東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

男女のイラストが描かれた白と黄色の表紙

書籍名

未来をはじめる 「人と一緒にいる」ことの政治学

著者名

宇野 重規

判型など

296ぺージ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2018年9月25日

ISBN コード

978-4-13-033108-1

出版社

東京大学出版会

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未来をはじめる

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本書は都内の私立女子中・高校で行なった政治学の講義を元にしている。なるべく大学の政治学の入門講義とは異なる内容を盛り込み、より中学生・高校生の身近な関心に沿って政治や民主主義について考えてもらうことを目的にしているが、そのねらいが成功しているかは本書を読んで判断していただくしかない。
 
本書を企画した一つのきっかけは、いわゆる「若者の政治離れ」である。確かに18歳選挙権の導入にかかわらず、若年層の投票率は低迷している。各種世論調査を見ても、「代議制民主主義を信頼している」と回答する割合は、20~30代において3割程度しかいない。逆に言えば、残りの7割は代議制民主主義を信頼していないことになる。若者は政治や民主主義を信じておらず、だからこそ投票にも行かない。しばしば、このように言われるが、それは本当なのだろうか。
 
著者の日頃の実感はこれとやや違う。東京大学の学生に限らないが、あちこちで出会う多くの中高生を含む若い世代から、「何らかのかたちで社会に貢献したい」、「社会を変える仕事をしたい」という声を聞いてきた。そこからうかがえるのは、「社会に貢献したい」という思いと「政治に関わりたい」という志望の間の絶望的なギャップである。
 
このギャップをどう埋めるか−これこそが、本書の出発点であった。
 
まずは生徒たちの世界観から出発した。しばしば報道では、「世界では格差が拡大し、そのことが民主政治を混乱させ、世論の分断とポピュリズムの台頭を呼んでいる。民主主義は後退し、独裁的指導者の台頭も見られる。世界は無秩序と混乱に向かっている」と言われるが、はたしてそうなのか、というところから生徒たちと議論を始めた。特に、新興国と呼ばれる国々での中間層の増大、世界全体における平均寿命の向上などを確認し、世界全体で見れば、かつての先進国と開発途上国の間に平等化の傾向が見られることについても議論した。
 
女子中・女子高での講義ということもあり、日本におけるジェンダー不平等も大きな議論のポイントとなった。性別役割分業や、ジョブ型・メンバーシップ型など働き方の違いについても話題になった。そこからうかがえたのは、彼女たちの生活実感に基づく、ある種の「迷い」のようなものであった。そこからさらに「運と平等」へとテーマが拡大したが、どのような社会のあり方が公正なのか、多くの重要な問題提起を彼女たちと確認できたことは、本書の大きな意味となっていると思う。
 
本書中盤以降になると、古典的な政治思想家についての議論や、政治学の入門に必ず登場する選挙制度の話題も出てくる。クラスの中での友だち関係から、ルソーやアーレントまで、広く政治を考えるための素材を提供する一冊である。これまで政治学に距離を感じていた人に手に取ってほしい。

 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 宇野 重規 / 2020)

本の目次

第1講 変わりゆく世界と<私>
1 世界はお先真っ暗?
2 未来予測は、けっこう外れる
3 変わりゆく世界のイメージ
4 隠れていた人々の声があらわに
5 対立がなくならないなら、どうすれば
 
第2講 働くこと、生きること
1 どこまで、何を政治にのぞむのか
2 女性が活躍する社会ってどういうこと?
3 民主主義と市場経済の間には
4 日本人は国に何を期待しているのか
 
第3講 人と一緒にいることの意味
1 教室内にある政治
2 「弱いつながり」がブレイクスルーをもたらす?
3 自由でありながら、人と一緒にいるには
4 200年前から続く議論
 
第4講 選挙について考えてみよう
1 民主主義と多数決
2 出来がよくない集約ルール、選挙制度
3 もっと選挙制度について考えよう
4 想像力の壁を超えて
 
第5講 民主主義を使いこなすには
1 未来への意志
2 僕らの意志を社会に反映させるには
3 プラグマティズムの民主主義
4 現代の民主主義はどこにある?
5 ハンナ・アーレントのメッセージ
 
放課後の座談――講義を振り返る
 

関連情報

特別講義:
豊島岡女子学園で考える政治の未来 (第1回) (豊島岡女子学園ホームぺージ 2017年5月27日)
https://www.toshimagaoka.ed.jp/4881/
 
豊島岡女子学園で考える政治の未来 (第2回) (豊島岡女子学園ホームぺージ 2017年6月17日)
https://www.toshimagaoka.ed.jp/4849/
 
豊島岡女子学園で考える政治の未来 (第3回) (豊島岡女子学園ホームぺージ 2017年7月29日)
https://www.toshimagaoka.ed.jp/4811/
 
豊島岡女子学園で考える政治の未来 (第4回) (豊島岡女子学園ホームぺージ 2017年8月19日)
https://www.toshimagaoka.ed.jp/4781/
                                                               
豊島岡女子学園で考える政治の未来 (第5回) (豊島岡女子学園ホームぺージ 2017年9月16日)
https://www.toshimagaoka.ed.jp/4730/
 
生徒が参加した「豊島岡女子学園で考える政治の未来」が本になりました! (豊島岡女子学園ホームぺージ 2018年9月21日)
https://www.toshimagaoka.ed.jp/4350/
 
著者コラム:
宇野重規「日本人が「他人のズル」を激しく妬む理由」 (PRESIDENT Online 2018年11月16日)
https://president.jp/articles/-/26692?page=1
 
著者インタビュー:
宇野教授 (東京大社会科学研究所) が解説する 若者に知ってほしい政治学 (山陰中央新報 2019年4月6日)
https://www.sanin-chuo.co.jp/www/contents/1554531428604/index.html
 
書評:
図書館員のおすすめ本 (日本図書館協会) (『週刊読書人』3341号 2020年5月29日)
https://dokushojin.com/review.html?id=7444
 
書評空間 竹園公一朗 (白水社) 評 Theme 1 他者とともに生きる (紀伊國屋書店BOOKLOG 2020年11月4日)
https://booklog.kinokuniya.co.jp/2020/11/04/094835
 
大久保俊輝 (亜細亜大学特任教授) 評 (『日本教育新聞』No. 6194 2019年6月10日)
http://www.kyoiku-press.co.jp/archives/2334
 
私の読書録 (衆議院議員 太田あきひろホームぺージ 2019年4月10日)
https://www.akihiro-ohta.com/blog/2019/04/post-1812.html
 
本よみうり堂 トレンド館 ほんの散策 鵜飼哲夫 氏 評 (読売新聞夕刊 2019年1月7日)
 
坂井豊貴 (経済学者・慶応大教授) 評「中高生と考える政治」 (読売新聞オンライン 2018年12月17日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20181210-OYT8T50050/
 
中沢孝夫 (兵庫県立大学大学院客員教授) 評 (『週刊東洋経済』12/22号 2018年12月17日)
https://str.toyokeizai.net/magazine/toyo/20181217/
 
高校生による紹介 (『MORGEN』12月7日号 2018年)
http://yugyosha.web.fc2.com/
 
小林直之 (編集者・文芸評論家) 評 (『河北新報』 2018年12月9日)
 
内田麻理香 (サイエンスライター) 評 (毎日新聞 東京朝刊 2018年12月5日)
https://mainichi.jp/articles/20181205/ddm/015/070/027000c
 
笈入建志 (往来堂書店店長) 評 (『うかたま』冬 2019年Vol.53 2018年12月5日
http://ukatama.net/issues/201901/contents.html
 
三浦瑠麗 評 (『女性セブン』12/13号 2018年)
 
三浦瑠麗 (国際政治学者) 評 人と人との関わりが政治 (『日経ビジネス』11/26号 2018年11月23日)
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/15/culture/111600339/
 
[読書]/教育/宇野重規著//未来をはじめる「人と一緒にいること」の政治学/自分と他者との相違学ぶ (沖縄タイムス 2018年11月10日)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/343703
 
原田謙介 (NPO法人ユースクリエイト代表理事) (各地方紙 2018年11月4日)
 
話題の本 (『週刊エコノミスト』11/13号 2018年11月2日)
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20181113/se1/00m/020/010000c
 
ナチュラリスト読書会 (RCCラジオ 一文字弥太郎の週末ナチュラリスト朝ナマ! 2018年10月27日)
https://radio.rcc.jp/naturalist-blog/dokusyo/entry-8189.html
 
松澤隆 (編集者) (WEBRONZA 2018年10月15日)
https://webronza.asahi.com/culture/articles/2018100400007.html
 
村上浩 評 『未来をはじめる 「人と一緒にいること」の政治学』で新しい未来をはじめるための第一歩を踏み出す (HONZ 2018年10月2日)
https://honz.jp/articles/-/44943
 
書籍紹介:
みすず読書アンケート特集号 (みすず書房1月・2月合併 2019年)
(毎日新聞 2018年12月5日)
(公明新聞 2018年12月3日)
 

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