東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に和の模様

書籍名

新たなる平安文学研究

著者名

藤原 克己 (監修)、 高木 和子 (編)

判型など

235ページ

言語

日本語

発行年月日

2019年

ISBN コード

978-4-909181-21-3

出版社

青簡舎

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

新たなる平安文学研究

英語版ページ指定

英語ページを見る

日本の平安文学、漢文学がご専門の藤原克己名誉教授は、二〇一八年三月に東京大学大学院人文社会系研究科をご退任になった。氏の東京大学での在任期間二〇年のうち、後半期に指導を受けた比較的若い世代の教え子たちと、最後の五年間を共に過ごした同僚が、一冊の小さな論文集として、その間の成果をまとめたのが本書である。世界各国から集まった彼らは、各自の関心に従って、独自の研究を発展させた。専門領域は多岐にわたり、この一冊で幅広く平安文学史を覆う、最先端の成果となっている。
 
藤原克己氏による序文に続き、第I部「漢詩文と和歌」は、三篇の論考を載せる。廖栄発「菅原道真「寒早十首」と白居易・劉禹錫・元稹の流謫文学」は、道真が白居易・劉禹錫・元稹の流謫文学の影響を受けて「寒早十首」を創出したことを論じたもの。宋晗「吟詠される詩序――その表現と効果」は、難解な詩序が宴の場で吟詠されていた点に注目して、同時代におけるその表現効果を考察。田中智子「『古今和歌六帖』第四帖《恋》から『源氏物語』へ――〈面影〉項を中心に」は、古今和歌六帖による歌ことばの錬磨が、源氏物語の散文表現に影響したことを論じている。
 
第II部「源氏物語」は四篇を収める。山口一樹「朧月夜の出仕と尚侍就任」は朧月夜の尚侍としての性格について、先行物語の尚侍の造型を踏襲しながらも女君の苦悩が掘り下げられていることを論じたもの。北原圭一郎「兵部卿宮と光源氏――賢木巻を中心に」は、兵部卿宮の人物造型について、主に賢木巻以前の光源氏との政治的緊張関係に焦点を当てて考察。井内健太「不義の子薫の背負うもの」は、源氏物語第三部の世界において、柏木と女三の宮との密通が薫の造型及び思惟にどのような影響を持ったかを考察。林悠子「サイデンステッカー訳『源氏物語』正篇の〈涙〉」は、訳者が英語圏の読者を考慮して削減したと言う〈涙〉に関わる表現を調査し、英訳『源氏』正篇で15%弱が削減されたことを確認した。
 
第III部「記録と日記」は二篇を収録。アントナン・フェレ「王朝記録文化の独自性と「日記」」は、「日記」に基盤を持つ平安時代の記録文化が中国のそれを継承しつつも、独自に発展したものであることを論じたもの。高木和子「更級日記における長編物語的構造」は、更級日記が菅原孝標女の実体験に基づきつつも、主に源氏物語の表現や構造を通して再構築された可能性を提案する。
 
現在は世界各地、日本各地でそれぞれ独自の研究と教育に尽力している若い仲間たちがますます元気に活躍するように、そして、藤原克己名誉教授が末永くお元気に、我々をお導き下さるように、心より祈念する。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 高木 和子 / 2020)

本の目次

 新たなる平安文学研究のために    藤原克己
 
I 漢詩文と和歌
 菅原道真「寒早十首」と白居易・劉禹錫・元稹の流謫文学     廖栄発
 吟詠される詩序――その表現と効果    宋晗
 『古今和歌六帖』第四帖《恋》から『源氏物語』へ――〈面影〉項を中心に  田中智子
 
II 源氏物語
 朧月夜の出仕と尚侍就任        山口一樹
 兵部卿宮と光源氏――賢木巻を中心に    北原圭一郎
 不義の子薫の背負うもの     井内健太
 サイデンステッカー訳『源氏物語』正篇の〈涙〉     林悠子
 
III 記録と日記
 王朝記録文化の独自性と「日記」     Antonin Ferre
 更級日記における長編物語的構造      高木和子
 
 あとがき               高木和子
 執筆者紹介

このページを読んだ人は、こんなページも見ています