本書は、難聴を研究テーマとする研究者と、執筆者を含む当事者として難聴をもつ研究者が集い、2011年に発足した研究会「難聴者の心理学的問題を考える会」を母体として編まれました。執筆者は、臨床心理学・社会心理学・発達心理学・認知心理学、医学など多領域からの方々で構成されています。研究会のメンバーで日本心理学会大会において自主ワークショップや公募シンポジウムを継続的に実施してきた知見を基盤としています。
日本には、潜在的に1,000万人規模の難聴者がいるといわれています。本書は、本人・周囲ともに気づかれにくい「聞こえ」の困難が、日常生活や本人の心理、行動にどのような影響を及ぼすのかを整理し、その理解と支援のあり方を国内外の知見に基づいて検討しています。一方で、堅苦しい内容とならないように、「です・ます」調を用いてできるかぎり平易な言葉で綴ったり、身近なエピソードを紹介したりするなどの工夫もこらしています。
本書の構成を紹介すると、筆者が担当した第1章では、難聴を引き起こす希少疾患によるなかなか判明しなかった体験も紹介しながら聞こえづらさに伴う諸問題を概観しました。具体的には、難聴と心の健康との関わりや、当人にも周囲の人々にもサポートが必要であることなどについてです。つづく第2章では、難聴の原因と対策を医学的な面から示しています。第3章「聞こえづらさと偏見」では、聞こえづらさがいかにスティグマとされるか、第4章「高齢期の難聴」では特に加齢性難聴とその心身への影響についてとりあげています。第5章「難聴者・中途失聴者の心理臨床的理解」と第6章「聴覚障害児における心理臨床的問題」では、いずれも難聴児・難聴者への心のケアの問題をとりあげていますが、中途失聴や軽度・中等度の難聴者などこれまであまり注目されてこなかった難聴者の問題を前者では取扱、後者では聴覚障害児だけでなく保護者やきょうだいの悩みについても述べられています。第7章「難聴者の情報保障」では、音声がキャッチしづらい難聴者に文字など別の手段で情報を伝えてアクセスできるようにする情報保障の現状を扱います。また、コラムでは、聞こえているのに聞き取れない聴覚情報処理障害、難聴者がどのように聞こえているのか、聴覚過敏などのトピックを取り上げ、当事者も含めた複数名の執筆により経験知を反映しました。
このように、難聴の実態や心理、医学的側面から偏見・情報保障までを視野に入れ、当事者を含む研究者、医療従事者、実践家グループの知見をもとに体系的に整理した、実務と学術の橋渡しとなる入門書です。難聴のある当事者のみならず、家族・友人、支援職、医療・福祉・教育関係者が、現状把握と支援の手がかりを得るための一冊です。
(紹介文執筆者: 先端科学技術研究センター 特任助教 勝谷 紀子 / 2025)
本の目次
第1章 聞こえづらさにまつわるさまざまな問題
第2章 難聴の原因と対策
第3章 聞こえづらさと偏見
第4章 高齢期の難聴
第5章 難聴者・中途失聴者の心理臨床的理解
第6章 聴覚障害児における心理臨床的問題
第7章 難聴者の情報保障
おわりに
関連情報
勝谷 紀子
研究時評: 難聴者・中途失聴者への心理的支援のあり方について ―軽度・中等度難聴、一側性難聴、聴覚情報処理障害への支援の提言― (『特殊教育学研究』60巻3号p.159-169 2022年11月30日)
https://doi.org/10.6033/tokkyou.60.159
特集: 見えにくい難聴者と困難と支援のあり方
「聞こえにくい」ということ――難聴者が直面する多様な問題 (『月刊保団連』No.1361 2022年2月)
https://hodanren.doc-net.or.jp/books/hodanren22/gekkan/pdf/02/04-09.pdf
https://hodanren.doc-net.or.jp/books/hodanren22/gekkan/2202.html
勝谷 紀子, 今尾 真弓, 高宮 明子, 名畑 康之, 小渕 千絵, 佐野 智子
日本心理学会第84回大会 公募シンポジウム『難聴者・中途失聴者の心理学:聞こえにくさをかかえて生きる』 (日本心理学会大会発表論文集 2020年9月8日)
https://doi.org/10.4992/pacjpa.84.0_SS-047

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