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青い表紙、都市の絵

書籍名

都市の変容と自治の展望

著者名

後藤・安田記念東京都市研究所 (編)

判型など

444ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年3月30日

ISBN コード

978-4-924542-68-6

出版社

後藤・安田記念東京都市研究所

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都市の変容と自治の展望

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本書は公益財団法人後藤・安田記念東京都市研究所の創立100周年記念論文集である。後藤・安田記念東京都市研究所は後藤新平の発案、安田善次郎の寄付にもとづき、1922年に財団法人東京市政調査会として設立されて以降、自主共同研究や受託研究、機関誌『都市問題』の刊行、全国都市問題会議の主催等を通じて、都市と自治の課題についての調査研究とその成果の発信を行ってきた。本書の序文によれば、本書は研究所として長年、取り組んできた課題を、(1) 統御されるべき都市それ自体のありようの面と、(2) 都市の統御を担う制度、特に都市に関する自治の制度の面の両面から捉え直し、「今後、都市を論じていく際の学術的な基礎となるべき新たな枠組み」を提示することを目的として編まれた。本書は2部16章構成となっており、各章の執筆者は研究所所属ではない大学研究者である。「第I部 地方自治と都市の行財政システム」は主に課題 (2) に対応しており、地方自治の制度と概念、実態について、政治学、行政学、法学、財政学を専門とする研究者による論考が並べられている。一方、「第II部 都市の動態と都市政策」は主に課題 (1) に対応しており、持続可能性、グローバリゼーション、環境・エネルギー、福祉社会、都市災害、都市の個性、コミュニティ、貧困といった観点からの現代都市の動態と政策的対応に関して、工学、経済学、社会学を専門とする研究者による論考が収録されている。全ての章が都市と自治という主題に照準を合わせて深堀りを行っている一方で、各章ではそれぞれの学問的文脈において主題を大きく展開させている。つまり、都市と自治という主題に対して、深まりと広がりを両立させた論文集となっている。この点が本書の最大の特徴であり、学術的な意義である。
 
本書の紹介者の一人である浅見は、「第9章 都市の持続可能性の評価」の執筆を担当している。この章では、持続可能性という概念を整理したうえで、都市の持続可能性を測るための指標群、国内外の様々な評価ツールを紹介している。そして、持続可能性の評価にあたっては、現時点のみならず、将来時点における評価を行わねばならず、そのための将来像の設定や指標の値の予測に関して取り組むべき課題があること、一方で持続可能性の評価ツールに関して、総合的な評価結果のみならず、各項目の評価を相対的に把握することで、それぞれの都市の強みと弱みを把握する自己発見ツールとして活用していくことの重要性を論じている。
 
もう一人の紹介者である中島は「第14章 都市の個性とまちづくり――「問題としての都市」の先にあるものへ」の執筆を担当している。この章では、「問題としての都市」観から「都市の魅力」、「都市の個性」への眼差しへと転換していく史的経緯が詳述されている。そして、災害の頻発、地球規模での気候変動を経験するなかで、再び「問題としての都市」の時代に入りつつあるという時代認識を示したうえで、「創造社会」という未来社会の構想を提示し、一人一人の創造性に根ざした「都市の個性」の表出の重要性を論じている。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 浅見 泰司, 教授 中島 直人 / 2023)

本の目次

第1部 地方自治と都市の行財政システム
 第1章 都市と自治|金井利之
 第2章 大都市と自治制度|伊藤正次
 第3章 都市の政治学|曽我謙悟
 第4章 地方自治の法的構造|斎藤 誠
 第5章 地方分権時代における計画行政の諸相|勢一智子
 第6章 政府間財政関係の展開と分権型財政の課題|池上岳彦
 第7章 大都市財政をめぐる税財政制度と運営上の課題|小西砂千夫
 第8章 大都市制度構想に都市型公務員制度は必要か|西村美香
 
第2部 都市の動態と都市政策
 第9章 都市の持続可能性の評価|浅見泰司
 第10章 グローバリゼーションと都市|町村敬志
 第11章 都市経済と環境|諸富 徹
 第12章 福祉社会モデルと都市|広井良典
 第13章 都市災害の動向と都市減災の課題|室崎益輝
 第14章 都市の個性とまちづくり|中島直人
 第15章 都市とコミュニティ|玉野和志
 第16章 都市と貧困|五石敬路

関連情報

書評:
大杉覚 評「都市の可能性と未完の自治・分権」 (『自治研究』第98巻第11号 pp.145-160 2022年)
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/100416.html
 
西村幸夫 評「都市研究の現在と都市の未来――『都市の変容と自治の展望』を読んで」(『都市問題』第113巻第7号 pp.115-118 2022年)
https://www.timr.or.jp/cgi-bin/toshi_db.cgi?mode=saisin
 
関連記事 :
中島直人「行政・企業・アートが共に「いとなむ都市」へ。大丸有エリアにおけるこれからのアーバニズム――YAU SALON vol.3「アーバニズムがわからない」レポート」 (YAU編集室|note 2022年2月26日)
https://note.com/arturbanism/n/n2a0e97ee8883

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