東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ベージュと白の表紙

書籍名

ちくま新書 アーバニスト 魅力ある都市の創生者たち

著者名

中島 直人、 一般社団法人アーバニスト (著)

判型など

320ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2021年11月8日

ISBN コード

978-4-480-07437-9

出版社

筑摩書房

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

アーバニスト

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「もし都市の負債を資産に変えようとするならば、都市計画家や測量技師ではなく、より多くの「アーバニスト」と「社会企業家」が必要となる」――これは20年以上前に、イギリスにおける都市再生のムーブメントの中で発せられたフレーズである。本書はここで提示されたアーバニストなる人々に関して、その歴史的な系譜から現在の日本における活躍の諸相までを解説している。本書ではアーバニストを「都市計画の専門家」と「都市での生活を楽しむ人」とが重ねあわせられた、両者の汽水域で活動する人と定義した。つまり、都市をつくるということと都市を楽しむということが一人の人の中でシームレスに存在している。成熟した都市、あるいは「つくる時代」から「つかう時代」へと移行している現代都市においては、そうしたアーバニストが重要な役割を担う。ぜひ、未来のアーバニストたる若い人たちにこそ、本書を手にとってもらいたい。以下、本書の内容を概説しておきたい。
 
第1章ではアーバニストを理解するための補助線として、アーバニズムという概念に着目し、その出自と展開について述べている。19世紀の欧州で生まれた「ユルバニズム」起源の規範概念としてのアーバニズムと、20世紀初頭のアメリカで生まれた都市社会学由来の事実概念としてのアーバニズムがある。現代のアーバニズムには、その二つの概念が合流し、かつ多元化している。問題=都市否定から都市魅力=都市肯定への大きな流れの中で、アーバニズムという概念が多用されている。そうしたアーバニズムの担い手、実践者がアーバニストである。
 
第2章では、日本における都市計画の専門家の系譜を振り返りながら、アーバニスト的なるものがいかにして生まれてきたのかを解説している。特に1990年代以降、都市計画の専門性の枠組みを柔軟に捉え直すアーバニスト的転回が生じていることを示した。
 
第3章では、1960年代に始まる都市肯定論の系譜をたどった。1960年代の新宿に集った若者や詩人たちに出発点とし、1970年代のタウン誌ブーム、1980年代以降の消費・情報化社会における都市論を経て、2000年代から、パブリックスペースやZINEをキーワードとして、人々と都市との新しい関わりが見られるようになっている。
 
以上の3つの章で描いたアーバニストの概念と系譜を前提として、以降の第4章、第5章、第6章では、それぞれ、都市・建築の専門家からアーバニストへ、ビジネスセクターからのアーバニストへ、そして、アーティストやキュレーターからのアーバニストへという、異なるバックグランドからのアーバニストへの流れを、現代の日本の都市で活動する人たちの紹介を通じて、論じた。そして、第7章では、それらの人々の活動を総括し、[1] 都市や地域に対する謙虚な姿勢、[2] 関係性を生み出す柔軟なリテラシー、[3] 開かれた場所の三点をアーバニストに共通する資質として指摘した。その上で、そうしたアーバニストがいかにして生まれるのか、という問いを立て、「都市が人を生み、人が都市を生む」という循環的関係の中に、これからの都市のありようを見出した。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 准教授 中島 直人 / 2023)

本の目次

第1章 アーバニズムの起源とその展開 (中島直人)
第2章 アーバニスト的転回 (中島直人)
第3章 都市肯定論者の系譜 (中島直人)
第4章 都市空間を通じて、都市の営みを再編する (三谷繭子+官 尋)
第5章 地域への眼差しがビジネスを強く、優しくする (平井一歩+大貫絵莉子)
第6章 キュレーター、アーティストたちが生み出すアーバニスト像 (介川亜紀+園部達理)
第7章 アーバニストたちの都市へ (中島直人)

関連情報

一般社団法人アーバニスト
https://urbanist-j.net/
 
書籍紹介:
「【2023年版】都市計画を学ぶためにおすすめの本・入門書13選」 (KAYAKURA  2023年5月15日)
https://kayakura.me/urban-plannning/#co-index-10
 
関連イベント:
「【受付終了】都市へのモチベーションをつむぐ――都市の問診×アーバニスト」 (シティラボ東京 / オンライン 2022年5月20日)
https://book.gakugei-pub.co.jp/event-urban-motivation-20220520/
 
関連記事:
NEW「都市を読み替え、どう遊ぶ?「SCAN THE WORLD」×中島直人が語る東京と再開発、ストリート」 (CINRA 2023年6月5日)
https://www.cinra.net/article/202306-scantheworld_kwtnkcl
 
中島直人「東京の都心の先──アートがもたらす新しいアーバニズムの可能性」 (三田評論 2022年8月5日)
https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/features/2022/08-3.html
 
「都市が人を生み、人が都市を生む――「アーバニスト」としての都市への関わり方」 (『レターズアルパック』第234号 2022年7月号)
https://www.arpak.co.jp/letters/letters234/post4330.html
 
中島直人「アートアーバニズムの始まりに寄せて」 (YAU編集室|note 2022年2月26日)
https://note.com/arturbanism/n/nc7f4c47f11ec
 
関連論文:
中島直人「アーバニズムとアーバニスト――成熟していく都市の循環的な都市デザイン像と求めて」 (『都市+デザイン』第38号 2020年)
http://ud.t.u-tokyo.ac.jp/research/publications/_docs/%E9%83%BD%E5%B8%82%EF%BC%8B%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E7%AC%AC38%E5%8F%B7_%E4%B8%AD%E5%B3%B6.pdf
 
Podcast:
「【#54】アーバニストを育てる街と、アーバニストが集まりたくなる街 (ゲスト: 東京大学准教授・中島直人さん)」
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