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グレーの表紙に大きなタイポグラフィ

書籍名

クロノデザイン 空間価値から時間価値へ

著者名

内藤 廣 (編)

判型など

224ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2020年10月

ISBN コード

978-4-395-32158-2

出版社

彰国社

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クロノデザイン

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以前の土木・建築・都市の設計では、完成直後のデザインの価値、利用者のニーズの空間への具現化が重視されてきた。しかし、近年では、単に完成時点価値を追求するのではなく、長きにわたる存続期間の価値を追求する考え方が浸透しつつある。すなわち、完成後の長きにわたる運用において、経年変化にも留意しつつ、長期間の価値を高めるべくデザインをしようとしているのである。このような、時間を意識し、時間価値に重点を置くデザインのあり方を本書ではクロノデザインと名付けた。クロノデザインを行うためには、建造物の時間的な変化を読み込んでデザインするか、社会の変化に柔軟に対応できるよう可変性を組み込むかが必要となる。ただ、将来に起きるすべての社会変化を読み込むことは容易ではない。結果として、柔軟な可変性を用意するデザイン、育てるデザインが必要となる。日本学術会議内に2017年から3年間設置された「都市・地域とデザイン分科会」において、クロノデザインのあり方の議論がかわされた。本書はその議論を集約し、今後のデザインのあり方を多様な観点からまとめたものである。
 
本書では5つのディスカッションをまとめ、それぞれのディスカッションでは、討論者が自分の専門性からのエッセイをコラムとして執筆し、ディスカッションの中に散りばめられている構成になっている。コラムから発言の趣旨や意図を確認することもできるようになっている。
 
「はじめに」では、クロノデザインという用語の成り立ちや、クロノデザインとは何かについて論じている。第1部「建築をめぐるクロノデザイン」では、育てるデザイン、マネジメント、フレキシブルな空間、予測できないことを楽しむことなど、時間的変化に建築を変えていく考え方が強調されている。第2部「都市をめぐるクロノデザイン」では、動的ゾーニング、子供や子育てに不寛容な社会、ラーバンエリアのデザイン、縮退のシナリオ、暫定利用や変化する建築など、現代都市の課題や今後の社会制度も含めた都市のあり方が論じられている。第3部「土木をめぐるクロノデザイン」では、スマートシュリンキング、入会地の復活、予測不可能性の高まり、モノがコトを支えるなど国土をめぐる状況変化やそれへの対処法について論じている。第4部「情報をめぐるクロノデザイン」では、情報の可視化、アフリカ発の21世紀型都市、暗黙知の地域知化、情報による付加価値など情報技術を用いた価値の増強の仕方が強調されている。「クロノデザインはいかに可能か」では、総括的な討論として、変化し続ける都市、情報化による分散化の可能性、超高層のバラック性、デザインしすぎないデザインなどが議論されている。
 
クロノデザインという時間に留意したデザインのあり方は、今後ますます重要性を増してくると思われる。本書がそのための参考になればと期待している。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 浅見 泰司、城所 哲夫 / 2022)

本の目次

はじめに クロノデザインとは何か 内藤 廣
 
1.建築をめぐるクロノデザイン 赤松佳珠子、神吉紀世子、木下 勇、坂井 文、竹内 徹
 コラム1 変化に対応できる殻 (シェルター) をつくる 竹内 徹
 コラム2 空間のデザインと利用管理のデザイン 坂井 文
 コラム3 「生きられる」場所へ 木下 勇
 コラム4 Humanityと都市・建築の公認化 (Officialize) 神吉紀世子
 コラム5 予測不可能な未来を楽しいものに! 赤松佳珠子
 
2.都市をめぐるクロノデザイン 浅見泰司、嘉門雅史、斎尾直子、福井秀夫、南 一誠
 コラム6 動的プランニング 浅見泰司
 コラム7 大学キャンパスは地域資源か暫定空間か 斎尾直子
 コラム8 将来価値の鑑識眼をどう備えるか 福井秀夫
 コラム9 時とともに、しなかやに変化する建築 南 一誠
 コラム10 リスク社会との共存 嘉門雅史
 
3.土木をめぐるクロノデザイン / 内藤 廣、城所哲夫、田井明、林 良嗣、船水尚行
 コラム11 東京一極集中と社会格差:インクルーシブな都市をいかにつくるか 城所哲夫
 コラム12 将来世代のためのサニテーション価値連鎖 船水尚行
 コラム13 気候変動による水環境への影響予測 田井 明
 コラム14 ポスト・コロナの交通と都市空間デザイン 林 良嗣
 
4.情報をめぐるクロノデザイン / 山本佳世子、伊藤香織、小野 悠、保井美樹
 コラム15 まちを移動する体験から考える 伊藤香織
 コラム16 インフォーマル化する都市の街角から 小野 悠
 コラム17 まちづくりにおける個別化と社会化の再編 保井美樹
 コラム18 現実空間と仮想空間の融合を基盤とした離島支援プロジェクト 山本佳世子
 
総括 クロノデザインはいかに可能か 内藤 廣、浅見泰司、赤松佳珠子、山本佳世子、和田 章
おわりに 和田 章

関連情報

イベント:
出版記念オンライン座談会『クロノデザイン 空間価値から時間価値へ』
内藤廣×浅見泰司×赤松佳珠子×山本佳世子×和田章 (リエゾンセンター・ライブラリー 2020年12月21日)
https://www.youtube.com/watch?v=iNQ28gGm7QA

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