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白とベージュの表紙

書籍名

コンパクトシティを考える

著者名

浅見 泰司、 中川 雅之 (編著)

判型など

176ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年10月

ISBN コード

978-4-905366-81-2

出版社

プログレス

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コンパクトシティを考える

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コンパクトシティとは、都市の郊外開発を抑制し、市街地の広がりを狭くすることで、公共サービスの効率化、公共交通の利用を促進する都市構造である。日本の公共政策においても、コンパクト+ネットワークを都市政策の考え方を根幹にすえ、その普及を図っている。日本では、人口減少ひいては都市縮退の時代を迎えており、都市サービス水準を維持していくには、都市のコンパクト化の進展が不可避であるという認識になっているのである。ただ、その実現は簡単ではなく、コンパクトシティ化を進めるために法制化された都市再生特別措置法に基づく立地適正化計画を策定しただけで容易に進むものではない。このような背景のもと、本書では、12名のコンパクトシティ関連の研究者により、コンパクトシティ問題について、様々な視点から論じている。
 
本書の総論ではコンパクトシティ化の問題を概観している。コンパクトシティとは何か、その効果として何が期待できるのか、学術研究ではそれがどのように分析されているのか、コンパクトシティ問題に内在する課題は何なのか、解決には何が必要なのかを述べている。
 
第1部ではなぜコンパクトシティ化が必要なのかという問題について論じられている。ここでは、コンパクトシティがどのようにして政策課題になったのか、コンパクトシティ政策が実現できるものは何か、コンパクトシティ政策を進める上での利点とされる集積の経済、コンパクト化の難しさ、コンパクトシティ政策の進め方、コンパクト化を測る指標とその定量的な効果などについて論じている。
 
第2部ではコンパクトシティ実現に関して重要な観点である交通の問題を深堀りしている。不動産ビジネスと交通との関係、コンパクト化を図る上での都市政策のあり方、次世代交通のはたす役割、自動運転技術の影響、コンパクトシティ政策で有名な富山市における経済効果などについて論じている。
 
第3部ではもう一つの重要な観点である環境の問題を深堀りしている。オープンスペースから発想する都市計画のあり方、日本型田園都市の提唱、都市化の環境効果、コンパクトシティと低炭素化の関係などについて論じている。
 
第4部ではコンパクトシティ化の実現に向けた公共政策のあり方について論じている。スポンジ化 (空き地や空き家が多く発生した地域の増加現象) への対処、コンパクトシティ化を進める上での時間概念、そして公共施設配置のあり方について論じている。
 
コンパクトシティについて、多角的な観点があることを十分に理解した上で、今後の有効な都市政策研究や施策立案に資することを願っている。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 浅見 泰司 / 2020)

本の目次

総論 コンパクトシティ化とは
人口縮小時代の都市政策―コンパクトシティ化― …………………[浅見 泰司]
1.コンパクトシティとは
2.コンパクトシティ化の効果
3.コンパクトシティ化の問題
4.コンパクトシティ化の効果分析
5.コンパクトシティ制度の流れ
6.コンパクトシティ問題の根本的な解決:負担問題
7.コンパクトシティ問題の根本的な解決:不動産権利問題
 
I なぜコンパクトシティ化が必要か
 
コンパクトシティ政策がめざす都市や地域とは …………………[海道 清信]
1.コンパクトシティはいかにして政府の推進する目標となったか
2.集中と分散のトレンド
3.画一化と地域性および人口と世帯
4.コンパクトシティ政策は住みたくなる都市や地域を実現できるか
コンパクトシティと集積の経済 …………………[中川 雅之]
1.なぜコンパクト化が必要なのか
 (1) 理論的な整理
 (2) 実態上の意味
2.なぜ都市のコンパクトシティ化が困難なのか
3.行動経済学の視点
4.どのようにして漸新的なコンパクト化を進めるか
 (1) なぜ公共施設の削減が難しいのか
 (2) いかにして公共施設廃止・居住地集約の利害調整を行うか
コンパクトシティ化と都市財政・都市政策 …………………[沓澤 隆司]
1.コンパクトシティ化の都市財政・都市政策上の意義
2.コンパクトシティ化の内容と指標―標準距離の設定―
3.標準距離の大きさが都市財政に与える影響
 (1) モデル
 (2) データの推移
 (3) 推計結果
4.標準距離に影響を与える都市政策
5.終わりに―コンパクトシティ化の課題―
 
II 交通とコンパクトシティ
 
コンパクトシティ政策の動向と不動産ビジネスの転換 …………………[谷口 守]
1.はじめに
2.その動向
3.多様な目的とクロスセクター・ベネフィット
 (1) 生活利便性
 (2) 健康・福祉
 (3) 安全・安心
 (4) 地域経済
 (5) 行政運営
 (6) エネルギー・低炭素化
 (7) 視線環境保全
4.コンパクトシティ政策の現実
5.不動産業界にとってのコンパクトシティ政策
6.公共事業としての減築
7.コンパクト化を目指す上での留意事項 
 (1) 公共交通を圧倒的に便利にする
 (2) 広い空間範囲で考える
 (3) 形だけで考えない
 (4) 関係ない市町村は存在しない
 (5) コンパクト化という名の分散化を行わない
 (6) 大切な首長のリーダーシップ
交通からコンパクトシティを考える …………………[森本 章倫]
1.コンパクトシティをどうやってつくるか
2.街の形成過程と交通の役割
3.次世代交通が果たすべき役割
4.自動運転技術が都市に及ぼす影響
5.交通からみたコンパクトシティ形成
コンパクトシティ化の経済効果―富山市を例に― …………………[唐渡 広志]
1.はじめに
2.人口
3.公共交通
4.住宅
5.商業機能
6.おわりに
 
III 環境とコンパクトシティ
 
日本の風土に根ざした新たな田園都市 …………………[横張 真]
1.都市計画の守備範囲
2.オープンスペースからの発想
3.オーバーレイにもとづく都市農村計画
4.風土に根ざした計画体系
5.変わる空間、変わらない仕組み
6.日本型の田園都市
コンパクトシティと環境 …………………[松橋 啓介]
1.都市と環境
 (1) 都市と公害
 (2) 都市部における交通公害
 (3) 都市に残された環境問題
2.地球環境対策とまちづくり
 (1) 環境的に持続可能な交通
 (2) 低炭素社会2050
 (3) 地球温暖化対策地方公共団体実行計画
 (4) 低炭素まちづくり
 (5) パリ協定
3.コンパクトシティと乗用車Co2排出量
 (1) 市町村別の乗用車CO2排出量
 (2) メッシュ規模別の乗用車Co2排出量
4.コンパクトシティと家庭部門CO2排出量
5.環境からみたコンパクトシティの展望
 
IV コンパクトシティの実現に向けて
 
都市のスポンジ化とコンパクトシティ …………………[饗庭 伸]
1.都市の空間はスポンジ化していく
2.都市の拡大期に都市はどのような問題が発生するか
3.都市の拡大期の都市計画
4.都市の縮小期の都市計画
5.立地適正化計画
6.民間の動き
7.過疎が顕在化しない都市をつくる
8.残された課題
コンパクトシティと「時間」…………………[玉川 英則]
1.はじめに
2.ある「時間」の情景
3.計画論における「時間」とコンパクトシティ
4.テクノロジーの変化という「時間」
5.政策が機能していく「時間」
 (1) 集約化と緑地転換による影響
 (2) 集約化と人口による影響
 (3) 集約化、人口減少と緑地転換による影響
6.結語
施設再配置の必要性―人口分布と病院立地の関係― …………………[豊田 奈穂]
1.はじめに
2.二次医療圏の持続可能性
3.人口分布と医療資源の関係
4.立地の調整と既存制度
5.おわりに

 

関連情報

受賞:
2019年度都市住宅学会著作賞「コンパクトシティを考える」 (公益社団法人都市住宅学会学会賞委員会 2019年11月30日)
http://www.uhs.gr.jp/annai/syo/19_jusyo.html
 
イベント:
CCIFJイベント: 共催セミナー、皆のためのコンパクトシティとは (在日フランス商工会議所 2017年11月29日)
https://www.ccifj.or.jp/ja/actus/n/news/%E5%85%B1%E5%82%AC%E3%82%BB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%BC%E7%9A%86%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E3%83%88%E3%82%B7%E3%83%86%E3%82%A3%E3%81%A8%E3%81%AF.html
 
第 43 回『都市問題』公開講座 誰がためのコンパクトシティ (後藤・安田記念東京都市研究所 2016年7月21日)
https://www.zck.or.jp/uploaded/attachment/1109.pdf

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