東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

表紙に遺跡を掘っている写真

書籍名

特集: 旧石器~縄文移行期を考える (季刊考古学 第132号掲載)

判型など

115ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2015年8月1日

ISSN コード

02885956

出版社

雄山閣

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

季刊考古学 第132号

英語版ページ指定

英語ページを見る

日本列島における旧石器時代から縄文時代への移行は、自然環境と人類文化の両側面に見られた列島史上最大の歴史的画期と言うことができる。この変化は、全球的な大規模気候変動期である更新世 (氷期) / 完新世 (温暖期) 移行期に相当し、農耕の発生や文明・都市の勃興といった世界史的事件を引き起こす契機となった。
 
後期旧石器時代 (38,000~16,000年前) の列島は、氷期の海面低下によって、本州・四国・九州はひとつの陸塊 (古本州島) をなして大陸から独立していたが、対照的に北海道は、大陸からサハリン・千島列島南部まで連接するひとつの半島 (古北海道半島) を形成した。後期旧石器時代の列島は大陸性の寒冷・乾燥気候が支配しており (公文論文)、東半部は針葉樹を主とする植生帯が、西半部は針広混交林が主体を成していたため (高原論文)、主要食糧としての植物資源に乏しかったことに加えて、ダンスガード・サイクルと言われる短周期で変動する不安定な気候 (公文論文) は、資源構造の動揺と資源獲得の予測可能性の著しい低下を招来した。そのため旧石器時代人は、移動によって自然環境の変動に適応可能な中大型動物 (高橋論文) を食糧資源の主体にすえ、狩猟を生業の柱とした。
 
氷期末の15,000年前になると、晩氷期 (15,000~11,700年前) と呼ばれる全球的な気候激変期が始まる。列島最古の土器 (青森県大平山元I遺跡、16,000年前) はこの晩氷期の開始よりも古いので、縄文時代草創期 (16,000~11,700年前) は氷期末に開始される (工藤論文)。現在東・北アジアで土器の起源が更新世に遡ると報告されている地域は、ザバイカル・アムール中流域 (内田論文)、中国東部・南部 (大貫論文)、日本であり、現状では中国南部を除き、ほぼ同時に多元局所的に出現していると評せざるを得ない。
 
縄文的な生活構造は、いち早く温暖化が開始された南九州から始まり、次第に北上した (馬籠・秋成論文)。土器使用が早く安定する南九州では草創期に入ると植物資源の利用が活性化し、定着的な生活行動が促進されるようになる。しかしながら、道具 (橋詰論文・及川論文) やその材料獲得法 (芝論文)、集落の出現と安定化等は草創期を通じて徐々に発達する (森先論文) が、北海道では依然として旧石器時代的な遊動生活が継続し (夏木論文)、縄文社会の本格的な登場は縄文早期以降となる (福田論文)。
 
完新世初頭の縄文早期になると、湿潤温暖な気候の下で森林植生が発達し、水産資源も豊富になるため、狩猟・採集 (佐々木論文)・漁撈 (小笠原論文) からなる多角的な定着的生活構造が安定する本格的な縄文社会が列島全体で成立する (谷口論文)。縄文文化の外来起源の可能性はほとんどない (安斎論文)。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 佐藤 宏之 / 2016)

本の目次

旧石器から縄文へ 佐藤宏之
晩氷期から完新世への気候変動と地理的環境 公文富士夫
旧石器時代から縄文時代にかけての動物相の変化 高橋啓一
旧石器時代から縄文時代にかけての植生の変化 高原 光
土器の出現とその意義 工藤雄一郎
石器に見る生活の変化 (1) 東日本 橋詰 潤
石器に見る生活の変化 (1) 西日本 及川 穣
石器石材の獲得・消費と流通 芝康次郎
晩氷期変動と生活構造の変化 森先一貴
南九州の移行期 馬籠亮道・秋成雅博
北海道の晩氷期 細石刃・遊動 夏木大吾
植物資源の開発 佐々木由香
水産資源の開発-関東地方における縄文海進の時期を中心として - 小笠原永隆
縄文早期の生態史と遺跡群 谷口康浩
道東の石刃鏃文化-縄文研究の切り口から - 福田正宏
中国・地用線半島の土器出現期 大貫静夫
シベリア・極東の土器出現期 内田和典
縄文文化の外来起源論 安斎正人

このページを読んだ人は、こんなページも見ています