受け入れ、またその影響のもと新たな美術表現を生み出していったかを知ることによって、日本美術の本質を浮き彫りにすることを目指している。

(紹介文執筆者: 情報学環 教授 板倉 聖哲 / 2017)

本の目次

第一章 憧憬の唐宋文化
第二章 古典としての宋元美術
第三章 新たな美としての明清美術
 
テクスト
日本が見た東アジア美術──書画コレクション史の視点から  板倉聖哲
北宋文物の流通とその受容の場──宋、高麗、日本の比較から  塚本麿充 (元東京国立博物館研究員  現東京大学准教授)
中国の文人画と日本の南画  佐藤康宏 (東京大学教授)
コラム / 正倉院宝物の形成と布施の実践  稲本泰生 (京都大学准教授)
コラム / 文物から見た日中僧俗ネットワーク──京都・泉涌寺を例として  西谷 功 (泉涌寺宝物館学芸員)
コラム / 唐物の至宝──曜変天目の在りし場所  長谷川祥子 (静嘉堂文庫美術館主任学芸員)
コラム / 青磁と日本  今井 敦 (元文化庁 文化財調査官  現東京国立博物館)
コラム / 江戸時代の中国絵画受容と八代将軍吉宗が果たした役割  杉本欣久 (黒川古文化研究所研究員)
コラム / 石濤への憧れとその実際──大正後期の「解衣社」の画家たちをめぐって  呉 孟晋 (京都国立博物館研究員)
 

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