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黄色い表紙

書籍名

萬葉集研究 第四十二集

著者名

鉄野 昌弘、 奥村 和美 (編)

判型など

476ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2023年3月

ISBN コード

978-4-8273-0542-5

出版社

塙書房

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萬葉集研究 第四十二集

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『萬葉集研究』は、単行本の形を取った論文集で、ほぼ1年に1冊のペースで刊行され、1972年の発刊から本年 (2023) 3月の最新刊まで、42冊を数えている。『万葉集』の名を冠しているが、必ずしも『万葉集』に限らず、記紀・風土記・『懐風藻』など、他の上代文献、あるいは古代日本語や漢語、古代史や東アジアの文学など隣接分野、また上代文学の享受史・研究史等々、およそ上代文学研究に資すると思われる事柄ならば何でも載せる方針を取っている。またこの論文集の特徴は、長さに制限を設けないことにある。雑誌論文などは、長くても400字詰原稿用紙50枚以内が普通であるが、そのスペースに収まらない重厚な論考の発表の場として、この論文集はスタートした。
 
今回取り上げる第42集は、特別な意味のある1冊である。第1集から初期のほとんどの集に執筆し、第15集から第27集までは編者、第28集から第35集までは顧問を務められた稲岡耕二先生 (2021年5月逝去) の追悼集となっている。稲岡先生に東大や研究会等で教えを受けた人たちを中心に、筆者を含め13名が執筆して、学恩に報いることになった。
 
内容は、現在の上代文学研究の拡がりを反映して、多岐にわたっている。巻頭は品田悦一氏 (本学総合文化研究科教授) の「不可解な注記とどう付き合うか――『万葉集』をテキストとして読むために」という刺激的な題の論文で、『万葉集』のあちこちに、一読して意味不明の注記が存在するが、それは背後に大きな政治的事件のあったことを暗示し、その背景とともに歌を読むことを求めているのだと説く。また大津透氏 (本学文学部教授) は、「天武朝の年中行事と人麻呂歌集」と題して、古代史学の立場から、七世紀後半の天武朝に宮廷儀礼が整備された次第を詳細に解明し、柿本人麻呂歌集の七夕歌 (『万葉集』巻十所収) が詠われる条件が整っていたことを示している。そして筆者は、「家持帰京後の宴歌」を執筆した。『万葉集』末尾の巻十七~二十は、大伴家持の作を中心に、日付順に歌が配列され、「家持歌日誌」などと呼ばれる。家持が越中守の任を終えて帰京した天平勝宝3年 (751) の巻十九後半から巻二十末尾 (天平宝字3年 (759)) までは、独詠よりも宴の歌が多く、家持の作歌意欲の減退を表すとされてきた。しかしそれは独詠のみを尊重する近代の偏見で、実際には、藤原仲麻呂の専横が強まり、やがて橘奈良麻呂の変が起こる切迫した政治情勢を、宴の出席者の動向によって描き出し、その中を生き抜く家持が表現されていることを主張した。
 
今後も『萬葉集研究』は、日本上代文学研究の水準を示す論文集として刊行を続けてゆく予定である。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 鉄野 昌弘 / 2023)

本の目次

不可解な注記とどう付き合うか|品田悦一
生と死のあわい|小松靖彦
想像された儀礼としての「望国」|Torquil Duthie
天武朝の年中行事と人麻呂歌集|大津 透
景物としての枕詞「丹穂鳥」|松田 浩
「あかねさす日は照らせれど」考|大浦誠士
萬葉集巻十三は替え歌歌集か|月岡道晴
巻十六「怕物歌三首」について|奥村和美
家持帰京後の宴歌|鉄野昌弘
続・欽明紀の編述|瀬間正之
二者相闘の欽明紀|山田 純
郷歌と義字末音添記法の背景|矢嶋 泉
ヨハ (夜半) 考|山口佳紀

関連情報

関連記事 :
[インタビュー]「vol.43 鉄野昌弘」 (東京大学大学院人文社会系研究科・文学部 2023年8月8日)
https://www.l.u-tokyo.ac.jp/personage/page_00001.html

関連動画 :
「東大教授・鉄野昌弘先生による「令和」の出典 『万葉集』梅花歌序の徹底解説!」 (文学系チャンネル【スケザネ図書館】| YouTube 2021年4月24日)
https://www.youtube.com/watch?v=95_coRq4wwE
 
関連講座:
「『万葉集』巻十七を読む」 (早稲田大学エクステンションセンター 2023年7月5日~9月6日[全8回])
https://biz.second-academy.com/lecture/WSD52298.html

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