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白と柿色の表紙

書籍名

万葉ポピュリズムを斬る

著者名

品田 悦一

判型など

218ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2020年10月7日

ISBN コード

978-4-06-520927-1

出版社

短歌研究社 / 講談社

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万葉ポピュリズムを斬る

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『万葉集』を典拠とする「令和」改元を機に、奉祝ムードが広がった。自民党政権が『万葉集』を利用して国民をいいようにたぶらかしているのに、マスコミはまともに批判しようとしない。座視できない事態である。40年『万葉集』を研究してきた立場として警鐘を鳴らすべく、大急ぎで取りまとめたのが本書である。
 
総理大臣の談話がなされた4月1日に一晩で書いて、新聞に投稿した文章がSNS上に流出し、評判を取った。これをいくらか増補して『短歌研究』誌に掲載した文章が第1章。天平二年に大伴旅人が主催した梅花の宴が、前年に左大臣長屋王が冤罪で処刑された事件に抗議する文化的示威行動だったことを指摘するとともに、「令和」の典拠とされた梅花歌并序の本文を精読すると、〈権力者の横暴を許せないし、忘れることもできない〉という、政府関係者にとっては青天の霹靂ともいうべきメッセージが読み解けるとする。
 
第2章は、かつて東大駒場の「高校生のための金曜講座」で語った内容。「天皇から庶民まで」の「素朴・雄渾・真率」な歌を結集した歌集という、『万葉集』に関する通念が、明治20年代に人為的に構築された幻想であること、国民国家への広汎な帰属意識を醸成することがその目的だったことから説き起こし、近代日本において『万葉集』が果たしてきた役割を概観する。
 
第3章は、第1章をさらに詳しく語り直した講演の記録。「令和」の典拠とされた梅花歌并序のさらなる典拠として「帰田賦」「蘭亭集序」を取り上げ、相互に往還しつつ読みを深める一方、長屋王事件に対する沈黙の批評が『万葉集』の随所に仕組まれていることを指摘する。
 
第4章も講演録。『万葉集』には「天皇や皇族・貴族だけでなく、防人や農民まで、幅広い階層の人々」の歌が収録されているとの通念が成り立たないことを、種々根拠を挙げながら例証する。農民の歌の代表とされてきた東歌を具体例として取り上げ、そのリズムの構造が、定型短歌という宮廷で成立した詩形と完全に一致していることや、当時高価で庶民には手が届かなかった馬を日常的に乗り回す風景が詠み込まれていること、また地名の表現が都人を意識した発想にもとづいていることなどを指摘し、東歌の作者層は在地の豪族たちだったと推定する。 
 
第4章では、律令に「年号」と規定されていた紀年の名称を明治国家が「元号」と改称したこと、この取り扱いは「大日本帝国は万世一系の天皇これを統治す」との大日本帝国憲法の精神とは整合するが、象徴天皇制に基づく日本国憲法の精神には合致しないことをも指摘している。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 品田 悦一 / 2021)

本の目次

一身上の弁明―まえがきに代えて
第1章 「令和」から浮かび上がる大伴旅人のメッセージ(最初の寄稿)
第2章 『万葉集』はこれまでどう読まれてきたか、これからどう読まれていくだろうか
第3章 「令和」から浮かび上がる大伴旅人のメッセージ(よくわかる解説篇)
第4章 改元と万葉ポピュリズム
あとがきに代えて

関連情報

著者インタビュー:
「万葉ポピュリズムを斬る」品田悦一氏 (日刊ゲンダイDIGITAL 2020年11月12日)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/281156
 
書評:
藤井貞和 (詩人・国文学者) 評 「「国民歌集」の政治性を告発」 (東京新聞 2021年1月10日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/78935
 
川野里子 (歌人) 評「万葉集を大胆に読み直す」 (福井新聞 2020年12月13日)
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1223556
 
[読書] 時代と切っ先交わす強さ (沖縄タイムス 2020年12月5日)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/673826

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