東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に黒とオレンジの大きな題字

書籍名

障害という経験を理解する 社会と個人へのアプローチ

著者名

ダナ・S・ダン (編著)、 勝谷 紀子、 佐藤 剛介、柴田 邦臣、髙山 亨太 (監訳)

判型など

480ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2025年3月20日

ISBN コード

9784762832802

出版社

北大路書房

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

障害という経験を理解する

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本書は、Dunn, Dana S.編著『Understanding the Experience of Disability』(2019, Oxford University Press) の翻訳です。執筆者は第1章「障害という経験を理解する」と第3章「障害を判断する」を担当しました。本書の考え方と全体の構成を解説しているこの章をもとに紹介すると、障害はこれまで個人の問題として還元的に捉えられがちでした。本書の目的は、そうした単純化を超え、社会心理学およびリハビリテーション心理学の立場から、個人的な要因だけでなく社会的な要因にも焦点を当てて障害という経験をどう照らすかを示すことです。特に『本質主義』的な見方を変えることを目指しています。本質主義とは、人や事物に本質的で不変の性質があるとみなし、障害を“その人のすべて”として捉えてしまう傾向です。本書が目指すのは、障害を多くの特徴のひとつにすぎないものとして理解する立場です。障害者に対する態度やバイアス、ジェンダーや文化的背景、職場や家族関係、政策との関連など、広範なテーマを扱いながら、「障害」という経験がどのように形づくられるかを考察しています。
 
本書の構成は全4部、22章からなり、各部で異なるトピックを幅広く扱っているのが大きな特色です。第I部「確立された研究分野」では、障害に対するスティグマや偏見、バイアスなど、長年研究が蓄積されてきたテーマを扱います。たとえば、第2章では「障害のスティグマ」について、知覚者側と当事者側の視点を整理し、その低減に向けた課題を検討しています。第3章「障害を判断する」では、社会心理学とリハビリテーション心理学の両分野における障害者に対する判断のバイアス研究を取り上げており、認知や判断のバイアスがいかに障害者に対する判断にも影響するかを示しています。
 
第II部「主流のトピック」では、障害のある女性の経験 (第8章) や、文化や人種との交差 (第9章)、老化と障害の関係 (第12章) など、近年特に注目される視点が取り上げられています。第III部「新たな問題」では、職場における障害の捉え方 (第13章) や、自己決定やレジリエンスといった個人要因と社会環境の相互作用 (第18章・第19章) に焦点を当てています。第IV部「不公正,アドボカシー,社会政策の問題」では、障害に関する社会的不公正 (第20章) やアドボカシー (第21章)、特に米国における政策との接点 (第22章) を通じて、制度レベルでの課題と実践的視点を扱っています。
 
第1章の最後に全体を通したメッセージが書かれています。それは、障害者の生活に影響を与える要因のうち障害そのものはその一つにすぎず、影響は比較的小さいというものです。障害者の生活を広い視野で捉えることが障害者・非障害者双方にとって有益だとも指摘しています。
 
本書は、障害を「個人の問題」としてとらえる障害の個人モデルから脱却し、社会的文脈の中で障害を多角的に理解するという視点を提供するものです。障害のある当事者はもちろん、支援者、家族、教育・福祉・行政関係者、また心理学や社会学を学ぶ学生にも幅広く活用できる内容となっています。本書をきっかけにこれまでとは違った視点で障害について考える機会となればうれしいです。
 

(紹介文執筆者: 先端科学技術研究センター 特任助教 勝谷 紀子 / 2025)

本の目次

監訳者まえがき
はじめに
序文と謝辞

第1章 障害という経験を理解する――社会心理学・リハビリテーション心理学の視点から
1. 確立された研究分野
2. 主流のトピック
3. 新たな問題
4. 不公正,アドボカシー,社会政策の問題
5. 障害に対する社会心理学的視点

第I部 確立された研究分野

第2章 障害のスティグマ――原因,結果,変化のための方略
1. 知覚者の視点:障害に関するスティグマはどのように持続するのか
2. 障害者の視点:障害に関するスティグマはどのように経験されるのか
3. 障害に関するスティグマをどのように減らすのか:可能性と落とし穴
4. おわりに

第3章 障害を判断する――社会心理学とリハビリテーション心理学で見出されたバイアス
1. 社会心理学的バイアス
2. リハビリテーション心理学で研究されているバイアス
3. おわりに

第4章 障害者への「無能だが温かい」ステレオタイプが選択的共感をもたらす――認知・感情・神経における固有の特徴
1. 両面価値的ステレオタイプが障害のある外集団への選択的共感を支える
2. 知覚された責任が障害者への共感を調整する
3. 障害者という外集団への共感と相関する神経活動
4. 内集団と外集団の共感における神経的差異
5. おわりに

第5章 障害者に対する偏見を減らす
1. 偏見を減らすための様々な戦略
2. 職場における偏見低減戦略
3. おわりに

第6章 リハビリテーション心理学の基礎原理と社会心理学の理論――グローバルヘルスにおける交差とその応用
1. リハビリテーション心理学の基礎原理
2. おわりに

第7章 障害へのコーピングと適応に影響を与える心理・社会的要因
1. コーピングと適応のモデル
2. コーピングと適応に関連する研究
3. おわりに

第II部 主流のトピック

第8章 障害のある女性たち――社会的な挑戦の中で女性らしさを保つために
1. 障害のある女性へのステレオタイプ
2. セクシュアリティと交際関係
3. セクシュアリティ
4. 虐待
5. 役割の転換と自己意識の保持
6. おわりに

第9章 化,種,障害
1. 定義
2. ⼈種・⺠族的マイノリティグループにおける障害を有する割合
3. 理論的枠組み
4. 障害における⽂化的側⾯
5. 提⾔と結び

第10章 性格と障害――多様なより糸から織り成される学術的タペストリー
1. 最初の糸:学術的理論,臨床的ニーズ
2. 社会的認知の多彩なより糸
3. タペストリーの全景:すべてが織り成された先に
4. パーソナリティに関する理解の今後の方向性と深化

第11章 ソーシャルサポート,慢性疾患,障害
1. ソーシャルサポート
2. 構造的サポート
3. 機能的サポート
4. おわりに

第12章 老化と老化に関連した障害
1. 老化の構成要素
2. エイジングパラドックスと後天性障害
3. 高齢者における過剰な障害
4. 老化による障害の社会的要因
5. おわりに

第III部 新たな問題

第13章 職場における障害
1. 障害の定義とカテゴリー化
2. 労働力における障害の歴史
3. 障害者を雇用するメリット
4. 労働力における障害者の課題
5. よりインクルーシブな職場環境の構築
6. おわりに

第14章 障害者に対する潜在的態度と行動
1. 障害に関するスティグマ
2. 態度の二重過程
3. 障害者に対する二重の態度と行動
4. 研究からの示唆と今後の方向性
5. おわりに

第15章 障害者の自己カテゴリー化,アイデンティティ,自尊心の研究
1. 社会的アイデンティティ理論
2. 主な障害者アイデンティティの構成要素
3. 主要な研究成果

第16章 家族,子育て,障害
1. 障害児と共にある家族
2. 成人における関係性
3. 障害のある親
4. おわりに

第17章 ポジティブ心理学と障害
1. 問いの3 水準
2. ポジティブ心理学的介入
3. おわりに:リハビリテーション心理学と障害研究に対する示唆

第18章 自己決定の社会心理学と障害
1. 自己決定
2. 自己決定と障害
3. おわりに

第19章 レジリエンスと障害――個人内要因,対人的要因,社会環境要因
1. 個人内要因
2. 対人的要因
3. 社会環境
4. おわりに

第IV部 不公正,アドボカシー,社会政策の問題

第20章 不公正評価と障害
1. 健康状態を理由とした不公正評価の定義とその位置付け
2. 現状におけるエビデンス
3. 今後の方向性
4. おわりに

第21章 新時代のための障害のアドボカシー ――社会心理学の活用と変化のための社会政治学的アプローチ
1. 障害のアドボカシー:過去そして現在
2. 障害のアドボカシー研究が検討する課題
3. おわりに

第22章 社会政策と障害――リハビリテーション心理学実践,研究,そして教育への影響
1. 障害に関する公共政策の概要
2. リハビリテーション心理学の実践および教育,公共サービスへの展開

文献
人名索引
事項索引
監訳者あとがき
 
著者一覧: 藤村励子、田戸岡好香、橋本博文、前田楓、吉田仁美、中村日海里、髙橋純一、佐野智子、石井国雄、唐牛祐輔、浅井暢子、相羽大輔、橋本京子、栗田季佳、松崎良美
 

関連情報

原著:
Dana S. Dunn編著『Understanding the Experience of Disability - Perspectives from Social and Rehabilitation Psychology』 (Oxford University Press 2019年)
https://global.oup.com/academic/product/understanding-the-experience-of-disability-9780190848088
 
関連記事:
佐藤 剛介, 勝谷 紀子, 橋本 博文, 佐野 智子, 橋本 京子
日本心理学会第89回大会 公募シンポジウム会議録
『障害という経験を理解する』から考える―心理学における障害研究の現在地と可能性― (日本心理学会大会発表論文集 2025年9月5日 – 9月7日)
https://doi.org/10.4992/pacjpa.89.0_117
 
小特集: 佐藤剛介「障害に関する心理学的研究の必要性」 (機関紙『心理学ワールド』102号 2023年7月号)
https://psych.or.jp/publication/world102/pw09/
 
小特集: 勝谷紀子「障害の社会モデル」 (機関紙『心理学ワールド』102号 2023年7月号)
https://psych.or.jp/publication/world102/pw07/
 

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