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深緑の表紙

書籍名

中公新書 保守主義とは何か 反フランス革命から現代日本まで

著者名

宇野 重規

判型など

232ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2016年6月22日

ISBN コード

978-4-12-102378-0

出版社

中央公論新社

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保守主義とは何か

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昨今、ある意味で「保守」という言葉が濫用されています。時には、排外主義や反フェミニズムの姿勢を指して、保守と呼ぶことすらあります。
 
政治勢力としての保守主義の歴史を振り返ると、最初はフランス革命を批判する勢力として生まれました。のちに社会主義、さらには大きな政府を支持するリベラリズムに対抗する立場が保守と呼ばれました。人権など抽象的な理念を掲げて急進的な改革を推進する勢力に対して、ブレーキをかけるのが保守主義の役割だったのです。
 
しかし、現在、そのような急進的な改革主義は力を失いました。結果として、保守主義は敵を見失い、自分らの定義も分からなくなっているのかもしれません。そして、保守という言葉が無限にインフレを起こしてしまっています。これになんとかストップをかけたいというのが、本書の狙いでした。
 
守るべきものは守る。しかし、変えるべきものは変えていく。それが保守主義の真髄です。現実を無視して抽象的な理念を振りかざし、ゼロから社会を作り変えようとするのではなく、これまで歴史的に構築されてきたものを活かしつつ、時代に合わせて改良していく。過去に対する深い洞察と現実主義という保守主義の知恵が、現在失われつつあるように思えてなりません。
 
保守主義というとエドマンド・バークの著作『フランス革命の省察』がしばしば取り上げられますが、彼はアイルランドの出身です。また、保守政治家というと、体制派というイメージがありますが、彼はほとんどの期間が野党、それものちに自由党になるホイッグ党に所属していました。バークは、アメリカの独立運動を支持しました。ときに国王と対立することも辞さなかったバークは、しかるべき役割を逸脱して、自由を尊重する良き伝統を崩そうものなら、たとえそれが国王であっても対抗したのです。
 
それにも関わらず、バークはフランス革命が起きたとき、これを批判して『フランス革命の省察』を書きます。彼は改革を否定したわけではありませんが、既存の社会仕組みを全て白紙にして、抽象的なモデルに基づいた新しい国家を一から作り直すことには批判的でした。さらにバークは、一見、不合理に見えるような伝統や慣習でも、過去から続いているものにはそれなりに理由があることを重視しました。それが理解できないからといって、直ちに破壊するべきではない。その前提には、人間が不完全だという認識がありました。人間の理性や知性ですべてを把握することはできないのです。
 
現代において、保守主義の意味がどんどん拡散していく中で、それぞれが自分なりに大切にしたいものを守る、それが保守主義だということも、悪くないのかもしれません。ただし、その際には必ず、お互いに何を大切にしたいのか、それを尊重した上で議論をすることが不可欠です。

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 宇野 重規 / 2019)

本の目次

序  章  変質する保守主義―進歩主義の衰退のなかで
第1章  フランス革命と闘う
第2章  社会主義と闘う
第3章  「大きな政府」と闘う
第4章  日本の保守主義
終  章  二一世紀の保守主義
 

関連情報

対談:
水島治郎x宇野重規「民主主義の曲がり角で、いま」 (週刊読書人3176号 2017年2月10日号)
http://www.dokushojin.co.jp/?pid=113546166
 
宇野重規x荻上チキ「保守主義を再定義する――起源から辿る「保守」の真髄」 (SYNODOS 2016年11月4日)
https://synodos.jp/politics/18454
 
 
書評:
鷲田清一 折々のことば (朝日新聞朝刊 2017年1月30日)
 
(『週刊東洋経済』 2016年12月24日号)
https://str.toyokeizai.net/magazine/toyo/20161219/
 
片岡大右 (東京大学研究員) 評 バーク的保守主義の歴史的性格 その原理を概観し、現代的意義を説く (週刊読書人ウェブ 2016年10月28日)
https://dokushojin.com/article.html?i=422
 
(『週刊エコノミスト』 2016年10月18日号)
https://www.weekly-economist.com/2016/10/18/%E7%9B%AE%E6%AC%A1-2016%E5%B9%B410%E6%9C%8818%E6%97%A5%E5%8F%B7/
 
中野剛志 (評論家) 評 (『公明新聞』 2016年8月15日)
 
河野龍太郎 (BNPパリバ証券経済調査本部長) 評 (『週刊東洋経済』 2016年8月13・20日号)
https://str.toyokeizai.net/magazine/toyo/20160808/
 
(『週刊新潮』 2016年8月11・18日号)
https://www.shinchosha.co.jp/shukanshincho/backnumber/20160803/
 
中島岳志 (東京工業大学教授) 評 ライバル弱体化で衰えていく「大人の思想」はどう再生すべきなのか (産経新聞 2016年8月7日)
https://www.sankei.com/politics/news/160807/plt1608070008-n1.html
 
(日本経済新聞朝刊 2016年8月7日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO05769810W6A800C1MY6000/
 
林操 (コラムニスト) 評 はがれる“自称”保守の化けの皮 保守理解のためのテキスト (週刊新潮 2016年7月21日号)
https://www.bookbang.jp/review/article/515377
 
(『週刊文春』 2016年7月14日号)
http://shukan.bunshun.jp/articles/-/6327
 

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