東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ガリレオ・ガリレイ著「天文対話」扉ページのイラスト、タイトルは「プトレマイオス及びコペルニクスの世界二大体系についての対話」

書籍名

科学史事典

著者名

日本科学史学会 (編)

判型など

758ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2021年5月

ISBN コード

978-4-621-30606-2

出版社

丸善出版

出版社URL

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科学史事典

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多くの学術専門分野の学会が編集し、丸善からそれぞれの分野の重要事項を事典として出版しており、本事典もその一つである。私、橋本が編集の幹事役を務め、また編集代表を含む多くの執筆者が橋本が所属する科学技術基礎論の修了生でもあり、この場で紹介することにした。
 
科学史や技術史の分野の事典は、過去に弘文堂から『科学史技術史事典』が出版され、最近もいくつかの事典が出版されている。丸善から出版される他の事典と同様、本事典も中項目の構成、すなわちキーワードとなる科学史上の重要項目を見開き2ページ (ないし4ページ) で説明する構成になっている。また当時科学史学会の会長で、本事典の編集代表を務めた斎藤憲氏の方針で、オーソドックスな専門分野ごとの歴史を前半第1部に集約し、「社会の中の科学」と題する第2部に今日的な問題と関わる科学史の事項を配した。第2部最後の最終章には「原子力」の章を設け、20項目にわたり説明を加えた。その中には核兵器の開発史とともに、福島第一原発事故の項目も含まれる。
 
一方、第1部では科学史のヒストリオグラフィー、数学から地学までの各分野、そして日本の科学を4つの章で解説した。各章で取り上げる項目をいくつか紹介しておこう。第1章では「科学革命論」「科学とキリスト教」などの項目とともに世界各地の科学の発展、第2・3章では「力学の誕生と発展」「錬金術」「ウイルス学」などとともに、古代ギリシア数学史を専門とする斎藤氏が執筆した「パルメニデスの衝撃」「証明の発明」などの項目が入る。第4章では「和算の成立と発展」から「帝国の学術調査」までの各項目が説かれる。また、第2部の5章から8章までの各章には、「科学者の社会的責任」「パンデミック」「[両]世界大戦と科学技術」などが含まれる。
 
編集代表を務めた斎藤氏は、実は、私と同じ科学史科学哲学科を同学年で卒業したクラスメートであり、本事典は彼がもっぱら第一で最大の牽引役だったが、数人の科学史家とともに編集幹事として彼を補佐しつつ編集と執筆の作業に従事した。時に不足する項目の存在に気づき、急遽引き受けて急ごしらえの解説文を作成したり、惜しくも出版前にお亡くなりになった方の未完成の原稿にご遺族の了解を得つつ少々加筆したりした。協力頂いた編集委員や科学史家の方々に改めて感謝申し上げたい。事典の編集と執筆での思い出話は、事典出版後に開催された記念シンポで述べたが、それは他の編集幹事の講演記事とともに学会誌『科学史研究』に発表された。
 
科学は現代社会を牽引し、制御する役割を果たすとともに、時に社会問題を引き起こすことがある。その科学を理解するために、科学そのものを科学の内側から学ぶばかりでなく、科学をそれより一歩離れた立ち位置から長いタイムスパンで眺める科学史の見方も有用ではないか。そのさまざまの知見を提供できる事典になったと思っている。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 橋本 毅彦 / 2022)

本の目次

第I部 個別学説史,科学論・ヒストリオグラフィー
 
■ 第1章 ヒストリオグラフィー・地域
序説 / 科学史
【ヒストリオグラフィー】
科学と技術 / 歴史の中の科学と技術の交流 / 実験 / 科学装置 / グラフ・ダイアグラム / 中世の科学 / ルネサンスの科学 / 17世紀科学革命 / 科学革命論 / 科学観 / 科学者 / 自然 / 機械論 / 科学とキリスト教 / 科学社会学
【地域】
翻訳と知識の伝達 / 中心と周縁:イギリス編 / 中心と周縁:フランス編 / 中心と周縁:ドイツ編 / 中心と周縁:ロシア・ソ連編 / アメリカの科学 / インドの科学 / 中国の科学 / 朝鮮の科学 / バビロニア・エジプトの数学 / イスラームの科学 /
 
■ 第2章 数学・天文学・物理学
【空間・時間・物体】
パルメニデスの衝撃 / アリストテレスの世界と宇宙 / 時間 / 光学 / 望遠鏡 / 近現代の宇宙論 / 真空 / 20世紀の顕微鏡 / シミュレーション
【力とエネルギー】
力学の誕生と発展 / 電磁気学 / 相対性理論 / 量子論 / 放射能と原子核 / 素粒子 / 熱力学、統計力学
【数学における論証と計算】
証明の発明 / ギリシャ数学の発展 / アテネとアレクサンドリア / 音楽と数学 / 計算天文学の成立と発展 / 占星術 / 16世紀の数学 / 代数学の展開 / 微積分 / 19世紀の数学 / 20世紀の数学 / 統計学
 
■ 第3章 化学・生物学・地球科学
【化学・物質論】
錬金術 / 冶金と鉱山技術 / 医化学の出現 / ヘルモント主義とボイル・ニュートン / パリ王立植物園と化学教授職 / フロギストン説とニュートン主義化学 / 化学親和力から周期表へ / 化学革命 / 化学における原子と分子 / 有機化学 / 無機化学と分析化学 / 物理化学と量子化学 / 化学における法則 / 原子論
【生物・医学・生理学】
古代ギリシャの人間観・生命観 / ガレノス / アラビアの医学 / 生気論 / 細胞 / 自然選択説 / 遺伝学 / 欧米における優生学の展開 / 進化の総合説 / 分類学 / 生態学 / 発生学 / ヒトの生物学 / 霊長類学 / 分子生物学の時代 / 植物園 / 動物園 / 博物館 / 細菌学 / ウイルス学 / ワクチンと予防接種 / 免疫学 / 解剖学 / 血液循環論 / 病院 / 精神医療
【自然誌・地球論・地球科学】
ナチュラルヒストリーと鉱物・地理 / 形成力 / 地球論の発生 / 地球論の展開 / 地質学の成立 / 地質学の発展 / ウェゲナーと大陸移動説 / プレートテクトニクス / 地球の年齢 / 化石の意味とナチュラルヒストリー / 結晶の文化史 / 地質学の図像表現 / 地球の内部構造 / 気象学史 / 海洋学史 / 地球物理学の歴史 / フンボルティアン・サイエンス / 科学の地理学 /
 
■ 第4章 日本の科学史
帝国大学と近代日本の科学・医学・工学・農学 / 翻訳から自立へ / 西洋数学の受容と展開 / 東洋医学の展開 / 脚気 / 細菌学・衛生学の導入と衛生の制度化 / 進化論 / 日本における優生学の展開 / ハンセン病 / 日本の遺伝学 / 日本における重力・地磁気測定の歴史 / 地震学 / 気象学・気象事業 / 物性物理学・エレクトロニクス・情報科学 / 「化学の京都学派」とその周辺 / 帝国の学術調査 / 「科学の体制下」の実態 / 科学論の日本的展開 / 大衆文化の中の科学 / 仮説実験授業 / 過誤と不正と醜聞 / 和算の成立と発展 / 和算から洋算へ / 江戸時代の天文暦学 / 江戸時代の測量術 / 江戸時代の医学 / 江戸時代の化学 / 洋学 (蘭学)  / 江戸時代の自然観 / 江戸時代の本草学 / お雇い外国人 / 黒色火薬
 
第II部 社会の中の科学
 
■ 第5章 科学と社会
ノーベル賞 / 大学の成立 / 学会・科学アカデミー / 日本学術会議 / 科学の言語 / 科学論文 / 研究公正 / 科学教育史 / 科学教科書 / 科学事例史法 / 科学雑誌 / 科学博物館 / 博覧会と科学技術 / 百科事典 / 科学コミュニケーション / 科学技術への市民参加 / 科学者の社会的責任 / 科学と標準 / 科学とジェンダー / 科学と疑似科学
 
■ 第6章 生命科学
組換えDNA技術からゲノム編集へ / 遺伝子組換え作物 / ヒトの遺伝子診療 / ヒトの遺伝子改変 / 生物特許 / 社会生物学論争 / 人工生殖技術 / 発生工学 / 再生医療 / 人体実験 / 献体と献血 / 臓器提供 / 脳と人の死 / 動物実験 / バイオリソース / 生命の創造 / サイボーグ / 生体認証 / 生命倫理 / 性差の生物学 / 新優生学 / バイオセキュリティ
 
■ 第7章 科学と環境
【産業と環境】
公害 / 産業発展と地球温暖化問題 / 環境アセスメント / 廃棄物問題 / 再生可能エネルギー / 緑の革命 / 大気汚染 / アスベスト公害 / 土壌汚染
【生物学と環境】
農学と農業 / 林学と森林 / 野生生物 / 農薬と害虫 / 肥料と土壌 / 生物多様性 / 養殖真珠と天然真珠 / 捕鯨
【医学と環境】
パンデミック / 紫外線
【土木工学と環境】
ダムと治水
【地球科学と環境】
人新世 / 地球科学と災害 / 天気予報 / 地球温暖化 / 自然保護 / 化石燃料 / PCB / 環境ホルモン
 
■ 第8章 科学・国家・産業
蒸気機関と産業革命 / 近代の製鉄業 / 交通と技術 : 鉄道 / 交通と技術 : 船舶 / 交通と技術 : 自動車 / 交通と技術:飛行機 / 農業の機械化 / 測定器・ゲージ / 工作機械 / 塑性加工技術 / エジソンと電気産業 / カメラ / テレコミュニケーションの発展 / 合成染料と化学工業の発展 / 養蚕 / 化学繊維の登場 / 栄養の科学 / ルイセンコ遺伝学 / 製薬 / 企業研究所 / 慈善財団と科学 / 第一次世界大戦と科学技術 / 第二次世界大戦と科学技術 / 科学技術動員 / 科学技術予算 / 冷戦と科学 / CBRNE兵器 / デュアルユース / 宇宙開発 / ビッグサイエンス / 巨大実験・観測装置 / 半導体 / コンピュータ / 人工知能 / ロボット / ナノテクノロジー
 
■ 第9章 原子力
社会的実用化前の原子力の歴史(19世紀~20世紀半ば) / 核分裂反応の発見 / 世界の核兵器開発 / 日本における原爆開発 / 平和的核爆発の利用論 / 放射能 (放射線) と被ばくの歴史 : 世界 / 放射能 (放射線) と被ばくの歴史 : 日本 / パグウォッシュ平和運動 / 原子炉の歴史 / 核融合研究 / 世界の原子力開発の歴史 / 日本における原子力導入と原子力政策の歴史 / 地域と原子力 / 原子力事故 / 福島第一原発事故 / 反 (脱) 原発運動の展開 / 原子力の経済性 / 原子力の表象 / パブリックアクセプタンス / 原子力教育の歴史
 
■ 索引 (事項・人名)
■ 引用文献

関連情報

参照ホームページ:
日本科学史学会
https://historyofscience.jp/
 
刊行記念シンポジウム:
『科学史事典』刊行記念シンポジウム:事典編纂からみる科学史の過去・現在・未来 (オンライン[日本科学史学会第68回年会] 2021年5月21日)
https://www.maruzen-publishing.co.jp/info/n20182.html
 
関連記事:
斎藤憲・橋本毅彦・杉本舞「『科学史事典』編集と刊行記念シンポジウムの記録」 (『科学史研究』60巻 385-388 2022年)
https://www.fujisan.co.jp/product/370/b/2211575/

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