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書籍名

オランダ語史料入門 日本史を複眼的にみるために

判型など

208ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2022年3月30日

ISBN コード

978-4-13-022027-9

出版社

東京大学出版会

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オランダ語史料入門

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本書は、日本史を学ぶためのオランダ語史料の読み方を解説する初めての入門書です。
 
近世日本に関係する史料のほとんどを収蔵するオランダ国立中央文書館で、近年、史料のデジタル化、オンライン公開が進み、高い旅費を払ってオランダに行かなくても、原史料に接することができるようになりました。その新しい環境を生かすため、オランダ語の文法、文字の読み方をはじめ、史料の探し方、工具書案内など、まったくの初心者でも基礎から学べるように工夫しました。
 
江戸時代の日本史を学ぶために、オランダ語史料はいくつもの魅力を持っています。ひとつは、日本に来航していた外国人のうち、いちばん長期にわたる豊富な史料を残してくれているのが、オランダ人なのです。史料の残り方にも日本語の史料とは違った魅力があり、内容面でも、貿易、天候、風俗など日本語史料だけではわからないことが、わかります。そして、オランダ人は世界中に航海しているなかで日本に訪れていましたから、当時、かりに間接的にであっても、世界とのつながりのなかにあった列島を感じることができます。また、オランダ語はローマ字で書かれますので、漢字の多い日本語文書よりも解読が楽だとも言えます。そもそも、読んでいる人が非常に少ないため、ライバルが少ないです。一方、オランダ語は、英語とドイツ語を足して二で割ったような言葉であって、そんなに難しいことはありません。17世紀のオランダ語は、「古語」であって、現代のオランダ人が読んでも、すぐにわかるわけではありませんが、だからこそ、日本史の知識を借りながら読むなど、謎解きの面白さもあります。さらに、オランダ語文書は、探すのに苦労することはあまりありません。日本関係の史料は、だいたいは日本商館文書やオランダ東インド会社文書など、限られた文書群 (すべてオランダ国立中央文書館所蔵) のなかにあります。それぞれの文書群は、かなり系統的に保存されており、目録もできていて、探している特定の史料は「ある」と思った場所にあることが多く、逆にそこになければ、そもそも存在していない可能性が高いです。
 
オランダ語の史料を読むことによって、今までよく知られていた日本史は、より立体的に見えてくるでしょう。我々の眼は、2つあることによって、見る世界に奥行きを生みだします。右目と左目の距離はたった5センチメートルくらいでも、右目と左目に映る世界は、ほんの少しずつ違っていて、そのずれを脳のなかで再構成すると、世界は3次元になります。それと同じで、日本語史料とオランダ語史料が語る世界のちょっとしたずれを大切にしていけば、それだけ歴史像は豊かになるのです。本書によって、一人でも同好の士が増え、それだけ日本史が豊かになることを祈ります。
 

(紹介文執筆者: 史料編纂所 教授 松方 冬子 / 2023)

本の目次

本書を手に取られた方へ――日本史に興味を持つ人にとってのオランダ語史料の魅力
                     
実践と解説――輸出入禁制品を素材として (松方冬子)
 はじめに――自分なりのテーマを見つけよう                  
  コラム1 手書きの原文書を読む
  コラム2 文書の書式と体裁
 1. シーボルト事件関係の史料を見てみよう
  コラム3 翻刻ルールのお話
  コラム4 文法的に読む
 2. 研究史と日本側の史料を手掛かりに史料を探そう
 3. 1668年の禁令をオランダ語史料で見てみよう
  コラム5 マルヒナリアを利用する
  コラム6 日本語に置き換える
 4. 日本の外に視野を広げてみよう――禁令はオランダ本国にどう伝えられたか
 5. 禁令が与えた影響を見てみよう
 6. 禁令がアジア各地の商館にどう伝えられたかを見てみよう
コラム7 全文翻訳の難しさ
コラム8 内容を理解するには背景知識も必要
 7. すでにある翻訳も活用しよう―軍需品の輸出はいつ禁じられたか―
 おわりに―自分たちの身の回りと比較して考えてみよう―             
  ≪史料の出典一覧≫                    
  ≪もっと広げて考えてみたい方に≫           
  注                            
 
各論
1  オランダ語のカタカナ表記、オランダ人の日本語表記 (松方冬子)
2 通詞のオランダ語を読む (イサベル・田中・ファンダーレン)
3 オランダ語史料を用いた研究 (松井洋子)
4 オランダ東インド会社の構造と史料――日本に着目して (松方冬子)
5 オランダ東インド会社(VOC)の会計システム (橋本武久)
6 オランダ商館長日記と「マルヒナリア」(松方冬子)
7 日本商館の帳簿 (松井洋子)
8 オランダ植民省文書の「フルバール」構造――インデクスの役割 (松方冬子)
9 幕末期の日蘭関係オランダ語史料への入口――横浜領事館文書と関連史料 (水上たかね)
10 東京大学史料編纂所所蔵マイクロフィルムと『日本関係海外史料』の編纂 (松井洋子)
11 オランダ語で読む明治日本 (大久保健晴)
 
資料篇
1 発音と文法
2 ハイフネーションの規則
3 通貨、度量衡について
4 歴代商館長一覧/平戸・長崎来航オランダ船一覧/長崎奉行一覧
5 工具書ならびに便利なウェブサイト案内
  
あとがき 
編者・執筆者紹介

関連情報

書籍紹介:
「新刊寸描」 (『日本歴史』893号 2022年10月)
http://www.yoshikawa-k.co.jp/news/n343.html

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