東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

茶色いコルクボードのような表紙にサイズ大のフォントで題字

書籍名

大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる

著者名

阿部 誠

判型など

224ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2017年9月29日

ISBN コード

9784046020154

出版社

KADOKAWA

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ちまたには「ヒットの法則――これをやればあなたも必ず成功する」などと謳うたうビジネス書が溢れていますが、残念ながらそのような法則は存在しません。ビジネスの世界では、数えきれないほどの要因が結果に影響を与えます。よく知られるマーケティングの3Cを考えてみても、組織やステークホルダーなど会社に関する要因 (Company)、市場や環境に関する要因 (Customer)、同業・異業種の競合に関する要因 (Competitors) などが無数に存在し、それらがすべて同じ条件になることはありません。ビジネスにおける多くの事例やケースは単なる相関関係をあらわしたものであり、因果関係と早とちりしてはいけません。
 
しかし成功する確約がないからといって、マーケティングをあきらめるのは早急です。マーケティングに客観的な視点を取り込むことによって、成功の「確率」を高めることはできます。継続的にヒット商品を生み出す確率を高めるために重要なことは、客観的かつシステマティックに顧客から継続的に学び続けてPDCA (Plan→Do→Check→Act) サイクルを回していくことなのです。
 
実務のマーケティングには、サイエンスの側面 (客観的、理論的) とアートの側面 (クリエイティビティー) の両方が必要となってきます。大学の授業で学べるサイエンスのパート、つまりマーケティングの原理・原則をコンパクトにまとめたものが本書です。「測定できないものはコントロールできない」、実務において科学的アプローチを学ぶ利点は、組織としてマーケティング・マネジメント・プロセスを共有するために必要な言語を共有できることです。それによって、系統的に顧客から学ぶ仕組みづくりを考えることが可能になり、データと論理にもとづいた意思決定を繰り返すことによって、意思決定の精度を向上させることができるのです。
 
日々の忙しい業務に追われていると、どうしても論理的かつ系統的な考え方をもつ余裕がない場合があります。その際、本書がサイエンス的な思考の習得に役立てば幸いです。一方、アートの側面を習得するためには、実際のビジネスを経験しながら身につけていく必要があります。本書を読んで内容が頭に入っていても、それを現場特有のマーケティング環境に適用できるように修正、改善、拡張するには、実際に手を泥に染めて成功や失敗の体験を積むしかありません。その際、理論と論理的思考を意識することで、トライアル・アンド・エラーの効率は格段に高まるはずです。
 
私は米国イリノイ大学のビジネススクールで6年間、東京大学で20年間、学部と大学院でマーケティングの教壇に立ってきました。本書には私自身が今まで学部、修士、博士の学生たちから学んだ多くのことが反映されています。トピック的には、「ビジネススクール2年間のマーケティングが10時間でざっと学べる」ようにもなっています。欧米のビジネススクールはいわゆる専門職大学院と呼ばれるものですが、学生が学部で専攻した分野は文系・理系さまざまです。MBA (経営学修士) コースではマーケティングのバックグラウンドを前提としていないため、学部4年間の東京大学のマーケティングと内容的には大差ありません。

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 教授 阿部 誠 / 2018)

本の目次

第1部  市場・顧客の分析とマーケティング戦略の立案
1. マーケティングへの招待……マーケティングの進め方とは? ほか
2. ビジネス・チャンスの発見……どのような事業を選択すればいいのか? ほか
3. 消費者行動……人が消費に至るメカニズムを解き明かす ほか
4. 消費者行動のプロセス……不満足がニーズを生み出す ほか
5. マーケティング・リサーチ……どうすれば有益な知見が得られる? ほか
6. マーケティング戦略……頭痛薬に求めるのは「胃へのやさしさ」?「痛み止め効果」? ほか
 
第2部  マーケティング戦術の策定と実施・管理
7. 製品……製品は「属性の束」 ほか
8. 製品開発で有用な手法と概念……顧客の声を真摯に聞いていればよいのか? ほか
9. 価格設定……価格は3つの意味をもつ ほか
10. プロモーション……4つの購買段階「AIDA」を促進する ほか
11. 販売促進 (SP)……値引き販促は「劇薬」 ほか
12. プレイス (流通と営業)……地図をかしこく使う ほか
13. テスト……リスク回避のための3つのテスト ほか
14. コントロール……STP戦略と4P戦術の動的展開 ほか
 
第3部  現代マーケティング
15. CRM……優良顧客を識別する ほか
16. インターネット……新たに登場した「情報」の中間業者 ほか
17. ビッグデータ……データの山から価値を探し当てろ! ほか
18. ブランド……ブランドとは顧客への「約束」 ほか
19. サービス・マーケティング……サービスで勝つにはどうすればいいのか? ほか
20. 顧客は資産……「お客様は神様です」を超える ほか
 

関連情報

阿部 誠  (ABE, Makoto)
フンボルト大学 (ベルリン)、UCLA (アメリカ)、イェール大学 (アメリカ)、ニューサウスウェールズ大学(シドニー) にて、客員教授、准教授、研究員を歴任。ノーベル経済学賞受賞者との共著も含めて、マーケティング学術雑誌に英文、和文の論文を多数掲載。2003年にJournal of Marketing Educationからアジア太平洋大学のマーケティング研究者 第1位に選ばれる。2010年から日本マーケティング・サイエンス学会の学会誌編集委員長を務める。

おもな著書に『(新版) マーケティング・サイエンス入門: 市場対応の科学的マネジメント』(有斐閣)、『マーケティングの科学―POSデータの解析』(朝倉書店)、『[図解] 大学4年間のマーケティングが10時間でざっと学べる』(KADOKAWA) などがある。

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