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山吹色の表紙

書籍名

弥生時代人物造形品の研究

判型など

302ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2017年3月31日

ISBN コード

9784886217585

出版社

同成社

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弥生時代人物造形品の研究

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弥生時代には、絵画や立体的な造形品が数多く知られています。弥生時代の絵画は土器や銅鐸に描かれ、立体的な造形品は粘土によって、あるいは木や石を削って形成されました。これを研究する目的はさまざまですが、土器や石器だけでは容易に明らかにすることができない、弥生時代の精神生活や社会のあり方に迫ることが期待できるでしょう。
 
本書は、このうちの人物の立体的な造形品を悉皆的に集成して一覧表と図面を掲示し、基礎作業とすることを第一の目的としました。そして、縄文時代の人物造形品や中国の同じような遺物と比較しつつこれらを分析し、縄文時代からの変化の意味や性格に考察を加えて、人物造形品が弥生文化のなかで果たしていた役割をあきらかにすることを目指しました。
 
弥生時代の人物造形品には、土偶形容器、顔面付土器、土偶、分銅形土製品、木偶、石偶等が知られています。縄文時代の土偶の要素がどのように引きつがれ変化していくのか明らかにしたうえで、これらの偶像の性格を論じました。土偶形容器と顔面付土器はおもに東日本に認められ、前者は男女一対の偶像形蔵骨器として墓に埋納されました。木偶と石偶は西日本に限って分布します。これらもまた男女一対の偶像としてつくられたことが大きな特徴です。縄文時代の土偶は女性像であり、男女一対ではありません。
 
縄文時代は狩猟採集社会であり、狩りは男性の仕事、木の実拾いは女性の仕事といったように、性別の分業が発達していました。それを背景にして土偶は女性像を中心につくられたのでしょう。それに対して農耕は男女の協業です。弥生時代の人物造形品が男女一対の偶像になる変化は、農耕文化という弥生文化特有の文化に支えられていたからでしょう。
 
これまで縄文時代の土偶と古墳時代の埴輪というメジャーな人物造形品の間に挟まれて、日蔭者扱いであった弥生時代の人物造形品に光を当てたのは、縄文時代から古墳時代へと社会や文化が大きく変わっていく過程が明らかにできるのではないかと考えたからです。その結果、弥生時代の人物造形品と中国の人物造形品の対応関係で面白いことがわかりました。中国では採集狩猟文化から本格的な農耕文化にかわるときに、それ以前から中心をなしていた女性像に加えてわずかながら男性像が存在するようになります。農耕文化の本格化に応じて壺形土器が発達しますが、乳房を表現した壺形土器が出現します。青銅器時代になると男性像を中心につくられるようになります。男女の関係性が時代の移り変わりに応じて人物造形品に反映していることが明らかになったとともに、1000年程の落差をもちながら縄文時代から古墳時代の人物造形品と同じような変化をたどることができたのです。
 
考古学はたんに遺物の年代や系統を追いかけるだけではありません。分析の対象や分析方法を工夫することで、社会の問題にも迫ることができることを学んでいただければと思います。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 設楽 博己 / 2017)

本の目次

序文
第1章  東北地方の弥生土偶とその周辺
第2章  黥面土偶とその周辺
第3章  副葬される土偶
第4章  土偶形容器考
第5章  神奈川県中屋敷遺跡出土土偶形容器の年代
第6章  人面付土器の諸類型
第7章  土偶形容器と人面付土器の区分
第8章  西日本と中部高地地方の弥生土偶
第9章  分銅形土製品に対する一考察
第10章  木偶と石偶
第11章  偶像の農耕文化的変容
第12章  人面付土器Cから盾持人埴輪へ
第13章  方相氏の伝来と仮面
第14章  中国東北地方における先史時代の人物造形品
終章 弥生時代における人物造形品の特質
 

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