
書籍名
だいわ文庫 源氏物語の作者を知っていますか
判型など
384ページ、文庫判
言語
日本語
発行年月日
2023年12月7日
ISBN コード
9784479320777
出版社
大和書房
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
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この本は、『源氏物語』の成立に到るまでの平安時代の文学史的文化史的な経緯、紫式部の人生、『源氏物語』の内容などをわかりやすく解説したものです。
『源氏物語』の作者は紫式部だとして知られています。しかし、この物語は突然変異的に生まれたわけではありません。漢字で文字を記していた時代を経て、平安時代初期、仮名文字が生まれます。仮名文字によって書かれる和歌や物語は、女性にも参加できる文芸となりますが、初期の制作者はやはり男性が中心でした。長編の作り物語である『竹取物語』『うつほ物語』、在原業平の和歌にまつわるゴシップを物語風に仕立てた『伊勢物語』などは、おそらくは政治的には満たされない男性貴族らによって、気晴らしの種として制作されたもので、作者名は明らかではありません。
そののち次第に、女性も書き手として参加し始めます。『蜻蛉日記』の筆者は、時の権力者である藤原兼家の妻妾の一人でした。自らの結婚生活を生涯にわたって回想し、絵空事の物語ではない、より現実的な日常を詳細に記します。こうして女性の内面を凝視する文章が生み出されたことで、『源氏物語』という内面描写にすぐれた長編物語が、女性の手によって生み出されたのです。
『源氏物語』は、継子譚や貴種流離譚といった、これまでの物語にも見られた話型を随所に取り入れています。数十年前あるいは当時の歴史的実態を踏まえる部分もあり、洗練された和歌の表現、漢文由来の思想性など、多様な優れた要素が見られます。この『源氏物語』の洗練された達成は、それ以前の文学史的な成熟の上にこそ生まれた、時代の産物です。一方で、漢文の教養に秀でた紫式部が、際立った文才と独特の感性をもって成し遂げた偉業であることも、もちろん間違いありません。
本書第1章では、仮名文字のこと、御霊信仰のこと、平安時代の政争のこと、一夫多妻についての今日的理解など、当時の社会的文化的状況について説明します。第2章では紫式部について、おもに『紫式部集』を踏まえながら不明な点の多い前半生を辿り、第3章では夫を亡くした後に、藤原道長の娘、一条天皇の中宮彰子に仕えた後半生を辿ります。『紫式部日記』は、彰子が一条天皇の皇子、敦成 (あつひら) 親王を出産した前後の経緯を中心に記したものですが、その中に『源氏物語』制作の状況や、彰子に漢籍を講義した実績を書きこんでいます。そこには紫式部の一見謙遜するポーズとは裏腹の強い自負心や、自らの物語制作の痕跡を後世に残そうとする強い意志が垣間見えるのです。第4章、第5章では『源氏物語』の筋立ての紹介から、次第により詳細に、内容の面白さを多面的に解きほぐしていきます。
随所に絵や図を入れて、気楽に読める本にしました。この一冊で、平安文学史、紫式部、『源氏物語』を大まかに知ることができます。古文は苦手だという方にも、ぜひご覧くだされば幸いです。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 高木 和子 / 2024)
本の目次
第1章 平安時代を覗いてみませんか
・知るほど不思議な平安朝の文化――漢字と仮名と絵と
・恨みを抱えて死んだ者たち――政治の勝者と敗者
・妻は複数で当たり前?――多情な男に悩まされる女たち
・藤原道長の権勢極まる――時代を創った怪物
・まがまがしい京のまち――「もの」と病、そして……
第2章 『源氏物語』構想の日々
・漢学の素養をもつ娘――紫式部の生い立ち
・父に付いて京を離れ――越前に下った経緯
・年の離れた男との結婚――出会いと別れ
・彰子のもとに女房として仕える――馴染めなかった初出仕
第3章 独り心浮かれぬ回想録
・渡る世間は鬼ばかり?――本意ならぬ人生
・男子を産まねばならない重圧――彰子出産の記録
・明日知れぬ流れに身を任せながら――運命に翻弄される憂い
・藤原道長と紫式部――日記が語る深淵なる関係
・なぜ清少納言に苛立ったのか――世の人に言いたい
第4章 『源氏物語』の世界に分け入る
・冊子制作を始めるころ――研究史の上で重要な一言
・『源氏物語』の作者ということ――はかなき物語
・光源氏というスーパースター――知ってるようで知らない
・あらすじで読む『源氏物語』――読み始めたら、もうやめられない
第5章 読む楽しみは尽きない
・四人の貴公子による恋愛談義――長編化の原動力
・宿世遠かりけり――物語の軸となる課題
・やはり滅法おもしろい――恋の残酷
・すこぶる華やかな光源氏絶頂期――六条院の王権
・すべての歯車が狂っていく――憂愁の晩年
・「宇治十帖」という陰――次世代の物語
関連情報
「『源氏物語』の魅力は「愛の豊かさ」高木和子教授インタビュー」 (東大新聞オンライン 2024年5月1日)
https://www.todaishimbun.org/takagikyoju_20240501/
関連記事:
高木和子「大河ドラマ『光る君へ』雑感[『図書』2024年10月号より]」 (たねをまく|Web岩波 2024年10月3日)
https://tanemaki.iwanami.co.jp/posts/8304
高木和子「大河ドラマで紫式部に注目、「源氏物語」自身も織り込む…高木和子さん寄稿」 (読売新聞オンライン 2024年1月23日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/articles/20240122-OYT8T50134/
書籍紹介:
「大河ドラマ予習に最適 東大教授が語る『源氏物語』の超入門」 (BOOKウォッチ 2023年12月13日)
https://books.j-cast.com/topics/2023/12/13022415.html
「NHK大河ドラマ「光る君へ」が始まる前に読んでおきたい1冊!『源氏物語の作者を知っていますか』発売(12/9)。[大和書房]」 (NIKKEI COMPASS 2023年12月7日)
https://www.nikkei.com/compass/content/PRTKDB000000569_000033602/preview
関連動画:
「第33 回源氏物語アカデミー 特別インタビュー 東京大学大学院教授 高木和子氏」 (越前市公式チャンネル|YouTube 2023年1月16日)
https://www.youtube.com/watch?v=isgjpCGomCo
関連講演・講義:
講演「紫式部と源氏物語、その魅力」 (島根県立大松江キャンパス 2024年11月20日)
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/683317
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/685293
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/685749
講演「源氏物語の魅力」 (古典の日フォーラム2024 2024年11月1日)
https://hellokcb.or.jp/kotennohi/home/forum/
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kyoto/20241101/2010021250.html
特別公開講演「紫式部と和歌」 (第35回源氏物語アカデミー 2024年10月26日)
http://genji-ac.jp/
基調講演「源氏物語の面白さと豊かさと」 (武蔵野地域五大学共同講演会2024 2024年9月13日)
https://www.jiyu-musashino.org/wp-content/uploads/2024/07/Vol.83.pdf
講演「源氏物語の言葉と思考」 (二松学舎大学人文学会第128回大会 2024年7月20日)
https://www.nishogakusha-u.ac.jp/news/?contents_id=2598
能登文化講座「紫式部と源氏物語、その魅力」 (石川県立生涯学習センター 2024年7月6日)
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/shakyo-c/noto/notobunkakouza.html
高校生と大学生のための金曜特別授業「源氏物語の作者を知っていますか」 (東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 2024年4月26日)
https://high-school.c.u-tokyo.ac.jp/lecture_time/2024s/2024s_2.html
「『源氏物語』の作者を知っていますか」 (毎日文化センター 2024年3月27日)
https://mainichi.jp/articles/20240224/ddn/041/040/011000c
講演会「源氏物語の魅力」 (四国大学学際融合研究所言語文化研究部門 2023年12月16日)
https://www.shikoku-u.ac.jp/news/docs/20231216_genjimonogatari_kouenkai.pdf