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ライトグレーの表紙に石と柳田國夫の顔写真

書籍名

柳田國男と考古学 なぜ柳田は考古資料を収集したのか

著者名

設楽 博己、 工藤 雄一郎、松田 睦彦 (編著)

判型など

160ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年

ISBN コード

978-4-7877-1602-6

出版社

新泉社

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柳田國男と考古学

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明治~昭和初期は、日本のあらゆる学問が科学的な様相を帯びてくる時代だった。柳田國男は昭和初期に日本民俗学を確立したが、それ以前、とくに明治後期には『人類学雑誌』などを舞台に論考を発表していた。当時の『人類学雑誌』では、今でいう考古学・形質人類学・民族学・民俗学といったさまざまな学問が、未分化な状態で共存していたのである。しかしその後、考古学や人類学 (とくに形質人類学) はしだいに自然科学的な手法を獲得し、柳田が目指す民俗学とは別の道を歩み始めた。民俗文化のなかでもその精神性への強い志向をもち、また言葉を媒介とした民俗事象の把握を目指す柳田は、独自の方法論にもとづいて日本民俗学を構築していった。またその過程では、「考古学批判」を通じて自らの学問の性格を見極めようとしていたことがうかがえる。「考古学が嫌いだった」として知られる柳田が、明治後期に日本国内やサハリンで考古資料を収集していたこと、そしてその考古資料が現在まで残っていることは、一般にほとんど知られていない。国立歴史民俗博物館には柳田が主に明治後期に収集したと思われる考古資料67点が、「柳田國男旧蔵考古資料」として収蔵されている。国立歴史民俗博物館では、2011年~2013年度に、設楽博己を代表として共同研究を立ち上げ、柳田がこれらをどのような目的で集めたのか、その学術的な背景や、当時盛んだった日本人種論との関係などを探り、その後の民俗学が確立していく過程を再検討した。本書はその成果についてまとめたものである。柳田國男旧蔵考古資料を通じて、民俗学と考古学の方法論確立過程における相互交渉についての理解を深めることを企図した。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 設楽 博己 / 2019)

本の目次

はじめに………設楽博己・工藤雄一郎・松田睦彦
 
柳田國男の生い立ちと学問的背景………松田睦彦
 柳田國男の生い立ちと間引き絵馬の衝撃 
 文学への傾倒から農政官僚へ
 経世済民の学としての民俗学へ
 
柳田國男が集めた考古資料
 柳田國男旧蔵考古資料とは?-収集の経緯………工藤雄一郎・設楽博己
 柳田國男はどんな考古資料を収集したのか………工藤雄一郎
  コラム 石器の利用法からみた柳田國男旧蔵考古資料…高瀬克範
 柳田考古資料の採集地はどこか? (1) -明治後期における柳田國男の旅行先………和田 健
 柳田考古資料の採集地はどこか? (2) -樺太紀行の旅程………佐藤健二
 柳田考古資料の採集地はどこか? (3) -南樺太の領有と当時の人類学者たちの動向…福田正宏
  コラム 飯島魁の「樺太みやげ」………福田正宏
 柳田考古資料の採集地はどこか? (4) -「樺太紀行」以後のサハリン島における考古学の展開
………熊木俊朗
  コラム 柳田為正が収集した考古資料と柳田國男旧蔵考古資料の違い………工藤雄一郎
  コラム 標本箱が語る柳田國男と矢田部良吉家との交流………林 正之
 
なぜ柳田國男は考古資料を収集したのか 収集の学問的・社会的背景
 お雇い外国人の活躍と1880年代の「日本人種論………山田康弘
 日本人研究者による人種論の始まり-アイヌ・コロボックル論争………山田康弘
  コラム アイヌ・コロボックル論争の考古学的な資料………設楽博己
 柳田國男の考古遺物収集と山人論の形成………設楽博己
  コラム『遠野物語』に描かれた遺跡と遺物………黒田篤史
 古代史学者喜田貞吉の日本民族論と柳田國男との関係………山田康弘
 鳥居龍蔵の固有日本人論-日本民族の起源と弥生土器の系譜………設楽博己
  コラム 今西龍と固有日本人論………設楽博己
 形質人類学者による日本人種論………山田康弘
 
柳田民俗学の形成と考古学批判
 柳田國男はなぜ考古学を批判し、考古学と決別したのか………設楽博己
  コラム 柳田國男が批判した「近世考古学」の現在………林 正之
 自然科学と文学-松本彦七郎・山内清男と柳田國男………設楽博己
  コラム 柳田國男と考古学者との交遊録―1903~1945年頃まで―………林 正之
 柳田國男と南方熊楠との交流-民俗学の自覚………佐藤健二
 山人論から稲作民俗論へ………松田睦彦
 文学との決別が柳田民俗学を生んだのか-柳田の思想の文学性………小池淳一
 民俗学の誕生と考古学への意識………小池淳一
 
まとめ………工藤雄一郎・松田睦彦・設楽博己
おわりに………設楽博己・工藤雄一郎・松田睦彦
参考文献
 

関連情報

書評:
角南聡一郎 評 (『日本民俗学』第289号、2017年2月28日)
http://www.fsjnet.jp/periodical/periodical_data/backnumber_281-300.html
 

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