人口減少時代に入り、不動産の需要の減少が予想され、空き家や所有者不明土地などが問題となっている。不動産は、景観や防災などの近隣環境から温暖化・生物多様性などの地球環境までの周辺環境に様々な影響を与える。こうした影響に対応する管理の必要性は増える一方で、利用されずに放置される不動産の増加が見込まれる状況では、これらの問題に対処する不動産の「適正な利用・管理」の実現が個々の所有者だけでは難しくなっている。本書は、こうした問題意識の下、不動産ガバナンスを「不動産の適正な利用・管理に向けた多主体による調整とそのための仕組み」として定義し、その観点から関連する法制度の動向、技術的な進展、先行する実践例などを紹介し、今後を展望する書籍である。
第1部実態論では、昨今法改正の進んだ所有者不明土地問題に関連する法制度と実践 (1章) や、空き家・地方物件の流通・利活用に関する不動産テックの技術進展の実例 (2章)、カーボンニュートラルとネイチャーポジティブといった地球環境への影響を考慮した不動産のあり方 (3章)、人口動態と空き家についての定量的な実態把握 (4章) に関する論考から、不動産ガバナンスの課題と対応の全体像を示す。第2部ツール論では、地域のコミュニティ、民間事業者、地方自治体及び国などの多主体の積極的な関与を促す仕組み (5章)、デジタルテクノロジーの可能性を切り開く先駆的なバルセロナの組合型コハウジングの仕組み (6章)、これまでのプライバシーを重視した専有部分中心主義からコミュニティ形成を促す共用部分中心主義への転換をはかる必要性の観点からの最近のマンション再生や管理に関する仕組み (7章)、カーボンニュートラルの実現のための建物の躯体と設備・内装を分離可能にする仕組み (8章) に関する論考から、不動産ガバナンスにおける具体的な制度や建築システムの設計の試みと方向性について論じる。第3部社会システム論では、不動産を持つことが価値にならない負動産のガバナンス (9章)、現代的なコミュニティ像を前提とした地理的に離れた地域の主体同士が連携する離散的ガバナンス (10章)、不動産取引の基礎になる不動産情報の収集から、利用、コスト負担までを統合するガバナンス (11章) に関する論考から、不動産ガバナンスを成り立たせるマクロな条件やその課題について論じる。
不動産は生活に身近なものでありながら、法制度、技術、現場での実践にまたがるため、本書の執筆者は、工学、法学、経済学、行政学といった様々な学問分野の専門家や実務家から構成される。このような多分野の専門家や実務家が議論する中で、個別分野ごとの専門的議論や短期的な解の提示を求められる政府の委員会などの議論では十分議論することのない不動産をめぐる基本的課題が浮かび上がってきた。本書は、このような基本的課題を不動産ガバナンスという観点から整理し提示することを試みたものである。
(紹介文執筆者: 工学系研究科 准教授 中島 弘貴、空間情報科学研究センター 浅見 泰司 特任教授 / 2025)
本の目次
第1部 実態論
第1章 多主体協働と土地ガバナンスの課題――所有者不明土地問題からの検討(吉原祥子)
第2章 不動産テックからみる空き家・地方物件の流通・利活用(成本治男)
第3章 カーボンニュートラルとネイチャーポジティブに対応する不動産のあり方(松橋啓介)
第4章 経済学から見た空き家問題(林 正義)
第2部 ツール論
第5章 土地所有の主体・客体・時間軸の拡張――現代的土地所有権論の素描(松尾 弘)
第6章 住宅を人の手に取り戻す――組合所有の使用権型コハウジングの可能性(吉村有司)
第7章 老朽区分所有建物の更新と多様化する法制度(鎌野邦樹)
第8章 循環型社会のための建築インフィル・システムの動産化(野城智也)
第3部 社会システム論
第9章 縮減社会における負動産管理(金井利之)
第10章 離散的ガバナンス――事物連関の離合集散のデザイン(中島弘貴)
第11章 不動産データにおける「ガバナンス」のあり方(武藤祥郎)
終 章 不動産ガバナンスの未来(浅見泰司、中島弘貴)

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