東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

薄い赤模様の表紙

書籍名

マーケティング効果の測定と実践 計量経済モデリング・アプローチ

著者名

D.M. ハンセン、L.J. パーソンズ、R.L. シュルツ (著)、 阿部 誠 (監訳)、 パワーズ 恵子 (訳)

判型など

484ページ、A5判、並製カバー付き

言語

日本語

発行年月日

2018年8月

ISBN コード

978-4-641-16520-5

出版社

有斐閣

出版社URL

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マーケティング効果の測定と実践

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ITの発展、状況・要因の複雑化とその時間的変動、不確実性の増大、競合の進歩・洗練、投資家向け説明責任など、現代のビジネス環境は、勘と経験に基づいた判断をするには、リスクがあまりにも大きすぎる。マーケットシェア、売上、利益などの業務指標、そして顧客資産やブランド資産を短期的・長期的観点から管理するためには、客観的なデータに基づいた評価・意思決定が不可欠になっている。マーケティングの現場では、1970年代中頃のビヘイヴァースキャンに代表される広告露出実験データ、70年代後半のスキャン・パネル・データ (世帯別購買履歴)、80年代のシングルソース・データ (同一世帯による購買履歴とテレビ広告接触履歴) など大量のデータが生み出され、ビッグ・データという言葉が生まれるより30年近く前からマーケティングの情報革命が始まっていた。
 
昔から経済学者は「需要」と「価格」の関係を数理的に分析してきた。しかし企業が操作する変数は、価格以外にも広告、営業販売組織、流通、販促など多岐にわたる。経済学の知見を実際のデータに適用し現場の意思決定に役立てるためには、マーケティング・サイエンティストの力が不可欠である。このような背景の中で、本書は21世紀初め (2001年) までの4半世紀にわたる計量経済時系列分析のマーケティング・サイエンスにおける実証研究とビジネスへの応用例を系統的に整理したものである。読者のターゲットはマーケティングの研究者と実務家であり、本書はプランニング、予測、意思決定において、いかなるマーケティング組織でも実践可能な論理的な分析のフレームワークを提供している。
 
第I部のイントロダクションでは、マーケティングにおける市場反応モデルの基本的な考え方 (第1章)、そして市場とデータ (変数、集計) の関係 (第2章) が紹介されている。第II部では変数の平均や分散が固定されている静学的反応モデルを取り扱っている。クロスセクション・データを扱う静的モデリングでは関数形や異質性を説明し (第3章)、時系列データを扱う動的モデリングでは時点をまたいだ変数のラグ効果に焦点を当て (第4章)、パラメータ推定とモデル検定が紹介されている (第5章)。第III部では変数の平均や分散が変動する動学的反応モデルを取り扱っている。単一時系列の分析では時系列パターンの認識を説明した後、市場が進化しているのか否かの診断を紹介し (第6章)、それを多変量に拡張して変数の均衡や因果関係の推測に適用している (第7章)。第IV部では市場反応モデルを適用することよって得られたマーケティングの経験一般化に関する知見 (第8章) と、市場反応モデルによる意思決定最適化と予測 (第9章) を紹介している。
 
1990年に発刊された380ページの初版 (Hanssens, Parsons, and Schultz, 1990) は、12年の時を経て構成を大幅に変えて500ページを超える第2版 (本書) へと進化した。参考文献だけでも54ページにわたり、1000本以上の論文が引用されている。お世辞にも引用数が多いとはいえない監訳者の論文でさえ3カ所で言及されているほど、関連研究の流れを完璧にカバーしている。本書の内容が濃密であることは疑いもない事実であるが、初版読者の長年にわたる使用を経て質的にもそれ以上にリファインされたものとなっている。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 阿部 誠 / 2019)

本の目次

第1部  序説
 第1章  マーケティング・マネジメントのための市場反応モデル
 第2章  市場,データと,売上動因
第2部  定常的市場における市場反応
 第3章  静学的反応モデルの設計
 第4章  動学的反応モデルの設計
 第5章  パラメータ推定とモデル検定
第3部  進化的市場での市場反応
 第6章  マーケティングにおける1変量時系列分析
 第7章  マーケティングにおける多変量時系列分析
第4部  ETSでマーケティング問題を解く
 第8章  実証研究の成果とマメジメントへの示唆
 第9章  マーケティング計画の立案と売上予測
第5部  結論
 第10章  マーケティング・モデリングの実用化
 

関連情報

阿部 誠 プロフィール:
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授。1991年マサチューセッツ工科大学博士号 (Ph.D.) 取得後、同年からイリノイ大学助教授に就任。1998年東京大学大学院経済学研究科助教授を経て、2004年から現職。ノーベル経済学賞受賞者との共著も含めて、マーケティング学術雑誌に英文、和文の論文を多数掲載。2003年にJournal of Marketing Educationからアジア太平洋地域の大学のマーケティング研究者第1位に選ばれる。
おもな著書に『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(KADOKAWA)、『大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)、共著書に『[新版]マーケティング・サイエンス入門――市場対応の科学的マネジメント』(有斐閣)がある。
 

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