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白と赤の表紙

書籍名

万葉集の基礎知識

著者名

上野 誠、 鉄野 昌弘、 村田 右富実 (編)

判型など

456ページ、四六変形判

言語

日本語

発行年月日

2021年4月23日

ISBN コード

9784047037021

出版社

KADOKAWA

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万葉集の基礎知識

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『万葉集』は、日本最古の歌集として、誰もが名は知っているけれども、実際に読まれることは少ない。中高の教科書などに有名な歌は載っているけれども、平安時代の和文を標準とする古典教育の中では、文法も語彙も特殊で扱いの難しい作品として敬遠されているのが実情であろう。本書は、そうした実情に鑑み、少しでも『万葉集』を親しみやすいものにしたいという願いから生まれた。
 
平安時代以降の和歌と比較して、『万葉集』歌の最大の特徴は、「言葉の外部」との繋がりの強さである。つまり平安時代以降、和歌は言葉の上で完結し、実際の出来事や場所の知識は無くても理解できるものになる。それ以前の和歌である『万葉集』歌は、詠われた場や、その時の政治や社会に関する知識抜きでは理解できないのである。そのために、本書は、大きく『万葉集』の「うちがわ」と「そとがわ」という二本の柱を建てた。
 
「うちがわ」は、『万葉集』の概要を説明する部分である。第一章では、全二十巻がどのように構成されているか、どのような成り立ちをしたと考えられるかを記した。第二章では、どのような歌人が、いつ頃どのような作品を作ったか。それによって、どのような歌風の変遷が認められるかをたどった。第三章では、『万葉集』の歌体 (長歌・短歌・旋頭歌)や、技法 (枕詞・序詞・対句・掛詞など) について、分かり易く解説した。第四章では、『万葉集』がどのように書かれているかについて記した。ひらがな・カタカナがまだ存在しない時代、漢字の音訓を組み合わせて、日本語の歌を書く技術の諸相を説明した。第五章では、『万葉集』がいかにして現代まで伝わったかを、テキストの解読と合わせて解説した。漢字だけで書かれた『万葉集』は、いったん読めなくなってしまって、あらためて訓読し直されたもので、訓読の営みは現在も続けられているのである。
 
次に「そとがわ」である。まず第一章は、『万葉集』とその他の文学作品ほかとの関係である。『万葉集』の歌は、それ以前にあったであろう歌謡から発想を汲み上げ、後の作品の中に活かされることで、テキストとしても命脈を保ってきた。その歴史について解説した。第二章は、注釈の歴史である。「うちがわ」で述べた写本の問題とも関わるが、各時代における「読み」がいかなるものであったかが説かれている。第三章は、現代の研究が、どのような方面に発展しつつあるかを、研究方法ごとに概説している。第四章は、『万葉集』の歌と、制作年代の時代状況との関わりについて述べた。第五章は、『万葉集』と中国文学の関係である。漢字だけで書かれた『万葉集』の歌は、必然的に中国文学の影響下にあり、六朝・初唐の詩に倣う形で発展してきたのであった。
 
その後に、名歌を読むコーナー、小辞典による術語解説のコーナーを設けて読者への便宜を図っている。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 鉄野 昌弘 / 2023)

本の目次

はじめに|上野誠
万葉集をみわたす
 
I 万葉集のうちがわ
一、歌のしわけとなりたち|村田右富実
二、歌びととその時代|鉄野昌弘・影山尚之・松田 聡・垣見修司・東城敏毅
三、歌のかたちとくふう|廣川晶輝・大浦誠士・尾山 慎
四、漢字と万葉集|鈴木 喬
五、万葉集を復元する|田中大士
 
II 万葉集のそとがわ
一、万葉集の広がり
   大館真晴・廣川晶輝・鈴木宏子・倉持長子・新沢典子・浅田 徹・鈴木健一・太田真理・月岡道晴
二、注釈書の歴史
   松田聡・新沢典子・渡邊 卓・高松寿夫
三、新しい万葉研究の芽ぶき
   井上 幸・土佐秀里・小鹿野亮・井上さやか・村田右富実・具 廷鎬
四、万葉集とその時代|上野 誠・小田芳寿・土佐秀里・仲谷健太郎・井上さやか
五、万葉集と中国文学|西 一夫
 
III 万葉歌を味わう
   鉄野昌弘 (編) 森 陽香・月岡道晴・鈴木崇大・大島武宙・瀧口 翠
 
IV 万葉集を読むための小辞典
   井ノ口史 (編) 吉岡真由美・大石真由香・中川明日香・阪口由佳・岡田高志
 
附録地図
あとがき 村田右富実
参考文献
主要索引

関連情報

書籍紹介:
山陰中央新報デジタル 2021年7月27日
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/68899

公明新聞 2021年7月19日
https://www.komei.or.jp/newspaper-app/
 
【座談会】『万葉集の基礎知識』刊行記念…小島ゆかり・鉄野昌弘・上野 誠 (『短歌』2021年7月号 2021年6月25日)
https://www.kadokawa-zaidan.or.jp/product/322011000115.html

[動画]「東大教授・鉄野昌弘先生による 万葉集入門講義!万葉集の成立や構造から魅力、オススメ本まで!【万葉集】【令和】」 (文学系チャンネル【スケザネ図書館】|Youtube 2021年5月8日)
https://www.youtube.com/watch?v=LWihqw0UOAg
 
[動画]「東大教授・鉄野昌弘先生による「令和」の出典 『万葉集』梅花歌序の徹底解説!【万葉集】【令和】【梅花歌序】」 (文学系チャンネル【スケザネ図書館】|Youtube 2021年4月24日)
https://www.youtube.com/watch?v=95_coRq4wwE
 
関連講座:
鉄野昌弘「万葉集」全講 (オンライン&朝日カルチャーセンター 2023年1月6日、20日、2月17日、3月17日)
https://www.asahiculture.jp/course/shinjuku/2d5ad602-c926-4bd5-32bd-6356221221ff
 
鉄野昌弘・中田有香「教養として知っておきたい万葉集――恋歌から紐解く心の動き」 (オンライン|School 2021年2月20日)
https://schoo.jp/course/6546

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