昆虫の匂い源探索を担う神経回路を解明 感覚入力から行動出力を繋ぐ4領域を特定

東京大学先端科学技術研究センターの神崎亮平教授らの研究グループは、昆虫の脳内において匂い情報を処理する経路を特定し、匂い情報の入力から行動を起こすための情報に変換されるまでの全過程をはじめて明らかにしました。
昆虫の触角で検出された匂い情報は、まず感覚中枢に送られ、いくつかの経路を経て最終的に脳の前運動中枢で行動を起こす命令(行動司令信号)に変換されることが知られていました。しかしその中間の経路は、未開の領域と形容され、ほとんど明らかにされていませんでした。
研究グループは、まずカイコガの特定の神経細胞を複数、同時に染色できるマス染色法を用いて、特定の神経集団を染色し、脳内における神経経路の接続関係を明らかにしました。そして、脳内の各領域に微小電極法を適用することにより、脳内の匂い情報に対する反応を評価して、機能的に接続している4つの脳領域を特定しました。
このうち、前運動中枢である「側副葉」が運動司令信号の形成に重要な役割をもつことがわかりました。側副葉は、解剖学的に上部と下部に分けられ、上部には他のさまざまな脳領域からの神経細胞との結合(投射)が集中しており、側副葉上部は前大脳のハブとなっていること、側副葉下部では、側副葉上部からの信号を変換し、歩行を司令する持続的な活動を生成することを明らかにしました。
本研究成果により、微小な脳で行われている昆虫の匂い源探索行動において、感覚入力から行動出力を担う全ての経路が特定され、前運動中枢においてどのように行動のための司令信号が生成されるか、そのしくみの一端が明かになりました。今後、蚊などの有害昆虫の行動を制御したり、匂い源探索ロボットを開発したりするための手がかりとなることが期待されます。
論文情報
Shigehiro Namiki, Satoshi Iwabuchi, Poonsup Pansopha Kono, Ryohei Kanzaki,
“Information flow through neural circuits for pheromone orientation”,
Nature Communications 5, 5919: 2014 , doi: 10.1038/ncomms6919.
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