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ベージュと白の表紙

書籍名

ちくま新書 縄文と世界遺産 人類史における普遍的価値を問う

著者名

根岸 洋

判型など

256ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2022年4月5日

ISBN コード

978-4-480-07472-0

出版社

筑摩書房

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縄文と世界遺産

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2021年7月、「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界遺産一覧表に記載されることが決まった。本書のメインテーマは、世界遺産というフィルターをとおして「縄文文化」像の描かれ方を探ることである。この遺跡群には著名な青森県三内丸山遺跡が含まれるものの、世界遺産の対象となったのは北日本に所在する17箇所の国指定史跡であった。本書は、なぜ限られた地域の遺跡群が世界遺産に選ばれることになったのか、さらに「縄文文化」概念の人類史における位置付けを読み解く試みである。
 
第1章では、「縄文文化」がどのように形作られた概念なのかを考える。一般に「縄文」は、日本列島全域に広がる均質な文化として理解されてきた。しかし「縄文文化」の研究史を振り返ると、「縄文土器」概念と同一視されていった経緯や、海外の研究者からは考古学的「文化」の集合体として捉えられていたことがわかる。数多くの土器型式が示すように、「縄文文化」には地域的多様性のほかに複層性が含意されているのである。
 
第2章では、「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産としての特徴を明らかにする。1990年代前半ころまで世界遺産に選ばれていた先史遺跡は、洞窟絵画などの芸術性の高い遺跡やモニュメント的な性格を持つものが多くを占めていた。世界遺産の総数が増えた今日でも、世界遺産一覧表には先史遺跡が少なく、その中で地下遺構を主体とするケースはほとんどないのである。この2つの条件を満たし、かつ狩猟採集民が残した縄文遺跡群は極めて稀なタイプの世界遺産といえよう。
 
第3章では他の世界遺産との比較を通じて、縄文遺跡群の特徴を浮き彫りにする。西アジア、ヨーロッパ、北米・南米および東アジアから類似資産を選び、その年代や特徴について比較を行った。その結果、狩猟採集民が残した世界遺産はいずれもモニュメントであるため縄文遺跡群とは区別されることと、多くの世界遺産が考古学的「文化」を単位として推薦されていることが明らかになった。それらの「文化」の範囲は限られており、新石器時代などのより大きな単位を代表している訳ではない。言い換えれば、そのような概念を単位として世界遺産に推薦された先史遺跡は見られないことが重要である。
 
第4章では「北海道・北東北の縄文遺跡群」の普遍的価値について論じる。「縄文文化」はもともと大陸の新石器時代に相当するものとされてきたが、農耕と牧畜をセットにした古典的定義には当てはまらない。また新石器時代に入っても狩猟採集が続く地域も世界各地で確認されており、日本列島もその一つとして位置付けられる。一方「縄文文化」は一つの考古学的「文化」と呼ぶには広範な概念であり、多様性と複層性をもっている。その中で「北海道・北東北の縄文遺跡群」には、津軽海峡を挟んだ長期間におよぶ文化交流が認められる点と、縄文時代の末期に至るまで農耕が波及しないという点に、普遍的価値があると考えられる。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 根岸 洋 / 2023)

本の目次

第1章 縄文を問い直す
 1 問題の所在
 2 縄文遺跡群と世界遺産
 3 「縄文文化」を考える
 4 「縄文文化」論に向けて


第2章 先史遺跡と世界遺産
 1 世界遺産のイメージ
 2 世界遺産に選ばれるまでのプロセス
 3 先史時代の遺跡を世界遺産にするということ
 4 地下遺構と世界遺産
 5 縄文遺跡群と景観
 6 考古遺物と世界遺産


第3章 世界の先史時代との比較
 1 比較の視点
 2 世界遺産一覧表における縄文遺跡群
 3 西アジアとの比較
 4 ヨーロッパとの比較
 5 アメリカとの比較
 6 東アジアとの比較

第4章 縄文遺跡群と「縄文文化」
 1 世界遺産と文化多様性
 2 「縄文文化」の複層性と多様性
 3 「北海道・北東北の縄文遺跡群」
 4 過去の文化への眼差し
 
あとがき

関連情報

書評:
東奥日報 2022年7月14日

読売新聞 2022年5月22日
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/column/20220524-OYT8T50029/

秋田魁新報 2022年5月22日

北日本新聞 2022年5月14日

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