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竪穴住居の写真

書籍名

東北地方北部における縄文 / 弥生移行期論

著者名

根岸 洋

判型など

296ページ、B5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2020年7月31日

ISBN コード

9784639027263

出版社

雄山閣

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東北地方北部における縄文 / 弥生移行期論

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2003年、国立歴史民俗博物館によって進められた放射性炭素14年代の見直しにより、弥生時代の開始年代が約500年間遡ることが明らかになった。それまで紀元前4世紀に始まると考えられていた弥生時代早期の年代が、紀元前9世紀まで古くなることが判明したのである。それに伴い、縄文時代末期に東北日本に栄えた亀ヶ岡文化が、南西日本の前期弥生文化と数百年間に渡って併存したことが共通認識となっている。これに伴い、列島東西が遠隔地を挟んで文化的交渉をもったとみなす広域交流モデルが提唱されている。
 
本書は、2010年に東京大学大学院人文社会系研究科に提出した学位請求論文を全面的に改稿したものである。縄文 / 弥生移行期の新たな年代観と広域交流モデルに基づき、本州北部の亀ヶ岡文化および社会がいかに内在的に変質し、また前期弥生文化の影響下で変容したのかについて多角的に論じることを目的とした。分析対象は紀元前7世紀~紀元前2世紀の約500年間である。
 
土器文化の移行を取り上げた第I部では、縄文晩期末葉から弥生中期前葉にかけての土器編年を再構築した。亀ヶ岡式を母胎として生まれた砂沢式土器に着目し、標識式遺跡となる砂沢遺跡、大曲遺跡の再検討を行った。また本州北端から北海道南部に分布する弥生II期の二枚橋式土器について、筆者が調査した二枚橋 (1) 遺跡の発掘調査成果を基にして土器編年を提示した。その結果、かつて山内清男が「北方文化圏」と呼んだ土器文化上の特徴は二枚橋式以降に形作られ、弥生中期から後期まで広域展開したと論じた。つまり弥生中期から後期まで見られる特徴的な文様帯配置は、甕形土器に装飾を施す土器作りの作法が、二枚橋式を起点にして広域に波及したプロセスを示すものであって、「続縄文文化」の北方要素とみなすべきではないとした。

第II部では集落配置や遺跡群動態から居住システムの移行について論じた。縄文晩期後半においては、日本海側沿岸の雄物川流域で溝状遺構を、馬淵・新井田川流域では配石遺構を伴う大規模集落が出現し、両地域ともに居住システムに大きな変容が生じたことを明らかにした。交易システムを論じた第III部では、亀ヶ岡文化圏の漆文化と強く結びついた赤色顔料のうち、北海道から運ばれた朱の利用が縄文晩期後半に低調になり、弥生時代には赤鉄鉱ベンガラの代わりにパイプ状ベンガラが流通することが明らかになった。また弥生時代前半期には弥生系文物である碧玉製管玉が流通し、墓に副葬されるようになる。特に弥生前期の事例は列島全体でも非常に古い段階といえ、遠隔地間交渉の文脈において理解する必要があると論じた。
 
I~III部の検討結果から、縄文晩期後半から居住システムや漆文化は変容したのに対して、土器文化や赤色顔料、碧玉製管玉といった物質文化は弥生時代に入ってから変容した要素といえる。東北地方北部における縄文時代から弥生時代への移行は、複合的かつ重層的になされたと結論づけることができる。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 准教授 根岸 洋 / 2022)

本の目次

序論 第1章 東北北部における縄文/弥生移行期論の枠組み
 第1節 はじめに
 第2節 東北地方北部における縄文/弥生移行期の定義
 第3節 伝播論から広域交流モデルへ
 第4節 おわりに
 
第2章 亀ヶ岡社会の変質と移行期論の射程
 第1節 縄文晩期の停滞論
 第2節 亀ヶ岡社会論のゆくえ
 1 林謙作による内在的変質論 / 2 弥生時代研究の視点
 第3節 本書の狙い
 
第I部 土器文化の移行
 
第3章 東北北部における「遠賀川系土器」の再検討
 第1節 問題の所在
 第2節 「遠賀川系土器」をめぐる研究史
 第3節 類遠賀川系土器の編年
 第4節 受容のあり方にみる地域性
 第5節 類遠賀川系土器と土器棺葬
 第6節 総括
 
第4章 砂沢式土器の研究
 第1節 問題の所在
 第2節 研究史
 第3節 津軽地域における砂沢式土器の細別
 第4節 砂沢式土器の波及
 第5節 五所式土器の再検討
 第6節 総括

第5章 二枚橋式土器の研究
 第1節 問題の所在
 第2節 二枚橋(1)遺跡の発掘調査成果
 第3節 二枚橋式土器の編年
 第4節 他地域との併行関係
 第5節 二枚橋式が与えた影響
 
第II部 居住システムの移行
 
第6章  縄文/弥生移行期の居住システムをめぐる言説とその年代
 第1節 問題の所在
 第2節 縄文晩期集落論に関する研究史
 第3節 弥生集落論の研究史
 第4節 東北地方北部における縄文/弥生移行期の測定年代
 第5節 総括

第7章 大型住居跡からみる縄文/弥生移行期の継続性
 第1節 問題の所在
 第2節 住居跡の規模
 第3節 縄文時代晩期後葉の大型住居跡
 第4節 弥生時代との継続性
 第5節 考察

第8章 遺跡群動態から見た居住形態の移行
 第1節 はじめに
 第2節 遺跡群と地理的環境
 第3節 遺跡群動態の検討
 第4節 集落配置と居住集団の動態
 第5節 総括

第9章 縄文/弥生移行期の集住システムとその背景
 第1節 はじめに
 第2節 馬淵川・新井田川流域の分析
 第3節 縄文晩期の大型竪穴住居跡
 第4節 縄文/弥生移行期における溝跡の再評価
 第5節 総括
 
第III部 交易システムの移行
 
第10章 赤色顔料利用形態からみる交易システムの移行
 第1節 問題の所在
 第2節 縄文晩期のベンガラ
 第3節 縄文時代後期・晩期の朱
 第4節 弥生時代の赤色顔料利用形態
 第5節 まとめと考察

第11章 東北北部における碧玉製管玉
 第1節 研究史と問題の所在
 第2節 帰属時期に関する検討
 第3節 法量に関する検討
 第4節 考察

総論
 第1節 はじめに
 第2節 土器文化の移行
 第3節 居住システムの移行
 第4節 交易システムの移行
 第5節 おわりに

おわりに/図版典拠/引用文献/附篇

関連情報

受賞:
第9回青森県考古学会村越潔賞受賞(2021年6月26日)
 
書評:
佐藤祐輔 評 (『考古学研究』第68巻第2号(通巻第270号) p.96-98 2021年9月)
https://www.book61.co.jp/book.php/N91996
 
斎野裕彦 評 (『古代文化』第73巻第2号 (通巻第625号) p.302-304 2021年9月)
https://www.book61.co.jp/book.php/N091915
 

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