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薄山吹色の表紙に家紋のようなパターン

書籍名

源氏物語再考 長編化の方法と物語の深化

著者名

高木 和子

判型など

448ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2017年7月25日

ISBN コード

9784000612067

出版社

岩波書店

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源氏物語再考

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源氏物語はどのようにして長編物語となったのだろうか。源氏物語の最初の数巻には、光源氏の一代記を目指すかのような骨格が透けて見える一方で、一巻でほとんど完結するような、短編的なエピソードも少なくない。物語の長編的な骨格は、当初からある程度は予定されていただろうが、詳細に計画され尽くしていたとも考えにくい。短編を積み重ねながら、次第に長編化を目指していった側面も、やはり捨てきれないだろう。
 
本書は、源氏物語がいかにして長編化を果たしたのかについて、おもに物語内部の整合性と齟齬を手掛かりに解き明かすものである。物語はすでにあった短編物語を吸収しながら、その進展に従って、次第に長編的構想を確かにしたのではなかったか。すでに書かれた物語とできるだけ矛盾なく、既存の隙間を埋めるようにして、長編化を果たしていったと考えられる。源氏物語には、作中の時間的経緯や呼称などに、数多くの微細な矛盾が残っているが、それは長編化の過程の痕跡であろう。本書はこうした大局的な問題意識のもとに、従来の研究上の諸課題――成立、構想、構造、人物造型、言葉や表現、和歌、歴史との関係、文学史的定位など――を吸収しつつ、改めて源氏物語の〈からくり〉を解明し、再構築することを目的としたものである。
 
第一部「物語の長編化の方法」では、源氏物語のとりわけ最初の数巻が、挿話風の短編の累積でありながら、それをいかにして超克して長編化を果たしたかについて、源氏物語内部の構造や、作中の矛盾的叙述の分析を通して探究した。第二部「人物像の成熟と物語の深化」は、特に光源氏の密通に纏わる秘事とその反復について論じた。藤壺との不義の子冷泉帝の存在という光源氏最大の秘事を中軸に、物語がいかに動態的に構造化し、反復し、運動しているかを論じた。その中で、「ゆかり」「予言」などといった源氏研究における古典的課題についての理解をも示した。
 
第三部「物語歌の機能と表現」では、主に作中の贈答歌に注目した。作中人物たちの対話の呼吸を明らかにすると同時に、それらを配する物語の仕組みについて分析した。第四部「物語の言葉と思考」は、「みやび」「飽かず」「身」などといった重要な言葉を取り上げ、物語の前提にあるこの時代の人々のものの見方や考え方について探りつつ、これらの言葉が物語展開の動因ともなる事を明らかにした。第五部「物語の構築方法」は、従来的な物語分析の方法――人物論、場面論、引用論、事実と虚構、などについて整理した。また、仮名日記文学に孕まれる物語的性格など、周辺諸文学についても論じた。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 高木 和子 / 2018)

本の目次

      序
      凡例
 
  I  物語の長編化の方法
第一章    源氏物語の構成原理――物語の非一元性
第二章    物語の縦軸と横軸――類聚化の諸相
第三章    系図の変容――桐壺院の皇子たちと朱雀朝の後宮
第四章    原型からの成長――長編化と時間意識
 
  II  人物像の成熟と物語の深化
第五章    光源氏の秘事――負荷される苦悩と物語の深化
第六章    源氏物語のからくり――反復と遡上による長編化の力学
第七章    三つの予言――変容する構造
第八章    薫出生の秘事――匂宮三帖から宇治十帖へ
 
  III  物語歌の機能と表現
第九章    作中和歌は誰のものか――花散里・朝顔・六条御息所の場合
第十章    伝達と誤読の機能――虚構の贈答歌
第十一章  儀礼の歌における私情――朱雀院と秋好中宮の贈答歌
第十二章  『古今六帖』による規範化――発想の源泉としての歌集
 
  IV 物語の言葉と思考
第十三章  「みやび」の周縁化――言語化の回避
第十四章  「飽かず」の力――物語展開の動因
第十五章  第二部における出家と宿世――仏教的価値観による照射
第十六章  古代語の「身」――「身にあまる思ひ」考
 
  V  物語の構築方法
第十七章  虚構の人物の創造――相対的形象、准拠の利用、詳細化
第十八章  場面形象の模索――型からの逸脱と語りの方法
第十九章  慣用表現の利用――物語を拓く引歌・引詩
第二十章  仮名日記文学における物語性――事実と虚構の相克
 
      初出一覧
      あとがき
      索引
 

関連情報

その他の著書:
高木和子『源氏物語の思考』(風間書房、2002年)
https://www.kazamashobo.co.jp/products/detail.php?product_id=171
 
高木和子『女から詠む歌 源氏物語の贈答歌』(青簡舎、2008年)
http://www.seikansha.co.jp/story
 
高木和子『男読み 源氏物語』(朝日新書、2008年)
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=9557
 
高木和子『平安文学にみる恋の法則』(ちくまプリマー新書、2011年)
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480688705/
 
高木和子『和泉式部 (コレクション日本歌人選)』(笠間書院、2011年)
http://kasamashoin.jp/2011/07/post_1935.html

久保田淳監修、三角洋一・高木和子著『和歌文学大系50 物語二百番歌合/風葉和歌集』(明治書院、2019年)
https://www.meijishoin.co.jp/book/b427594.html
 

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