東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に雲状の赤い模様

書籍名

岩波新書 中国のフロンティア 揺れ動く境界から考える

著者名

川島 真

判型など

240ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2017年3月22日

ISBN コード

9784004316527

出版社

岩波書店

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中国のフロンティア

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本書は、中国を一種の運動体と捉えて、その運動体の立ち現れるさまざまな「フロンティア」を描き出そうとしたものである。その運動体を人の移動としてみた場合にヒトの移動がまず考えられるが、冒頭に掲載されているアフリカにおける中国人移民の村落だという「保定村」の物語は、実は中国からアフリカへの移民を促すための創作物語でありながらも、似たような事例が多数存在するがためにまことしやかに流通していることが示される。また、物流については、中国―ASEAN国境地域で開かれる中国・ASEAN博覧会や、中国―ミャンマー国境の様子が記されている。
 
だが、中国が外へと拡大していくことは、同時に多くの問題を生み出す。雑誌『非洲』は中国政府にとっての「正しいアフリカとの関わり方」を示すガイドブックだが、そこには逆にどのような問題が生じているかが投影されている。また、広東に現れたアフリカ人村をめぐる問題は、中国が外に出て行くことには積極的でありながら、内側に多様な人々を取り込むことについては依然用意ができていないことを示す。これは中国がアメリカやかつての植民地帝国とは異なる姿を示していることを示唆しているのだろう。
 
本書のこれらの記述は、欧米や日本のメディアが単純に「中国の世界進出」を批判的に論じることに警鐘をならしつつ、同時に中国側の宣伝にも問題があることを指摘している。そのフロンティアに立って事態を把握するというのが本書のスタンスである。マラウイの事例は、どうしてマラウイが中華民国 (台湾) ではなく、中華人民共和国を選ぶのかということをマラウイの視点に立って描こうとしている。運動体としての中国という視点をとりつつ、それへの評価は現地から考えるということであろう。無論、短期的な調査によって得られた事実や観察に限界があることは言うまでもない。
 
その中で著者が比較的長期的に検討してきたのが金門島である。本書での金門島の位置付けは、2つの中国、あるいは中国と台湾との間の境界、すなわち中華世界でのフロンティアである。金門島は1949年の古寧頭戦役でまさにフロンティアとなることになったが、それによって従来の僑郷としての歴史が大幅に変更され、両岸の、あるいは東アジアの冷戦の最前線になった。そして、1990年代に中華民国側が大陸反攻を放棄すると、21世紀には両岸交流の最前になり、現在は「統一」問題をめぐるきわめて重要な場となった。このフロンティアは、中国という運動体の内側の、あるいは外側になるかもしれない境界である。この金門島をめぐる言説は、外国メディアだけでなく、北京や台北などの首都の言説からも辺縁化されている。それを現地のコンテキストからこの島の歴史を書き起こしながら、中国のフロンティアを見わたそうとしている。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 川島 真 / 2018)

本の目次

序  章  フロンティアから中国を考える
中国のフロンティア / 胡錦濤政権前半期の対外政策 / 胡錦濤政権後半期の変容 / 習近平政権の対外政策 / 中国と世界秩序 / グローバルな空間と東アジア / 東アジアにおける中国の影響力 / 中国の隣接地域で生じていること / 中国の世界進出と「等身大の中国」? / 現場から中国を見る
 
第I部  アフリカの中国人、中国のアフリカ人
第一章  アフリカの「保定村」物語――中国人農業移民
「保定村」の出現 / 劉建軍という存在 / 大使館と現地の中国人社会 / ルサカ郊外の中国人経営農園 /「保定村」物語 / 複数の中国
第二章  広州のアフリカ人街――中国に進出するアフリカ商人とその苦衷
「出」と「入」 / チョコレート城 / 西アフリカの“チャイナ・ドリーム”? / 「黒鬼子」? / 砿泉派出所事件 / ナイジェリアの中国人 / 「人の移動」のフロンティア
第三章  雑誌『非洲』の世界――中国の”公共外交“
 雑誌『非洲』との出会い / 『非洲』の刊行 / アフリカ関連メディアの連続創刊 / 二〇〇九年のもつ意味/ 北アフリカ高速道路建設 / メイド・イン・チャイナ問題 / 対アフリカ援助 / 公共外交と公衆
 
第II部  マラウイはなぜ中国を選んだのか
第四章  マラウイと中国の国交正常化
マラウイの選択 / なぜ中国を選んだのか / なぜ中国は応じたのか / 中国のマラウイへのアプローチ / 中国経済への期待と警戒 / マラウイ閣僚の訪中 / 中国の対マラウイ支援の始動 / 中国の支援の本格化? / 中国の経済支援への懸念 / マラウイの選択は正しかったのか
第五章  マラウイと台湾の断交
アフリカ諸国と台湾 / 台湾・アフリカサミットとマラウイ / 断交阻止の試み / 断交後のマラウイ‐台湾関係
 
第III部  溢れ出す中国――周辺外交の舞台
第六章  中国・ASEAN南寧博覧会参観記
中国とASEAN / 博覧会の成り立ち / 博覧会の風景(1)――南寧国際会展センター1F / 博覧会の風景(2)――南寧国際会展センター2F / 博覧会の風景(3)――第二会場・第三会場 / 南寧における中国・ASEAN関係への問い
第七章  二一世紀の援蒋ルート――雲南・ミャンマー国境
 中国軍、ビルマ遠征七棚周年記念? / 中緬関係の進展 / 中緬関係の悪化? / 翡翠貿易と現地の言説 / ダム建設問題 / パイプライン建設 / 雲南の僑郷 / 国境地帯の歴史観――「大騰越」?
第八章  東チモールから見る中国――マカオ・フォーラムと葡語スクール
中国の東チモール進出? / 中国製の官庁街 / 資源開発と対外進出 / 軍事的な考慮? / マカオ・フォーラム / 現地社会の中の中国人 / 世界の「隙間」に広がる中国
 
第IV部  中華圏の内なるフロンティア――金門島から見る
第九章  金門島の経験した近代
金門島の風景 / 僑郷としての金門 / 華僑送金で育まれた「近代」 / 日中戦争と金門島 / 国共内戦期の金門島 / 金門の前線化 / 「単打双不打」時代 / ネズミの尻尾 / 総動員下での「僑郷」
第一〇章  金門アイデンティティを求めて
 台湾の民主化と金門 / 金門の「解放」? / 金門アイデンティティ / 小三通と金門の変容 / 金門の歴史と辛亥革命一〇〇年 / 金門学からの問い
終  章  運動体としての中国をとらまえること
 フロンティアからの観察 / 二〇〇八年から一三年という時期 / 世界秩序と中国 / 中国と周辺諸国との「連結性」 / 相手国の国内事情と中国の多様性 / メディアの論調 / 台湾という要素、そして金門 / 中国という運動体のフロンティア
 

あとがき
 

関連情報

著者インタビュー:
一般メディアが語る「中国」はわかりやすすぎる!(1) (Net IB News 2017年5月19日掲載)
https://www.data-max.co.jp/article/16791
 
一般メディアが語る「中国」はわかりやすすぎる!(2) (Net IB News 2017年5月22日掲載)
https://www.data-max.co.jp/article/16799
 
一般メディアが語る「中国」はわかりやすすぎる!(3) (Net IB News 2017年5月23日掲載)
https://www.data-max.co.jp/article/16824
 
一般メディアが語る「中国」はわかりやすすぎる!(4) (Net IB News 2017年5月24日掲載)
https://www.data-max.co.jp/article/16845
 
一般メディアが語る「中国」はわかりやすすぎる!(5) (Net IB News 2017年5月25日掲載)
https://www.data-max.co.jp/article/16873
 
 
書評:
中国のフロンティア 川島 真 著 (東京新聞朝刊 2017年7月30日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2018060302000180.html
 
中国のフロンティア 川島真 著 – 現地の声拾いイメージ疑う (日本経済新聞朝刊 2017年5月27日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO16888860W7A520C1MY7000/
 
「中国のフロンティア」―揺れ動く国境から考える 川島真 著 (朝雲新聞社 2017年)
http://www.asagumo-news.com/homepage/htdocs/bookreview/2017/170511a.html
 

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