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薄緑の表紙

書籍名

地域文脈デザイン まちの過去・現在・未来をつなぐ思考と方法

判型など

288ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年11月

ISBN コード

9784306073623

出版社

鹿島出版会

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地域文脈デザイン

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本書が主題とする地域文脈とは「私たちが生きる物的環境において、過去から現在、さらには未来への発展的なプロセスのなかに見出される何らかの継承的な構造であり、“価値”」である。都市計画や地域づくりの現場では、久しくこうした地域文脈をいかに読み取り、計画やデザインにおいてそれを継承していけるのかが問われてきた。都市や地域においてある程度の安定した構造に価値を見出し、その構造との親和や調和が志向されてきた。しかし、現代の都市や地域は、新自由主義的経済・政治体制とそのグローバリゼーション、頻発する災害、あるいは人口減少や少子高齢化に伴う社会変容などを原因として、かつてのような安定した構造を前提とすることが難しくなってきている。地域文脈をめぐって、従来の手法や論理では解けない課題が生じている。
 
本書は、こうした現代における地域文脈論の最前線について、4部構成で議論を進める。第I部は地域文脈論の歴史的な展開について、建築集合、都市空間、自然生態の三分野から整理を行っている。現代の地域文脈論は、19世紀末から20世紀初頭の第一波、1950年代から1970年代の第二波に続く、1990年代後半に始まった第三波として位置付けられる。正しいコンテクストの決定不可能性といった認識のうえで、どのような新たな地域文脈論を構想するのかが第三波の課題である。第II部は地域文脈を如何に読み解くか、その具体的な方法について総論とカタログによって論じている。地域文脈が絶対的な価値観としてではなく、主体-環境系による認識として提示される。第III部では、読み取った地域文脈を如何に具体の環境に定着さていくのか、やはりその具体的な実践について、総論とカタログによって論じている。環境と経済の両立、地域の自律性、プロセス・デザインといった点に可能性と課題が見出される。第IV部では、ここまでの読解と定着のデザインを受けて、現在進行中の課題を含む3つのフィールドを設定し、地域文脈デザインを試行し、さらなる課題を浮かび上がらせている。具体的には、明治神宮外苑、筑波研究学園都市、そして福島原発事故被災地である。
 
以上のように、本書は地域文脈を都市計画や地域づくりに生かす地域文脈デザインという方法を豊富な具体的事例に基づき、体系的な整理を行ったのと同時に、今後の課題や展望を提示する書籍となっている。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 教授 中島 直人 / 2024)

本の目次

序文
はじめに
 
第I部 地域文脈論の系譜
1章 地域文脈論の3つの波
2章 建築集合――建築家・建築史家による地域文脈論
3章 都市空間――都市計画家による地域文脈論
4章 自然生態――ランドスケープアーキテクトによる地域文脈論
 
第II部 読解のデザイン
1章 地域文脈を「読み解く」とはどういうことか
2章 地域文脈をとりまく社会情勢の変化
3章 空間組織から社会組織へ
4章 社会組織の変貌
5章 第3波における地域文脈「読解」の課題と定着への足がかり
■カタログ
カタログの位置づけ
新たな読み解き1――区画整理という制度
1 区画整理の変質に現れる地域文脈――帝都復興土地区画整理事業
2 文脈を縫合する歴史的視点による区画整理の読解――東京戦災復興区画整理事業 
新たな読み解き2――建築から集落・都市・地域のスケールへ
3 建築履歴から読み解く都市の地域文脈――松江の官庁街
4 動態的ティポロジア――台湾から
5 生業の転換と空間の適応――佐渡市宿根木集落
6 スペースシンタックス分析で読み解くパサージュ形成の文脈――プラハの都市空間
7 自然環境の構造から読み解く郊外住宅地開発――千里ニュータウン
新たな読み解き3――読み解く主体
8 都市計画と土地の履歴から読み解く初期再開発街区――藤沢391街区
9 暮らしの記憶と歴史的町並み――水郷佐原
新たな読み解き4――災害復興
10 市街地復興の「基準線」としての地域文脈――スコピエ復興
11 リセットされた集落空間と持続する社会組織――ジャワ島中部地震被災集落の復興過程
12 三陸の漁村と反復する津波
 
第III部 定着のデザイン――読解からの実践
1章 地域文脈の「定着」とはどういうことか?
2章 グローバル資本主義下における地域文脈の定着のデザイン
3章 縮退社会における定着のデザイン
4章 災害・復興における定着のデザイン
5章 定着のデザインが示す可能性と課題
■カタログ
カタログの位置づけ
農村における災害後の定着のデザイン
1 災害後の生活文化と社会組織の創造的復旧――新潟県中越地震・山古志村
地方中小都市における定着のデザイン
2 都市再生事業による空間組織の保全活用と社会経済の転換――イタリア・ウルビノ
3 地域文脈の読解と定着の専門職能の教育と実践――近江環人地域再生学座
郊外住宅地・ニュータウンにおける定着のデザイン
4 道と緑の改善による社会空間構造の再構築――豊中市・スロープ公園
5 地域の記憶を継承するグリーンマトリックスシステム――港北ニュータウンの近隣住区論
6 せせらぎと農地とグリーンマトリックスシステムの接続――港北ニュータウンのグリーンインフラ (緑地系統)
大都市圏・都心部における定着のデザイン
7 地域主導の創造的な地域文脈の継承――銀座デザインルール
8 都心開発地区と景観まちづくり――汐留シオサイト
 
第IV部 再び、フィールドでの模索と展望
1章 地域文脈デザインのチャレンジ――都市の現在的課題のフィールドで考える
2章 神宮外苑の地域文脈――フレームを問い直し、フリンジを再検討する
3章 筑波研究学園都市――地域文脈の解体と醸成
4章 福島原発被災地――破断と再編
 
あとがき

関連情報

書評:
『綴葉』No. 417 p. 10 2023年5月
https://www.s-coop.net/about_seikyo/public_relations/images/teiyo-417.pdf
 
書籍紹介:
『新建築』 2023年1月号
https://japan-architect.co.jp/shop/jutakutokushu/jt-202301/
 
関連記事:
中島直人「創造と保全――「神宮外苑地区まちづくり」を巡って」 (驟雨異論|雨のみちデザイン 2023年5月20日)
https://amenomichi.com/shuuiron/nakajima1.html
 
中島直人「東京臨海地域と歴史的・文化的界隈――オリンピック・パラリンピック「東京ベイ・ゾーン」の地域文脈デザイン」 (『都市計画』No. 319 pp. 44-47 2016年2月)
http://ud.t.u-tokyo.ac.jp/research/publications/_docs/img-229182616.pdf

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