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白とコバルトブルーの表紙

書籍名

中公選書 日本の保守とリベラル 思考の座標軸を立て直す

著者名

宇野 重規

判型など

288ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2023年1月10日

ISBN コード

978-4-12-110132-7

出版社

中央公論新社

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日本の保守とリベラル

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本書は近現代の日本における「保守」と「リベラル」の政治と思想を検討することを目的とする。しかし、そもそも「保守」とは何か、「リベラル」とは何か。日本の思想を「保守」と「リベラル」という視角から分析することに意味があるのか。これらの疑問が自ずと生じるはずである。
 
実を言えば、「保守」と「リベラル」は必ずしも対の概念ではない。「保守」の反対は「革新」や「急進」であるし、「リベラル」の対抗概念は「権威主義」や「不寛容」である。両者は次元の異なる話であり、必ず二者択一の選択肢ではない。にもかかわらず、両者がセットとして語られ続けているのは、アメリカの影響であろう。アメリカでは、リベラリズムをめぐる基本的な合意を前提に、小さな政府を説く自由主義が「保守」、政府のより積極的な役割を重視する自由主義が「リベラル」と呼ばれる。戦後日本では、長らく「保守」と「革新」が対として論じられてきたのであり、「保守」と「リベラル」が言われるようになったのは、冷戦終焉後の1990年代になってのことに過ぎない。
 
しかしながら、本書ではあえてこの図式を用いて、近現代日本の歴史を探っている。それはいわば、思考実験のためである。結論から言えば、明治維新と敗戦という二つの大きな政治体制の切断がある近代日本において、エドマンド・バーク以来の、本来の意味での保守主義は成り立ちにくかった。にもかかわらず、本書では伊藤博文から陸奥宗光、原敬、西園寺公望、牧野伸顕とつながる系譜を現体制の保守を掲げつつ、その秩序ある漸進的改革を掲げた勢力として「日本の保守」と呼んでいる (逆に、戦後日本では「保守」政党が憲法改正を主張することの奇妙さを強調している)。
 
対するに「リベラル」については、福沢諭吉、石橋湛山、清沢洌などの卓越した「リベラリスト」が存在したものの、政治勢力としてはなかなか確固とした位置を確立することができなかった。確かに福沢らは政治的自由、経済的自由、精神的自由を掲げて、日本社会における「権力の偏重」を批判し、社会の多元性を擁護し続けた。とはいえ、彼らはあたかも稜線のような存在であり、幅広い裾野を持つ「リベラル」の政党や社会運動は、今日なお確立しているとは言えない。
 
その意味では、本書は本来の意味での「保守」と「リベラル」がついに近代日本において存在し得なかったことを説く著作と言えるかもしれない。しかしながら、それは決して欧米の政治思想を理念化して、日本におけるその不在を批判する、いわゆる「出羽守」であることを意味しない。むしろ「日本の近代政治思想をこんな風にも読めるよ」と論じることで、ありうべき日本政治の未来を展望する本として読んでもらえるととてもうれしい。
 

(紹介文執筆者: 社会科学研究所 教授 宇野 重規 / 2024)

本の目次

序  章 あいまいな日本の保守とリベラル
第1章 日本の保守主義
第2章 日本のリベラリズム
第3章 二一世紀の福沢諭吉
第4章 福田恆存と保守思想
第5章 丸山眞男における三つの主体像
第6章 一九七五年―日本における成熟社会論の知的起源
第7章 一九七九/一九八〇年―日本の戦後保守主義の転換点
終  章 日本の「保守」と「リベラル」の現在と未来

関連情報

著者インタビュー・対談:
著者は語る: 「日本の保守とリベラル」宇野重規さんインタビュー (文藝春秋オンライン 2023年4月9日)
https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h5939

kotobaの森 著者インタビュー (『kotoba』2023年春号 2023年3月6日)
https://kotoba.shueisha.co.jp/backnumber/051.html#fragment-2

宇野重規×中北浩爾 融通無碍に膨脹する保守――イズムを失い漂う左派 中北浩爾(一橋大学教授)×宇野重規(東京大学教授) (中央公論.JP 2022年9月14日)
https://chuokoron.jp/politics/121149.html
 
ラジオ出演:
【音声配信】特集「日本の保守とリベラル、その源流を知る」宇野重規(東京大学教授)×荻上チキ×南部広美▼2023年5月15日(月)放送分 (TBSラジオ 2023年5月15日)
https://www.tbsradio.jp/articles/69938/
https://www.youtube.com/watch?v=URJ3nsetftc
 
書評:
源流に遡り概念解きほぐす (日本経済新聞 2023年4月8日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD200XD0Q3A320C2000000/

砂原庸介 評 (東洋経済ONLINE 2023年3月18日)
https://toyokeizai.net/articles/-/659979
 
連載 現在の周辺: 自由の根幹を成す「知」の独立 (毎日新聞 2023年3月8日)
https://mainichi.jp/articles/20230308/dde/014/040/002000c
 
「若者は共産党が「保守」だと思っている…最近の日本における「保守」「リベラル」って何? 浅羽通明が『日本の保守とリベラル』(宇野重規 著)を読む」 (『週刊文春』 2023年3月2日号)
https://bunshun.jp/articles/-/60912
 
本よみうり堂:橋本五郎 (読売新聞特別編集委員) 評「あるべき理念を求めて」 (読売新聞オンライン 2023年2月17日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20230214-OYT8T50062/
 
書籍紹介:
「リベラル知識人」はなぜ嫌われるのか?ノーベル賞作家が暴いた欺瞞とは
東 浩紀:批評家、作家 (DIAMOND online 2024年3月4日)
https://diamond.jp/articles/-/339335
 
あの本が売れてるワケ 若手営業社員が探ってみた 連載第12回
中公選書リニューアル後初の発売即重版!『日本の保守とリベラル』 (中央公論.JP 2023年1月27日)
https://chuokoron.jp/series/122389_2.html
 
新刊「日本の保守とリベラル」 (山陰中央新報ニュース 2023年1月24日)
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/329733
 
イベント:
「保守」と「リベラル」、どこから来て、どこへ向かう?──宇野重規×上田洋子「保守とリベラルは本当に対立しないのか」イベントレポート (ゲンロン編集部 2023年4月26日)
https://webgenron.com/articles/article20230626_01
 
かわさき市民アカデミー特別講座「日本の保守とリベラル」 (認定NPO法人かわさき市民アカデミー 2023年3月30日)
http://npoacademy.jp/f0/special/22special/22special-3-1.pdf?230314
 

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