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木の横に立つ男の絵

書籍名

アジア仏教美術論集 東アジアIV 南宋・大理・金

判型など

686ページ、A5判、上製カバー装

言語

日本語

発行年月日

2020年12月

ISBN コード

978-4-8055-1133-6

出版社

中央公論美術出版

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中国では、中国美術史において北宋・南宋を分けることなく一括して宋時代で扱うことが多い。しかし、日本では、中世以来、憧憬の対象として南宋の文物を珍重しており、北宋と南宋の間にはイメージに大きな差があると言ってよい。日本は禅宗など本土には伝わらなかった貴重な仏教美術の宝庫であり、日本における美術史研究では、南宋時代を非常に重視していると言ってよいだろう。そうした研究の蓄積を踏まえて、日本で出版する仏教美術の論集であればこそ、という思いで、この『アジア仏教美術論集』では、あえて「北宋巻」と「南宋巻」を分けることとした。
 
近年の歴史研究では、北宋と南宋の間に見られる変化が注目され、南宋時代には北宋時代の中央指向から在地主義へと士大夫たちの方向が転換したため、地方の様々な都市において文化的な営為が展開した、とされる。仏教美術も、都の臨安 (杭州) の他、貿易港の明州 (寧波)・泉州 (福建)、内地の軍事拠点であった蜀 (四川) などの地で生み出されたものが確認され、本巻の南宋の部分では、地域ごとに作品を見ていく形になっている。作品についても日本に伝来した仏教絵画や仏像が中心であったが、近年、大きく変化している。例えば、石窟の研究ではこれまで唐以前が中心であったが、宋時代のものも多く紹介されるようになった。そのため、日本の伝世品をこれら出土品と合わせ、新たな座標軸が必要となっており、ここではそれを提示しようと試みている。
 
又、この時期に中国北半を支配した女真族の金朝、唐時代から元時代まで300年以上に亘って雲南などを中心に支配した大理国は共に仏教信仰が盛んで、12世紀の注目すべき仏教美術も遺存している。本巻では、金朝と大理国における仏教信仰、各々で生み出された仏教美術の在り方を俯瞰し、同時代における比較を可能にしている。
 
仏教美術の研究としては、日本の伝来品以外、必ずしも盛んでなかった南宋時代だが、それを取り巻く金朝や大理国と合わせて相対的に議論される機会はさらに少なかった。本巻は最新の研究状況を踏まえながら、この時代の仏教美術を総体的に議論しており、これまでに見えなかった全体像が垣間見られたように思う。ここで提示された視点はさらに中世日本の仏教美術を考える上でも極めて重要なものであり、日本仏教美術史研究にも大きく寄与することであろう。
 

(紹介文執筆者: 東洋文化研究所 教授 板倉 聖哲 / 2022)

本の目次

総論 南宋・大理・金における仏教美術 板倉聖哲
南宋仏画の視界 井手誠之輔
範疇としての「院体」道釈画 板倉聖哲
西湖周辺における呉越−南宋の仏教石刻 藤岡 穣
宋画の表現 泉 武夫
大徳寺伝来五百羅漢図に認められる説話的主題について 北澤菜月
日本に伝来した陸信忠画 梅沢 恵
南宋時代の千手千眼観世音菩薩像について 羅 翠恂
大足石刻における儀礼の時空 フィリップ・ブルーム
エビは柄杓から飛び出せない ステファン・ アリー
牧谿筆《観音猿鶴図》論 ユキオ・リピット
祖師像と宋代仏教儀礼 西谷 功
南宋時代における袈裟へのまなざし 山川 曉
無準師範と弟子たちの文物ネットワーク 塚本麿充
釈迦生身を奉ぜる女真の王朝 藤原崇人
遼塔・金塔における第一層塔身の浮彫荘厳について 水野さや
繁峙巌山寺の壁画について 金 靖之
雲南省・大理の密教美術 森 雅秀
雲南・大理の梵語『仏頂尊勝陀羅尼』碑文 麥文 彪
「画梵像」における釈迦仏会、羅漢および祖師像の研究 李 玉珉
 

関連情報

シリーズ:
アジア仏教美術論集
http://www.chukobi.co.jp/products/list.php?category_id=24

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