今や、個々人が好きな時に、好きな場所で、パソコンやスマートフォンなどを通じて地図を作成・使用できます。インターネットを介して世界中の人々と地図を共有することもできます。現代社会において地図は、いつでも・どこでも存在するもの (ユビキタスなもの) となり、私たちの日常生活の至る所で登場します。例えば、2020年から猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症についても、感染の広がり具合を示す地図が山ほど作成され、連日のようにテレビ、新聞、インターネットなどを通じて発信されています。
このように地図が当たり前の存在になった時代だからこそ、「そもそも地図とは何なのか」「地図はどのようにして作られているのか」「地図を適切に使用するにはどうすればよいか」といった疑問を持つことが重要となってきています。少しでもこうした疑問を持った人、地図に関心がある人にとって、本書は最適な参考書となります。
本書は、総勢119名の地図の専門家が3部門・15章・200項目にわたって非常に多様な観点から地図についてまとめた、類を見ない事典です。地図の本というと、作り方・描き方をまとめたものが多いですが、本書はそうした技術的問題だけでなく概念的問題や社会的問題なども扱っており、読者の地図リテラシーの獲得に重きを置いていることが特徴的です。
第1部「地図を知る」では、地図の哲学、歴史、社会との関係、概念・理論、新たな展開が紹介されています。「地図とは何なのか」という疑問を抱いた人は、この部門を読むことで、その思想的側面から社会的側面まで幅広く知ることができます。
続く第2部「地図を作る」では、まず地図作成技術の原理という根本的な話が示されます。その上で、地図の類型やデザイン・製作・複製の仕方が紹介され、最後にオンライン上でのデジタル地図の作成・共有方法が解説されています。ここでは、地球上のどこに、何が、どのように存在するのかを知り、そのデータを地図というかたちで視覚的に表現する、という一連の作業について、社会的側面も含めて学ぶことができます。
最後に第3部「地図を使う」では、地図の読み解き (読図) の方法だけでなく、読図に関わる認知能力や、様々な社会的場面での地図の利用方法、地図の入手・保存の仕方、さらには地図についての教育・研究の実態などがまとめられています。一言に「地図を使う」と言っても、そこにはいろいろな意味合いがあります。地図を使うためには、そもそも地図を入手しなければなりませんし、しっかりと地図を読み解くためにはそれなりのスキルや知識が必要です。この部門では、「地図を使う」ことの多面性を知ることができます。
私たちが思っている以上に、地図は複雑なものであり、地図について考えるべきことはたくさんあります。地図について気になることがある人は、是非本書を手に取ってみてください。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 助教 田中 雅大 / 2022)
本の目次
〈A1 地図とは何か〉
A1-1 概説〔森田 喬〕
A1-2 地図の概念〔森田 喬〕
A1-3 空間的思考・行動〔若林芳樹〕
A1-4 時空間論〔森田 喬〕
A1-5 コミュニケーション論〔金窪敏知〕
A1-6 地名論〔田邉 裕〕
A1-7 技術進化論〔星埜由尚〕
A1-8 地図文化論〔西川 治・森田 喬〕
A1-9 視覚芸術論〔小林昭世〕
A1-10 インフォグラフィックス-空間認識と問題系の可視化〔中野豪雄〕
A1-11 地理空間情報科学論〔岡部篤行〕
〈A2 地図の歴史〉
A2-1 概説〔鈴木純子〕
A2-2 地図の歴史とは-「地図の歴史」の歴史〔鈴木純子〕
A2-3 地図ということば〔森田 喬〕
A2-4 地図のはじまり〔金窪敏知〕
A2-5 地図が描いた世界〔三好唯義〕
A2-6 前近代の地図-ルネサンス以後のヨーロッパ〔三好唯義〕
A2-7 地図の歴史とアフロ・ユーラシア〔応地利明〕
A2-8 近代の地図〔鈴木純子〕
A2-9 中国-長大な地図の流れ〔今村遼平〕
A2-10 日本-古代・中世〔金田章裕〕
A2-11 日本-近世〔上杉和央〕
A2-12 日本-近代〔鈴木純子〕
A2-13 地図帳の歴史〔芳賀 啓〕
A2-14 地球儀〔千田 稔〕
A2-15 測地・測量技術の変遷〔瀬戸島政博〕
A2-16 地図の印刷と出版の歴史〔辻野民雄・水谷一彦〕
A2-17 地図作成者の歴史(変遷)〔鈴木純子〕
〈A3 地図と社会〉
A3-1 概説〔若林芳樹〕
A3-2 国際政治・外交・軍事と地図〔立岡裕士〕
A3-3 環境・ハザード把握の地図〔熊木洋太〕
A3-4 福祉と地図〔宮澤 仁〕
A3-5 マス・メディアの地図〔山田晴通〕
A3-6 社会基盤と地図〔太田守重〕
A3-7 地図ビジネス〔岩見一太〕
A3-8 地図の権威〔鈴木晃志郎〕
A3-9 監視とプライバシーと地図〔若林芳樹〕
A3-10 カウンターマッピング(対抗地図)〔西村雄一郎〕
A3-11 地図作成の国際貢献〔佐藤 潤〕
〈A4 地図の種類〉
A4-1 概説〔熊木洋太〕
A4-2 作成法による分類〔宇根 寛〕
A4-3 形態・体裁・縮尺による分類〔齊藤忠光〕
A4-4 表現内容による分類〔鈴木厚志〕
A4-5 陸の一般図〔宇根 寛〕
A4-6 海の地図〔今井健三〕
A4-7 航空図〔太田 弘〕
A4-8 国際地図〔今井健三〕
A4-9 地籍図〔滝沢由美子〕
A4-10 住宅地図〔池上雅己〕
A4-11 地圏事象を対象とする主題図〔宇根 寛〕
A4-12 水圏事象を対象とする主題図〔佐藤 潤〕
A4-13 気圏事象を対象とする主題図〔平井史生〕
A4-14 生命圏事象を対象とする主題図〔杉村 尚・宮川 浩・畠瀬頼子〕
A4-15 経済・交通事象を対象とする主題図〔矢野桂司〕
A4-16 社会・文化事象を対象とする主題図〔田邉 裕〕
A4-17 自然・社会の複合事象を対象とする主題図〔小荒井 衛〕
A4-18 その他の特定用途指向地図〔佐藤 潤〕
A4-19 利用者グループ指向地図〔寺本 潔〕
A4-20 想像地図〔芳賀 啓〕
A4-21 行政機関作成地図〔大場 亨〕
A4-22 Web地図サービス〔真野栄一〕
〈A5 地図の挑戦〉
A5-1 概説〔有川正俊〕
A5-2 ITによる地図の革新〔有川正俊〕
A5-3 ユビキタス空間情報社会〔森田 喬〕
A5-4 地図と実世界の融合〔有川正俊〕
A5-5 危機管理地図〔井ノ口宗成・林 春男〕
A5-6 環境センシング〔木實新一〕
A5-7 ビッグデータ統計地図〔藤田秀之〕
A5-8 芸術地図〔山口 晃〕
A5-9 都市模型〔伊藤香織〕
A5-10 地図編集の拡がり-その多様性と一般性〔飯塚新真〕
A5-11 マップエンターテインメント〔小林政能〕
A5-12 地図とダイアグラム〔中野豪雄〕
【B 地図を作る】
〈B1 地図の原理〉
B1-1 概説〔今井健三〕
B1-2 測る科学・数学的基礎〔政春尋志〕
B1-3 地球を測る〔仙石 新〕
B1-4 地球上の位置(経緯度と高さ)を測る〔仙石 新・鎌田高造〕
B1-5 陸と海を測る〔熊木洋太・仙石 新〕
B1-6 球面を平面に移す-地図投影法の原理〔政春尋志〕
B1-7 国土基本図・地形図等の図法〔政春尋志〕
B1-8 海図と航空図の図法〔今井健三〕
B1-9 地理空間情報の標準化〔太田守重〕
B1-10 地図をめぐる法体系〔鎌田高造・仙石 新〕
B1-11 地理学と地図〔滝沢由美子〕
B1-12 メンタルマップ〔若林芳樹〕
B1-13 空間表現と地図コミュニケーション〔若林芳樹〕
〈B2 地図作成の類型〉
B2-1 概説〔鈴木厚志〕
B2-2 基本図〔宇根 寛〕
B2-3 基図〔辻野民雄・水谷一彦〕
B2-4 編集図〔菱山剛秀〕
B2-5 主題図〔鈴木厚志〕
B2-6 統計地図〔鈴木厚志〕
B2-7 カルトグラム〔井上 亮〕
B2-8 ネットワーク図〔高橋成雄〕
B2-9 写真地図・衛星地図〔中野一也〕
B2-10 鳥瞰図(パノラマ地図)〔織田雅己〕
B2-11 ディスプレイ表示地図〔遠藤宏之〕
B2-12 イラストマップ〔高橋美江〕
B2-13 地図オブジェ〔近藤賀誉〕
〈B3 地図の作図・デザイン〉
B3-1 概説〔森田 喬〕
B3-2 地図の概念設計〔森田 喬〕
B3-3 資料収集・整理〔辻野民雄・水谷一彦〕
B3-4 図式設計〔木村博之〕
B3-5 投影法〔政春尋志〕
B3-6 縮尺と総描〔塚田野野子〕
B3-7 統計処理〔石田恵一〕
B3-8 視覚変数〔森田 喬〕
B3-9 地図における色彩表現〔中垣信夫〕
B3-10 立体表現〔石川 剛〕
B3-11 動的表現〔伊藤香織〕
B3-12 ユニバーサルデザイン〔宇根 寛〕
B3-13 非地理座標表現〔井上 亮〕
B3-14 作図工程〔辻野民雄・水谷一彦〕
B3-15 地図の更新〔今井健三〕
B3-16 情報保護〔丸山智康〕
〈B4 地図の製作・複製〉
B4-1 概説〔齊藤忠光〕
B4-2 印刷地図の製作〔朝日 守〕
B4-3 電子データの地図化と利活用〔廣瀬典和〕
B4-4 電子データの視覚化〔久保田秀徳〕
B4-5 電子海図の製作〔菊池眞一〕
B4-6 地図用紙〔藤沼邦雄〕
B4-7 地図の折りと製本-平図・巻き図・折り図,製本〔齊藤忠光・三浦公亮〕
B4-8 地図帳(アトラス)〔水谷一彦〕
B4-9 掛地図〔樋口米蔵〕
B4-10 地球儀〔樋口米蔵〕
B4-11 立体地図 ・床地図〔三田幸雄〕
B4-12 触地図〔中川 俊〕
B4-13 写真地図〔中島 円〕
B4-14 複製と著作権〔水谷一彦〕
B4-15 出版・刊行〔竹内 渉〕
〈B5 ネットワーク環境の地図〉
B5-1 概説〔有川正俊〕
B5-2 Webマッピング〔丸山智康〕
B5-3 地図サービスとモバイル環境〔大西啓介〕
B5-4 クラウドコンピューティングと個人向け地図〔丸山智康〕
B5-5 社会参加型地図〔古橋大地〕
B5-6 コンピュータ地図可視化〔高橋成雄〕
B5-7 ジオコーディングとジオパージング〔相良 毅〕
B5-8 日常生活の風景写真と地図〔丸山智康〕
B5-9 地図アーカイブのインターフェース〔田中 圭〕
B5-10 VRと地図〔古橋大地〕
B5-11 デジタル地図ビュー〔遠藤宏之〕
B5-12 SNSと地図〔藤田秀之〕
【C 地図を使う】
〈C1 地図利用の基本〉
C1-1 概説〔若林芳樹〕
C1-2 読図〔村越 真〕
C1-3 地図情報の検索〔村越 真〕
C1-4 地図と参照枠〔松井孝雄〕
C1-5 地図を用いた定位と伝達〔髙井寿文〕
C1-6 経路探索とナビゲーション〔村越 真〕
C1-7 空間解析〔貞広幸雄〕
C1-8 距離・面積の計測〔鈴木厚志〕
C1-9 言葉の道案内〔田中雅大〕
C1-10 デジタル地図の操作〔若林芳樹〕
C1-11 空間的能力〔鈴木晃志郎〕
C1-12 地図のリテラシー〔若林芳樹〕
〈C2 地図の目的別利用〉
C2-1 概説〔鈴木厚志〕
C2-2 ガイドとしての地図〔伊藤 等〕
C2-3 サインとしての地図〔新垣紀子〕
C2-4 著述〔今尾恵介〕
C2-5 交通図〔髙橋 悠〕
C2-6 カーナビゲーション〔林 秀美〕
C2-7 生活支援〔青木和人〕
C2-8 安全確保〔宮城豊彦〕
C2-9 災害対応地図〔鈴木雄一〕
C2-10 ビジネス〔平下 治〕
C2-11 国・自治体運営のための地図〔大場 亨〕
C2-12 調査・研究〔卜部勝彦〕
〈C3 地図の入手〉
C3-1 概説〔太田 弘〕
C3-2 Webサイト〔伊藤智章〕
C3-3 国土地理院〔野尻琢也〕
C3-4 日本地図センター〔小堀 昇〕
C3-5 海の地図〔上田秀敏〕
C3-6 リモート・センシング技術センター〔五十嵐 保〕
C3-7 行政機関作成地図〔谷岡誠一・津沢正晴〕
C3-8 海外公的機関作成地図および海外民間地図〔佐藤 潤〕
C3-9 古地図〔山下和正〕
C3-10 地図の閲覧とコピー〔鈴木純子〕
C3-11 地図相談の窓口〔森田 喬〕
〈C4 地図の保存・活用〉
C4-1 概説〔鈴木純子〕
C4-2 図書館〔鈴木純子〕
C4-3 公文書館〔河村克典〕
C4-4 博物館〔三好唯義〕
C4-5 地図学博物館構想〔西川 治・鈴木純子・森田 喬〕
C4-6 個人コレクション〔芳賀 啓〕
C4-7 デジタルアーカイブ〔塚本章宏・平井松午〕
C4-8 地誌の記憶としての地図〔芳賀 啓〕
C4-9 歴史GIS〔塚本章宏・平井松午〕
C4-10 地図の展示〔高田明典〕
〈C5 地図と教育・研究〉
C5-1 概説〔滝沢由美子〕
C5-2 学校教育における地図の教育〔三橋浩志〕
C5-3 幼児・小学校における地図の教育〔吉田和義〕
C5-4 中学校における地図の教育〔太田 弘〕
C5-5 高等学校における地図の教育〔田代 博〕
C5-6 教材・教具〔樋口米蔵〕
C5-7 地図展・地図作品展(コンクール,コンテスト)〔田中靖夫〕
C5-8 大学・専門技術者教育〔鈴木厚志〕
C5-9 職能としての地図作成〔稲垣秀夫〕
C5-10 生涯学習〔野々村邦夫〕
C5-11 国際支援と援助〔佐藤 潤〕
C5-12 地図の研究〔若林芳樹〕
C5-13 国際学術団体〔森田 喬〕
文 献
付 録
付録I 地図に関する主な歴史年表
付録II 地図投影法分類表
付録III 国内外の地図関連学協会一覧
付録IV 国内外の地図関連雑誌
付録V 主要国地図・地理空間情報作成提供機関
付録VI 国内の主な地図所蔵機関一覧
付録VII 地図の入手先一覧
付録VIII 地図の主な参考図書
索 引