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書籍名

21世紀の「中華」 習近平中国と東アジア

著者名

川島 真

判型など

344ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2016年11月9日

ISBN コード

978-4-12-004906-4

出版社

中央公論新社

出版社URL

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21世紀の「中華」

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胡錦濤政権から習近平政権への移行期から、習近平政権の前半に当たる2012年~2016年における、著者の既発表の論説を時系列に沿ってまとめたもの。胡錦濤政権末期の論説が採録された『中国のフロンティア – 揺れ動く境界から考える』(岩波書店、2017年) との姉妹編とも言える書籍で、併せて読むと胡錦濤政権後半から習近平政権前半期にかけての、同時代的な皮膚感覚が追体験できるだろう。書籍化に際して文章を修正せず、著者が分析を誤ったと感じる部分について、なぜ誤ったのかという点を解説している点が本書の特色でもあろう。
 
本書は学説書ではなく、主に一般向けに書かれた短文の集まりなので、学術的な意義は必ずしもない。だが、社会的な意味合いがあるとすれば以下のようなものだろう。第一に、習近平政権の成立前後からの状況について、それを同時代的に分析した側がいかにその時々で習近平政権を認識し、どのようにその認識が変化していったのかということを、一定程度把握できることだ。一般に、事象や人物の評価が歴史的に固まってしまうと、その評価に即してその事象や人物を見てしまうが、同時代的にはそうではないということが多々ある。一研究者の視点に過ぎない分析だが、それでもその同時代の中国への視線をある程度反映している。第二に、上の論点とも関連して、その時々で論点、問題点として何が分析対象となっていたのかということである。そこには領土問題や歴史認識問題も含まれる。こういった問題は、長く議論の俎上にのせられているようでありながら、実はその焦点が変化したりしている。また、後から振り返れば問題にもならないことが、同時代的には問題になっているということが多々ある。その問題の連なりを理解することが過去への接近の基礎になる。
 
習近平については、2017年の19回党大会で「中華民族の偉大なる復興」のために、2049年にはアメリカに追いつくという目標を設定した。そして、その前後にアメリカとの対立姿勢を明確にし、アメリカもまたオバマ政権末期に中国の対決姿勢を明確にして、いわゆる米中対立が顕在化した。だが、習近平政権が発足した2012年当時からそうしたことが予測されていたわけではないし、それどころか強力なリーダーシップを発揮するのかどうかも未知数だった。本書を読む中で、その習近平政権の輪郭が次第に見えはじめ、もともと有していた期待や予測が多くの場合「ハズレ」ていくプロセスを共有し、そこから当時の対中認識、対習近平認識の息吹を読者と少しでも共有できればと考えている。

 

(紹介文執筆者: 日本・アジアに関する教育研究ネットワーク (ASNET) 教授 川島 真 / 2021)

本の目次

1 序奏―2012~2014
  “チャイナ・リスク”の見積もり
   安倍政権に求められる歴史的評価への想像力
  「歴史的」日台漁業協定締結―その意義と課題 ほか
2 展開―2015~2016
   外交懸案、長期の視野で
   歴史イヤーを迎えて―連続する記念行事への展望
   AIIB狂奏曲 ほか)
3 長期的論点
   対日新思考から一〇年―変化と継承
   戦後日中「和解」への道程とその課題―安倍談話の観点をふまえて
   中国の海洋戦略と日米同盟

 

関連情報

新聞書評:
福田円 (法政大学教授) 評 (日本経済新聞朝刊 2017年5月27日)
奈良岡聰智 (京都大学教授) 評 (読売新聞朝刊 2017年2月12日)
 
(短評) 21世紀の「中華」 川島真著 (日本経済新聞 2017年1月8日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO11440470X00C17A1MY7000/
 
講義:
2016年度 立命館西園寺塾 12月3日講義「21世紀の中華:習近平政権と東アジア」 (立命館西園寺塾 2016年12月3日)
http://www.ritsumei.ac.jp/saionji-juku/news/article.html/?id=81

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