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オレンジ、赤、モスグリーンの表紙

書籍名

都市計画の思想と場所 日本近現代都市計画史ノート

著者名

中島 直人

判型など

408ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2018年8月9日

ISBN コード

978-4-13-061136-7

出版社

東京大学出版会

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都市計画の思想と場所

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本書は、日本近現代市計画史に関する思想と場所についての論考を集めたものである。全体を通じて、著者が提起した「開かれた都市計画史」の一つである「クリティカル都市計画史」が展開されている点が新鮮さである。では、「クリティカル都市計画史」とは何か。

著者は序章において、都市計画史研究史の整理を行い、「開かれた都市計画史」の理念型を提示している。1970年代に本格的に開始された都市計画史の研究領域では、これまでにも数多くの優れた研究が行われてきたが、本書では、3人のパイオニアのアプローチの比較から「通史展望」、「本質探求」、「計画遺産」という都市計画史研究の基本的な視座を導き出した。さらに「社会への還元」という価値に基づいてそれらの視座を再整理し、「パブリック社会学」の枠組みを援用することで、従来的な「プロフェッショナル都市計画史」の開き方として、「ポリシー都市計画史」・「クリティカル都市計画史」・「パブリック都市計画史」という理念型からなる枠組みを理論的に提示した。ここで、「クリティカル都市計画史」とは、都市計画の専門家に対して、究極的には都市計画とは何かという省察的な問いを与える都市計画史として構想されている。

序章に続く各部では、多様な主題が扱われているが、著者自身が提起した「クリティカル都市計画史」の実践というかたちで、一貫して思想と場所の観点から都市計画に関する骨太な問いを立て、思考を重ねている。具体的には、第一部「都市と都市計画家」では石川栄耀や高山英華らの都市計画家の思考の軌跡を跡付けることで「都市計画は都市とどう向き合うべきか」を、第二部「まちづくりと都市デザインの思潮・運動」では、郊外、民主化、まちづくり、都市デザイン等の既存概念の起源の探求を通じて「都市計画の主体はどうあるべきか」を、第三部「東京の場所性と都市計画家」では、東京の具体的な地域、界隈の都市計画史の解明を通じて「都市計画はいかにして場所を生み出せるのか」を、「第四部 記憶の継承と都市計画遺産」では、三陸沿岸都市および藤沢の再開発街区の都市計画史を通じて「都市計画の遺産はどのような意味、価値を持っているのか」を問うている。歴史的事実の解明に留まらない、都市計画に対する省察的問いを発する都市計画史研究の可能性を示している。

そして、結章では、非専門家も含む広い人々に対して開かれた都市計画史である「パブリック都市計画史」の姿について、仮説的なスケッチを試みているが、その実践は今後の課題として残されている。

 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 准教授 中島 直人 / 2019)

本の目次

序  日本近現代都市計画史ノート  都市計画の思想と場所を求めて

第1部  都市と都市計画家
      1  日本近代都市計画における都市像の探求
      2  「中心市街地活性化」のアーバニズム
      3  石川栄耀による都市探求
      4  石川栄耀と「都市」に向き合う都市計画家
      5  高山英華による都市計画の学術的探求
      6  高山英華の戦時下「東京都改造計画」ノート
      7  つくる都市、できる都市、いとなむ都市

第2部   まちづくりと都市デザインの思潮・運動
      8  郊外風景の思想史
      9  民間保勝運動の展開と理念
      10  「都市計画の民主化」を巡って
      11  「都市デザイン」の誕生
      12  大髙正人の「PAU」 建築と社会を結ぶ方法
      13  「三春町建築賞」による地域の建築文化向上の試み

第3部  東京の場所性と都市計画
      14  東京 多様なアーバニズムのアリーナ
      15  浅草「昭和の地図」の想像力
      16  「湯立坂の景観」の共有範囲
      17  都市計画事業家・根岸情治と池袋駅東口地下街
      18  新宿駅西口広場の問いかけ
      19  東京臨海地域の歴史的文脈

第4部  記憶の継承と都市計画遺産
      20  岩手の詩人計画者たち
      21  東日本大震災と都市計画史1  計画遺産
      22  東日本大震災と都市計画史2  記憶と意図
      23  東日本大震災と都市計画史3  デジタル・アーカイブ
      24  戦後都市計画史における藤沢391街区
      25  再開発ビルをストックとして評価する3つの視点

結  都市計画史の語り手は誰か?

関連情報

受賞:
2020年日本建築学会著作賞を受賞 (日本建築学会 2020年)
https://www.aij.or.jp/2020/2020prize.html
https://www.aij.or.jp/images/prize/2020/pdf/4_award_004.pdf

2018年度日本都市計画学会論文賞を受賞  (日本都市計画学会 2019年5月31日)
https://www.cpij.or.jp/com/prize/award/list.html
http://www.utp.or.jp/news/n29683.html

イベント:
都市史学会主催書評会 中島直人著『都市計画の思想と場所 日本近現代都市計画史ノート』 (都市史学会 2019年9月13日)
http://suth.jp/event/20190913/

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