東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

グレーの表紙に黒と赤の大きな題字

書籍名

東大教授が教えるヤバいマーケティング

著者名

阿部 誠

判型など

288ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2019年5月24日

ISBN コード

9784046040602

出版社

KADOKAWA

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東大教授が教えるヤバいマーケティング

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たとえばマクドナルドでビッグマックのバリューセットを買ったときのことを思い出してください (買ったことがない人は、想像してみてください)。
 
そのときビッグマックのバリューセットを選んだのは、たんに食べたかったからでしょうか? 食べたくないものを買うわけはないので、もちろんそのとおりでしょう。でも、よくよく考えてみれば、別にバリューセットではなくても、よかったかもしれませんよ。「本当はポテトはいらないんだけど……」と思っている人もいらっしゃるはずです。にもかかわらず、なぜバリューセットを買ったのか――。
 
そうした消費行動が、どのような原理に基づいてなされているのかを解説したのが本書です。消費行動の原理などと書くと、専門的で難しいと思うかもしれません。そんなことを知ってどうなるのか、と思う人もいるでしょう。でも、ぜひ知っておいていただきたいのです。なぜなら、店側は消費者がどのような行動原理で商品を購入しているのか、すべて知っているからです。知ったうえで、さらにどのような売り方をすれば購入してくるのかの研究を日夜行っているのがマーケターたちなのです。
 
マーケターは消費行動の原理に基づき、魅惑的なマーケティング活動を展開することで、消費者を誘惑します。その結果、消費者はときとして無駄な買い物をしてしまうケースも少なくありません。情報の非対称性という言葉がありますが、売り手と買い手が持っている情報の違いにより、買い手が損をするということはしばしば見られます。
 
だからこそ、自分たちがどのような行動原理に基づいて消費活動を行っているのか、それを消費者自身が知ることで、マーケターの巧みな誘導に乗ることなく、不本意な消費を避けることができるようになるのです。
 
日々マーケティングに接触している消費者として、自分が非合理的な判断を下す可能性があること、そして、どうすればより合理的に購買意思決定ができるかを知ることは重要です。
 
そのヒントを与えてくれるのが、行動経済学であり、認知心理学・社会心理学です。「行動経済学」という言葉は、最近ニュースでもよく耳にするようになりました。同分野から何名かの研究者にノーベル経済学賞が授与された影響もあります。とはいえ、行動経済学はまだ世間一般にはなじみがない学問かもしれません。
 
世界でもっとも有名なマーケティング学者であろうフィリップ・コトラーは、日本経済新聞2013年12月31日の朝刊に掲載された「私の履歴書」で、以下のように語っています。
 
「実は行動経済学は『マーケティング』の別称にすぎない。過去100年にわたりマーケティングは経済学とその実践に基づく新たな知識を生み出し、経済システムが機能する仕組みに関することに役立ててきた」
 
つまり、読者のみなさんは、一般消費者として日々「行動経済学」に接しているのです。この本を通じて、読者のみなさんが行動経済学を、そして認知心理学や社会心理学を学ぶキッカケとなれば、この分野に関わっている研究者として、これほどうれしいことはありません。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 阿部 誠 / 2019)

本の目次

CHAPTER 1
人は非合理的に行動する生き物 ― かしこいマーケターはそこに目を付ける
・マクドナルドのメニューはなぜ見づらい?
・楽をするからつけこまれる ― ヒューリスティックとバイアス
・都合よく解釈して「分かったつもり」 ― 確証バイアス
 
CHAPTER 2
その商品、本当に必要? ― プロダクト
・知覚を惑わすおとり商品 ― フレーミング効果
・イケアが人気の理由 ― イケア効果
・「訳あり」商品に隠された本当の狙い ― 両面提示広告の罠
・成功する企画、失敗する企画 ― カテゴリー一貫性
ほか
 
CHAPTER 3
値付けに込められた意図 ― プライス
・普通に買うより安いセット商品は本当にお得?
・「返金保証」で実際に返金を求める? ― ネガティブ・オプション・プライシング
・お店のダメージを最小限に抑える値上げの仕方 ― 価値関数
・頭の中には複数の銀行口座が存在する ― 心理的勘定
ほか
 
CHAPTER 4
広告を見る目が変わる ― プロモーション
・なぜ同じ広告を何度も流すのか? ― 単純接触効果
・恐怖をあおる広告の裏事情 ― ネガティビティー・バイアス
・限定商品に惹かれるメカニズム
・おとり広告の罠 ― ローボーリング、ベイト&スイッチ
ほか
 
CHAPTER 5
そこで買ってもいいのか? ― プレイス
・価格競争を避けるための差別化 ― ブランデッド・バリアント (流通経路専用モデル)
・嫌われる営業マンの作法 ― 心理的リアクタンス
・ステルス・マーケティングに要注意! ― ハーディング現象
・ソーシャルゲームにはまる人が続出するこれだけの理由
ほか
 
CHAPTER 6
消費者に見られる心理 ― コンシューマー
・気分がいいときや空腹時は買い物ダメ!
・まとめサイトには要注意
・サブウェイがいま一つブレークしない理由
・タイムプレッシャーが先送りを減らす
ほか
 
CHAPTER 7
売り手側の事情 ― コンペティター
・「最低価格保証」は本当にお得で安心?
・あなたは現金値引き派? それともポイント付与派?
・新規事業に参入すべきか、否かの分かれ目
ほか
 
CHAPTER 8
企業が知っておくべきこと ― カンパニー
・ペプシとコカ・コーラ、どちらがうまい?
・グループインタビューの落し穴 ― 集団における覚知の限界
・大体、失敗に終わる企業合併と買収 ― M&Aにおける「勝者の呪い」
・「成功の法則」は妄想 ― ビジネス書にだまされるな!
ほか
 

関連情報

連載:
阿部 誠 「「自分へのご褒美」のメカニズム 残業帰りはコンビニに近づくべきではないワケ」
(PRESIDENT Online 2019年9月12日)
https://president.jp/articles/-/29929
 
阿部 誠 「「オマール海老のカルパッチョ」の謎: なぜ高級フレンチのメニュー名は異様に長いか」
(PRESIDENT Online 2019年9月10日)
https://president.jp/articles/-/29927
 
阿部 誠 「販促効果は”値引き”の3.6倍もある: なぜか満足度が高まる”ポイント還元”の罠」
(PRESIDENT Online 2019年7月10日)
https://president.jp/articles/-/29266
 
阿部 誠 「人間心理を手玉にとるCMの作り方: 5つ星より1つ星のレビューが気になる訳」
(PRESIDENT Online 2019年6月29日)
https://president.jp/articles/-/29181
 
阿部 誠 「原因は「スキーマ」の極端な不一致: 緑の珈琲がアリで無色コーラがダメな理由」
(PRESIDENT Online 2019年6月24日)
https://president.jp/articles/-/29115
 
阿部 誠 「一度手を出すと二度とやめられない: ソシャゲの課金沼がどんどん深くなるワケ」
(PRESIDENT Online 2019年6月11日)
https://president.jp/articles/-/28946
 
阿部 誠 「何気ない選択に潜む”バイアス”の罠: なぜマックではポテトを頼んでしまうのか」
(PRESIDENT Online 2019年6月3日)
https://president.jp/articles/-/28859
 
阿部 誠 「東大教授が教える”ヤバい”マーケ術: なぜか高いと感じない”値上げ”のカラクリ」
(PRESIDENT Online 2019年5月30日)
https://president.jp/articles/-/28784
 

[スキルUP] マクドナルドのメニューはわざと見づらくなっている/ヤバいマーケティング[1]
(『StudyWalker』 2019年7月18日)
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[スキルUP] 見慣れたものは印象が強くなる! 影響を受けやすい脳の癖を知ろう/ヤバいマーケティング[2]
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[スキルUP] 先駆者、出る杭、代表的……人々の記憶に残るための条件とは?/ヤバいマーケティング[10] (『StudyWalker』 2019年7月31日)
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[スキルUP] 緑や赤ならビタミンコーヒーもアリになる!?/ヤバいマーケティング[12] (『StudyWalker』 2019年8月2日)
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書評:
土居丈朗 評 (『週刊エコノミスト』p.52 2019年8月6日号)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20190806/se1/00m/020/013000c


阿部 誠 プロフィール:
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。1991年マサチューセッツ工科大学博士号 (Ph.D.) 取得後、同年からイリノイ大学助教授に就任。1998年東京大学大学院経済学研究科助教授を経て、2004年から現職。ノーベル経済学賞受賞者との共著も含めて、マーケティング学術雑誌に英文、和文の論文を多数掲載。2003年にJournal of Marketing Educationからアジア太平洋地域の大学のマーケティング研究者第1位に選ばれる。おもな著書に『大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)、共著書に『[新版]マーケティング・サイエンス入門――市場対応の科学的マネジメント』(有斐閣)がある。
 

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