
書籍名
「電チャリ通」から考えた地域づくり 高校生と一緒に作った安全な町
判型など
196ページ、四六判
言語
日本語
発行年月日
2025年4月12日
ISBN コード
978-4-13-053202-0
出版社
東京大学出版会
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
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本書は、国際交通安全学会という学会において私がプロジェクト・リーダーとして進めてきた研究プロジェクトの成果をまとめたものであり、中山間地域における高校生の通学問題という具体的課題を出発点に、教育と社会の接続を実証的に描き出すことを目指したものである。
本書の独自性は、電動アシスト付自転車 (e-bike) を活用した「電チャリ通」という実践を核に据えつつ、それを単なる交通手段の改善にとどめず、教育的実践として再構成している点にある。いわゆる中山間地域に位置する大阪府立豊中高等学校能勢分校では、公共交通機関の制限 (=具体的にはバスの本数の削減) によって生徒たちが「通学困難」に直面したことをきっかけとして、先生や生徒たちに加えて、研究者、行政、地域住民、企業といった多様なステークホルダーたちが連携しながら、この問題の解決を目指すことになった。その解決策として私たちが提案したのが「電チャリ通」であった。このように、多様な主体の協働を前提とした問題解決の枠組みを提示したことは、従来の教育学研究にはあまり見られない特徴と言えるだろう。
このプロジェクトで私が重視したのは、交通工学や都市計画、環境経済学といった異分野を統合しつつ、教育学的観点からその効果を検証することであった。本書では、生徒たちの運転行動の記録・分析や交通安全教育の実施、さらには地域とのワークショップを通じた課題共有など、複数のアプローチを組み合わせている。 こうした学際的手法は、現実の社会問題が単一の学問領域では解決できないことを示すと同時に、教育学研究の新たな可能性を提示するものだと考えている。
また、本書はシティズンシップ教育の実践的モデルを提示することも重要な目的としている。高校生たちは、単なる学習者としてではなく、地域社会の課題解決に主体的に関わる存在へと変化していく様子を描くことを心掛けた。生徒たちは、自らの通学問題を契機として地域の交通環境や社会構造に目を向け、ワークショップを通じて大人たちと議論し、具体的な改善策を提案していった。この過程は、知識の習得にとどまらない実践的な学びを生み出し、主体的に社会へ参加する力を育むことになったと考える。それをより具体的に感じてもらうために、本書ではプロジェクトに参加した高校生たち自身による文章も載せている。それらの文章では、高校生たちが感じたり考えたりしたことが率直に述べられており、きっと読者の方々もプロジェクトの様子をリアルに想像できるであろう。
さらに、本書の社会的意義という観点から見れば、人口減少や高齢化、公共交通の衰退といった日本の地方が抱える構造的課題に対して、教育を通じた新たなアプローチの可能性を提示したということが言えるだろう。とくに、これまで高齢者中心に議論されがちであった「交通弱者」の問題に対して、高校生という若年層の視点を導入した点に意義があると考える。さらに、生徒の活動が地域社会の意識変化を促し、ミクロな課題がマクロな社会変革へとつながりうることも示している。
以上のように、本書は教育と社会を結びつける実践研究として、独創性と意義があると考えている。本書が、身近な問題から出発して社会に働きかける学びのあり方を具体的に理解する手がかりとなり、学術的営みの社会的役割を考えるうえでも参考になるのであれば、プロジェクト関係者一同、望外の喜びである。
(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 教授 北村 友人 / 2026)
本の目次
本プロジェクトと豊中高校能勢分校の関わり(菅原 亮)
第1章 なぜ「電チャリ通」が必要だったか (北村友人)
中山間エリアの高校生たちにとっての通学課題/能勢分校における「電チャリ通」プロジェクトの立ち上げ/中山間エリアとしての能勢町
第2章 「電チャリ通」の実態と交通安全(岸上祐子)
地域魅力化クラブとe-bikeプロジェクト/事故が多い自転車運転の安全性を高めたい/自分事になる通学路の事情/地域に関わる人たちも視野に/プロジェクトに関わって
能勢分校生たちの声・1
1.導入前から導入直後/2.プロジェクトが動き出して/3.入学前に期待していたこと
第3章 「電チャリ」環境改善のための地域の大人たちとの協働(葉 健人)
扱う問題と一連のワークショップのねらい/交通インフラワークショップ(WS[1][2]):チャリ通における道路利用環境の課題の発見と提案/地域協働ワークショップ(WS[4][5]):高校生と地域の大人の協働による課題解決/まちづくりワークショップ(WS[3][6][7]):電チャリのまちづくりでの活用への展開/
能勢分校生たちの声・2
1.交通安全ワークショップに参加して/2.普段の学びとの違い
第4章 地域の課題、地域を変える(岸上祐子)
高校生からはたらきかける/地域と能勢分校/地域循環へ/若者の視点と愛着へ
第5章 生徒の電チャリ運転行動を変える(吉田長裕)
交通安全教育の現状/そもそも交通安全教育の目的は何なのか/プロジェクトの目的/採用した行動モデル/行動変容の検証方法/対象/行動モニタリング調査/行動モニタリング調査の結果/WS前後での運転技能の変化/WS前後での運転行動の変化/行動変容要因の分析/探究的学習効果の分析/おわりに
第6章 高校生との協創的教育による自己効力感と行動意欲 (葉 健人)
はじめに/先行研究の整理と本研究の位置づけ/交通に関する協創的な教育の概要とその狙い/協創的な交通教育による意識変容/本章のおわりに
コメント・これからの交通社会のあり方を考える
「若者のポジティブ感情が導く持続可能な交通まちづくり」(土井健司)
「将来の子どもたちの幸せにつながるインフラとは」(馬奈木俊介)
第7章 高校生たちが主体的に参加する地域課題改善モデル(北村友人)
プロジェクトの活動とねらい/高校生による地域課題改善モデル
e-bikeプロジェクトがもたらした能勢の変化(上西将司)
おわりに 高校生が変わると地域が変わる(北村友人)

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