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ライトグレーの表紙に土器のイラスト

書籍名

オホーツク海南岸地域古代土器の研究

著者名

熊木 俊朗

判型など

321ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2018年7月10日

ISBN コード

9784832818040

出版社

北海道出版企画センター

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オホーツク海南岸地域古代土器の研究

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高校までの日本史の授業では、旧石器時代、縄文時代、弥生時代、古墳時代といったように、区分された時代ごとに内容を学習するが、日本列島の北部に位置する北海道では、本州とは異なる時代区分が用いられていることはご存じだろうか。明治時代まで稲作農耕が導入されなかった北海道では、縄文時代以降、その独自の歴史の歩みをあらわす時代区分として、続縄文 (ぞくじょうもん) 文化期、擦文 (さつもん) 文化期、(考古学上の) アイヌ文化期が設定されている。また、続縄文文化期の終わりから擦文文化期の前半にかけての時期には、北海道の東北部に、北方から来た「異民族」の文化であるオホーツク文化が併存していたこともわかっている。本書は、このうちの続縄文文化とオホーツク文化で用いられた土器を主な対象として、型式の分類と編年、地域間の交流を論じた研究である。年代でいえば、おおむね紀元前4世紀から紀元12世紀頃の資料となる。
 
日本の考古学では、先史時代・歴史時代を問わず、土器の編年研究が重要視され、発達を遂げてきた。形や文様の違いなどで土器を分類し、各グループの時間的な前後関係や分布を把握して編年網を拡げていくことが、研究の強固な基盤となるからである。ただし、この分野の研究は、実物資料のわずかな違いに関する知識や、大量の資料に対する網羅的な点検が不可欠で、論文では専門以外の人には理解しにくい記述が長々と続く場合も多い。300頁余りに及ぶ本書でも、成果の7割くらいはわずか数頁の編年表 (本文238頁など) に集約することが可能で、全体の半分以上はこまごまとした分類と資料操作の記述が占めている。
 
こうした記述は煩雑で偏執的にも見えるが、それゆえに抗しがたい魅力もある。発掘現場でよく似た二つの土器片を発見したとする。詳しい人に見せると、一方が古くもう一方が新しいと言う。ここで「なぜ?」と思って二つの違いを血眼になって探してしまう、という心理に共感できるだろうか。本書で筆者が力を入れたのはこの「なぜ?」を論証することである。AとBの二つの型式を分ける基準は何か。その基準は編年研究の上で意味のあるもの、すなわち時期差や地域差を反映すると証明できるのか。こうした点が蔑ろにされた論文は科学的とは言えないし、初学者の理解を阻む原因にもなる。一見、煩雑に見える記述が、実物資料と向き合う際にはわかりやすく、頼りがいのあるものになる−本書ではそのような研究を目指した。
 
続縄文土器、オホーツク土器の研究というのは、一般には馴染みがなく、日本考古学でもマイナーな分野である。しかし、これらの土器が使われた時期には、縄文時代にはほぼ途絶えていた日本列島と大陸の北回りの交流が再開し、発展するといった北方史上の画期となる変化が生じており、土器にもそのような交流の痕跡が刻まれている。この時期の土器編年や交流の様相を明らかにした本書の成果は、日本列島の北方史や、アイヌ文化の成立過程を復元する際に基盤的な役割を果たすものと考えている。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 熊木 俊朗 / 2019)

本の目次

   序 章 本書の内容と構成
 
第I部 続縄文土器の編年
 第1章 宇津内式土器の編年
 第2章 下田ノ沢式土器の編年と型式交渉
 第3章 後北C2・D式土器の展開と地域差
 第4章 鈴谷式土器編年再論
 
第II部 オホーツク土器の編年
 第1章 香深井A遺跡出土オホーツク土器の型式細別と編年
 第2章 モヨロ貝塚出土オホーツク土器の編年
 第3章 アムール河口部・サハリン出土オホーツク土器の編年
 第4章 元地式土器に見るオホーツク文化と擦文文化の接触・融合
 第5章 オホーツク土器と続縄文土器・擦文土器の編年対比
 
第III部 北海道とサハリン・アムール下流域の交流
 第1章 続縄文文化・オホーツク文化・擦文文化における北海道とサハリン以北の交流
 第2章 オホーツク文化とアイヌ文化の関係
 
第IV部 モヨロ貝塚出土のオホーツク土器 (資料編)
 第1章 市立函館博物館所蔵のモヨロ貝塚出土オホーツク土器
 第2章 北海道立北方民族博物館所蔵のモヨロ貝塚出土オホーツク土器
 

関連情報

書評:
臼杵 勲 評「熊木俊朗著『オホーツク海南岸地域古代土器の研究』」 (『考古学研究』66-1、74-76頁、2019年6月)
 

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